弁理士の日々

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社会保障を問いなおす

2007-07-22 19:19:28 | 歴史・社会
中垣陽子著「社会保障を問いなおす」(ちくま新書)
社会保障を問いなおす―年金・医療・少子化対策 (ちくま新書)
中垣 陽子
筑摩書房

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前報の「年金問題」では、「日本の年金」と「年金を問う」を取り上げました。この2冊が年金に特化した書物であるのに対し、今回の「社会保障を問いなおす」は、年金、医療・介護、少子化対策を網羅的に取り扱った本です。そういった意味では総花的な本なのかなと想像し、最後に読むことにしました。しかし案に相違し、一番読み応えがあったのがこの「社会保障を問いなおす」でした。
著者の中垣陽子氏は、1987年に経済企画庁に入庁して「平成13年度国民生活白書」などを担当、その後国土庁で人口問題を担当、現在は(財)世界平和研究所で社会保障制度の改革を担当している方です。年金、医療・介護、少子化対策のすべてについて深い見識を持ち、抜本的な改革の方針を持っておられるようです。その内容がこの本に記述されています。
しかしこの本についても、2005年5月に発売され、その第1刷を今回私は入手しました。売れていないのですね。これだけ年金が国民的関心事になっていながら、その関心というのが、自分が他の人に比べて損しないで済むか、に限定されているということでしょうか。

細かい内容は別に記すとして、あとがきから拾ってみます。
「『二十一世紀の社会保障制度のあるべき姿』というような、本来中立的な判断を行うべき議論の場であっても、話し手のバックグラウンドは色濃く発言に反映されるのが常である。
 例えばの話、典型的には、専業主婦家庭の世帯主である一定年齢以上の男性は、小さな子どもを持つ女性がフルタイムで働くことには懐疑的であることが多い。従って、子育てと仕事の両立支援が必要だと口ではいいつつも、本音では子どもがかわいそうだとやや腰が引けている場合もあるように思える。ところが、たまに心底両立支援を支持しているらしい例外を発見し、『なぜだろう』と調べてみると、その男性のお母様が長年働いていらしたとか、仕事と子育ての両立に懸命になっている女性が身近にいた、というようなことはよくある。
 立場が変わってくると、それも発言に大きく影響する。例えば、『保つべき、守るべき家庭』をもつと、急に保守的な発言をするようになる人は多い。
 本書で指摘した、身の丈重視と安心感重視の対立も、結局は、もてる者vs.もたざる者(+現行制度によって既得権を得ている者)の対立の側面が強い。
 暮らし方・働き方に関する価値観は千差万別である。したがって、社会保障制度に望むものも然りである。しかも、どんなに中立的であろうとしても、所詮、人は、環境に縛られている生き物なのだ。
 それを前提とした上で、では、どうすれば少子高齢化や人口減少という現実に対応すべく社会保障制度改革を進めていけるのかということこそが、本書の一番根っこにある問題意識なのである。
 無論、国にとって望ましいと考えられる一定の暮らし方や働き方を前提とした制度設計を考えることもあり得ないことはない。
 けれども、誰にとっても自身の個人的価値観を排除しにくい分野である以上、望ましい暮らし方や働き方について合意形成などできるわけがないし、またそうすべきでもないと、筆者は考える。逆に、多様な考え方や生き方が共存できる、互いを認めあえる社会をこそ、我々は今後目指すべきであり、そのためには、政策が、一定の暮らし方や働き方だけをサポートしていない誰からみても中立的なものとなっていることが、何よりも重要なのではないかと考える。
 本書において、不公平感の極力少ないわかりやすい制度という視点を強調したのは、こうした考え方によるものだ。」

著者の中垣氏が考えるような方向で政策の合意形成がなされるのは極めて困難であるだろうとは想像できます。参議院選挙が終われば、年金問題もどっかに吹っ飛んでしまう可能性が高いです。しかし、制度を好ましい方向に変えていくための世論形成の努力を今後も続けて欲しいものです。

年金、医療・介護、少子化対策の個々の内容については、別に紹介します。
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