弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

診療報酬改定

2008-02-17 20:35:17 | 歴史・社会
1,500億円、勤務医対策は十分か
「2008年度の診療報酬改定では、病院勤務医の負担軽減策(勤務医対策)に1,500億円を充てる。病院の産科や小児科などに勤務する医師の労働環境を改善するのが狙いだが、「焼け石に水」「微々たるもの」という声もある。1,500億円という数字の根拠は何か。これで勤務医対策は十分だろうか。」

1500億円で足りるはずがありません。

そもそも、地方の中核病院に産科の医師がいなくなり、産科を閉鎖しているのですから、わずかばかり診療報酬を上げたからといって何の意味もないでしょう。

このブログでは、昨年6月に中央公論6月号の特集「病院が崩壊する」を紹介し、昨年9月に本田宏著「誰が日本の医療を殺すのか」を紹介しました。

本田氏の著書によると、青森県の十和田市では一時産科医が一人もいなくなり、同県の弘前市、八戸市、黒石市などの病院でも産科の休診が相次いでいます。今年の中央公論1月号では、横浜市栄区で今年から分娩施設がなくなり、お産ができなくなると報じています。緑区でも09年から同じ状況が生まれます。
このような状況の中で、ほんの僅か診療報酬を値上げしても、ほとんど効果を発揮しないでしょう。病院からなぜ産科のお医者さんが逃げ出したのか、そこをきちんと理解する必要があります。

上記2つのブログ記事で紹介したとおりですが、医療費、医師の数だけについて、本田氏の著書から拾います。

○ 日本の医療費は本当に高いのか
「2004年のGDPに占める医療費の割合は、OECD加盟国平均が8.9%、G7平均が10.2%に対し、日本は8%に留まっている。かつて日本より下位にいたイギリスは、2000年を境に医療費を増額したことから、現在は日本を上回っている。医療費がGDPの10%になれば、20兆円の増額が期待できる。」
現在の日本の医療費は31兆円であり、これに20兆円を増額すべきとの主張です。

○ 医師の数は14万人も不足している!
 OECDに加盟している国の人口1000人当たりの平均医師数が3.1人なのに対し、日本は約2人にとどまっています。現在の日本の医師数は25.7万人であり、もし日本がOECD加盟国平均並みに医師を養成してきたとすれば、40万人存在することとなり、14万人も不足しているということです。

片や20兆円不足しているとの主張がある一方、今回はたったの1500億円の増加です。
それも議論を聞いてみると、医療費を純増しようとするのではなく、開業医向けの医療費を削って勤務医向けの医療費を上げようとしています。

このような財源確保をしようとする限り、日本医師会は開業医のための団体のようですから、開業医の報酬を減らして勤務医の改善を行うなど賛成が得られるはずがありません。

産科医不足がらみで別の話題2件

中央公論3月号の「厚生労働省という犯罪」特集の中で、堺屋太一氏が紹介しています。2003年に横浜市の堀病院で、産科の患者さんに看護師が内診していたことがわかりました。看護師による内診は法的には禁止されておらず常態化しており、産婦人科医会も認めるべしと主張しています。ところが厚労省は、助産師会らの意見を入れ、2002年の通達で禁止したのです。
お産はいつ始まるかもわからず、深夜に産気づくこともあります。しかしそのために夜間の当直に産科の専門医や助産師を置くのではコストがかかりすぎます。そこで、たまたま当直で出勤している医師や看護師が手伝うなどして対応していたのですが、警察はそれを違反として家宅捜索しました。その結果、「そんなコストはかけられない」と多くの病院が産科を閉診してしまいました。
ただただ厚労省の「通達」が、国民をより危険に陥れています。


中央公論1月号「医療崩壊の行方」特集の中で「妊婦たらい回し」事件について
「たらい回し」という表現自体が産婦人科医を減らしているのです。
たとえば、突然沖縄に行きたいと思ってホテルを予約しようとしたけど、どこも満室で取れなかったとして、それで「いやあ、たらい回しされたよ」とは言わないでしょう、というわけです。
救急隊からの問い合わせに対して、施設の人員状況やベッドの空きを見て「受け入れられません」と言ったに過ぎず、病院としては誠実に仕事をした結果です。
コメント (3)
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