弁理士の日々

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吉井義明「草の根のファシズム」

2008-12-19 19:33:46 | 歴史・社会
最近、加藤陽子著「満州事変から日中戦争へ―シリーズ日本近現代史〈5〉 (岩波新書)」を読んだのですが、その中で以下の書物が参照されていました。
草の根のファシズム―日本民衆の戦争体験 (新しい世界史)
吉見 義明
東京大学出版会

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はじめて知った書物です。
単行本のようなので、図書館から借りてみることにしました。私は基本的に文庫と新書しか購入しないものですから。

日中戦争から太平洋戦争にかけて、日本民衆が戦争をどのようにとらえ、自分の戦争体験をどのように認識していたか、それを、一人一人の民衆の声を収録することによって明らかにしようとするものです。出版物や私家本として、多数の従軍記や回顧録、日記が世の中に出ています。著者の吉見氏は、実に丹念にこれらの書物を紐解き、その中から真実を語っていると思われるものをピックアップしました。

著者は、これら民衆の体験記を通して、日本民衆が戦争に組み込まれ、天皇制ファシズムの担い手になっていく様子をあぶり出そうとします。しかし作者のそのような意図を取り敢えずは無視してかまいません。この本に掲載されている日本民衆の戦争体験記を丹念に追っていくことで、読者は戦争の実態を直視することができるのです。その点にこそ、この本の存在価値があります。多くの戦争体験記著書の中から、真実を語っていると思われる著書をピックアップし、よくぞ1冊の本に著してもらえたとその点に感謝します。

戦争の極限状況の中で、戦争に投入された兵隊たちは異常な心理状況に置かれます。そのような中、憲兵の監視が行き届かず、罰則が存在しないような場合には、兵隊はいくらでも残虐になり得るのです。そのような事実がこれでもかこれでもかと語られます。

そしてその残虐行為の犠牲になったのが、日中戦争であれば中国人民であり、太平洋戦争であればフィリピン、インドネシア、シンガポールその他の国々の人民でした。

ついこの間も、田母神氏は「日本は侵略国家であったのか」と題する論文で最優秀賞を取りました。おそらく田母神氏は、日中戦争と太平洋戦争において日本軍が行った残虐行為については、知らないかあるいは見て見ぬふりをしているものと思われます。この点をしっかり見据えて論考しない限り、侵略云々について語ることはできないと断言できます。

先日の日経新聞で「村山談話」の成立の経緯について記事がありました。若干の政治家による村山談話賛否が掲載されていましたが、いずれも賛否の根拠については全く触れられず、先の戦争の実相をどれだけ精査した上での意見なのか、疑問に感じざるを得ませんでした。

日中戦争と太平洋戦争において、現地人に対して日本軍がどのような行動を取っていたか。今まで以下のような本から情報を得ていました。
保坂正康「昭和陸軍の研究 上 (朝日文庫)」(上・下)この本についてはこちらで記事にしました。
秦郁彦著「南京事件―「虐殺」の構造 (中公新書)
小松真一著「虜人日記 (ちくま学芸文庫)
石川達三「生きている兵隊 (中公文庫)
五味川純平「人間の条件〈上〉 (岩波現代文庫)

これらの書物に、今回「草の根のファシズム」が加わりました。
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