弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

大合議判決は確定したか

2008-12-12 21:26:44 | 知的財産権
今年5月30日に出された知財高裁大合議判決(平成18年(行ケ)第10563号)については、このブログでもこちらこちらで取り上げました。いわゆる「除くクレーム」とする補正は、出願当初明細書の記載から自明でなくても、例外的に新規事項追加とはしない、というのが特許庁の実務であり、審査基準にもそのように記載されています。それに対し、「それは特許法違反である」として原告が主張しました。知財高裁は、「例外として認められるのではなく、特許法の原則として認めることができる」とし、原告の主張を退けました。

この知財高裁判決に対し、敗れた原告は上告受理申立をしていないと理解していました。その理由は、当該審判についてIPDLで調べると、「審決確定」と表示されていたからです。たまたま今年の9月14日にアクセスしたIPDLの結果をプリントアウトして持っていましたので、そのイメージを下に示します。

確かに、平成20年7月17日に「確定登録」したことになっています。またこの点については、11月11日の当ブログ記事における討論の中で、私とMDさんがその時点のIPDLを見て、「確定登録」が記載されていることを確認しました。

ところで最近、雑誌AIPPIの11月号に掲載されている、『いわゆる「除くクレーム」とする訂正の許容範囲』という記事を読むことができました。小野寺良文弁護士による記事です。
そしてその冒頭に「なお、本判決に対しては、原告により上告受理申立が為されている」と記載されているのを発見しました。おや?と思い、もう一度IPDLを確認したところ、何と、以前は見ることのできた「確定登録」が消滅しているではないですか。

一体どういうことでしょう。
上告受理申立はなされているのでしょうか。IPDLから「確定登録」は消滅しているものの、一方で上告がなされている旨の記載も見あたりません。
これは謎です。


ところで、AIPPIに掲載された記事です。

私はこの判決を読んで、以前にも述べたとおり、「除くクレーム」が合法であると認められたに止まらず、「新規事項追加ではない、とされる補正の範囲が従来の実務よりも広がっていると解釈できる」と読みました。

AIPPI記事で小野寺弁護士はどのように論評しているでしょうか。
「本判決の基準に拠った場合、運用次第で却って補正・訂正の許容範囲が不明確になる恐れもあり、この後の審決例・裁判例に注目する必要があるものと思う。」
「本判決は、「明細書又は図面に具体的に記載されていない事項を訂正事項とする訂正についても、・・明細書又は図面の記載によって開示された技術的事項に対し、新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り『明細氏又は図面に記載した事項の範囲内において』する訂正であるというべきである。」としている。
 しかしながら、・・・新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを判断するのは困難な場合もあろう。・・・本判決の基準を適用した結果が、従来の基準よりも広く「除くクレーム」とする補正・訂正が認められる余地があるのか、本判決の文面の身からは必ずしも判然とせず、本判決の基準が適切に運用されることが期待される。」

小野寺弁護士は、あくまで「除くクレーム」の世界において、本判決の基準に従うと従来とは異なる運用が生まれてくるのではないか、と危惧しています。
私はさらに、「除くクレーム」に限らず、補正可能な範囲が著しく増大するのではないか、と読んでいるのですが。
コメント
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