「電子の大きさ」については、あまり考えたことがありませんでしたが、神戸大学長の武田廣先生(素粒子実験物理学)によれば、現在まで測定されているだけで約10のマイナス18乗m以下とされています。電子の大きさは物指しで測るわけにはいかず、高エネルギーの電子・陽電子衝突で観測される角度分布などが、電子を点であるとした場合の予言とどれだけずれているかを解析することによって得られます。有意な「ずれ」は観測されていないので、上限値のみが与えられている訳です。
これだけ小さいのなら点だと思ってよいかというと、深刻な問題が生じてきます。例えば2個の電子の間に働くクーロン力は距離の2乗に反比例しますから、近距離では「無限大」の斥力が生じてしまいます。「無限大」というのは物理学では地雷のようなもので、直感的に嫌悪感があります。量子電磁気学に基づく様々な計算を行う際にも、この「無限大」が顔を出します。これをうまく処理したのが朝永博士の「繰り込み理論」で、「無限大」からうまく「無限大」を
引いて意味のある有限の答を導き出せます。この方法で非常に高い精度まで理論と実験が一致
していますから、有効理論としては正しいのですが、何とも落ち着きません。
最近は、やはり電子は点ではなく10のマイナス35乗m程度の「ひも」だとする「ひも理論」
が注目を集めています。中略、
我々人間を構成する素粒子がかくも小さく、人間をとりまく宇宙がかくも大きいことに不思議な感覚を覚えることがよくあります。そういう素粒子や宇宙だからこそ、それらに思いを馳せる人間が存在しているのだとする「人間原理」にも一定の説得力があります。私見ですが、
電子の大きさを理解したときに、我々がこの宇宙に存在している理由もわかるような気がします。
ちなみに、電子の質量は、9.1094X10のマイナス31乗キログラムだということです。
武田廣 「随想 電子の大きさ」電気学会誌 2016 Vol.136 No.5
これだけ小さいのなら点だと思ってよいかというと、深刻な問題が生じてきます。例えば2個の電子の間に働くクーロン力は距離の2乗に反比例しますから、近距離では「無限大」の斥力が生じてしまいます。「無限大」というのは物理学では地雷のようなもので、直感的に嫌悪感があります。量子電磁気学に基づく様々な計算を行う際にも、この「無限大」が顔を出します。これをうまく処理したのが朝永博士の「繰り込み理論」で、「無限大」からうまく「無限大」を
引いて意味のある有限の答を導き出せます。この方法で非常に高い精度まで理論と実験が一致
していますから、有効理論としては正しいのですが、何とも落ち着きません。
最近は、やはり電子は点ではなく10のマイナス35乗m程度の「ひも」だとする「ひも理論」
が注目を集めています。中略、
我々人間を構成する素粒子がかくも小さく、人間をとりまく宇宙がかくも大きいことに不思議な感覚を覚えることがよくあります。そういう素粒子や宇宙だからこそ、それらに思いを馳せる人間が存在しているのだとする「人間原理」にも一定の説得力があります。私見ですが、
電子の大きさを理解したときに、我々がこの宇宙に存在している理由もわかるような気がします。
ちなみに、電子の質量は、9.1094X10のマイナス31乗キログラムだということです。
武田廣 「随想 電子の大きさ」電気学会誌 2016 Vol.136 No.5