山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

‘15年 佐渡一国を味わう旅 レポート <第21回>

2015-06-21 07:11:28 | くるま旅くらしの話

【今日(6/21)の予定】 

  道の駅:芸能とトキの里 → 両津港フェリー乗り場 →(佐渡汽船フェリー)→ 新潟港 → 道の駅:くがみ(泊)

 【昨日(6/20)のレポート】     

<行程>

 道の駅:芸能とトキの里 → 七浦海岸(夫婦岩) → 相川エリア散策 → 正法寺ろうそく能鑑賞 → 道の駅:芸能とトキの里(泊)

<レポート>

今日も昨日と同じ状況で朝を迎える。予定がないというのも困ったことで、先ず考えたのは、まだ七浦海岸という名所に行っていないので、そこを訪ねることにした。そして、その後は、もう一度相川を訪ねることにした。というのも、相棒が無名異焼の窯元を訪ねて急須を買いたいということなので、ついでに古い町並みも歩いてみることにした。その散策が終わったら、どこかで時間を過ごし、夕刻からは、いよいよ今回の佐渡での最後の能の鑑賞となる正法寺でのろうそく能に向かうことになる。

9時近くに道の駅を出発する。今日は土曜休日で、道路は何時もの朝の混雑は見られなかった。先ずはもう何度も往復した佐和田エリアへの道を行き、市街を抜けた後、途中から山越えの道を左折して、海岸線に沿っての道を行くことにした。七浦海岸というのがあり、ここは幾つもの巨岩・奇岩が海岸近くに立ち並んでいる場所である。夕刻ならば、夕陽を見る名所でもある。しかし、今日は少し雲が多くて、暑さのために空気が膨らんでいるので、写真に収められるほどの夕陽を見るのは難しいのではないか。間もなくその七浦海岸に近づいて、その中心とも思える夫婦岩という二つの巨岩が並ぶ場所に着いた。ここでじっくりその景観を楽しむことにして、車を置いてその巨岩の傍まで歩いて行ってみることにした。9年前は駐車場付近から写真を撮っただけだったが、今日はたっぷり時間がある。ゴツゴツと並みに浸食された岩の上を歩くのは、真に歩きにくい。夫婦岩は近づくにつれて、凄まじい様相をしていた。元々巨大な一つの塊だったものが、長い間並みに浸食されて、今は奇怪な形で二つ寄り添った姿となっているようだった。大自然の不思議を感ぜずにはいられなかった。しばらく磯で遊んだ後、車に戻る。爪に毛の生えた大きなカニなどを捉まえて、しばし童心に帰った時間だった。

  

佐渡七浦海岸、奇岩夫婦岩の風景。全国各地に夫婦岩は多いけど、佐渡のこれは強烈な印象を受ける。

その後は、相川の町の中を通り、昨日の技能伝承展示館の脇を通過して、少し上にある佐渡奉行所跡付近の駐車場に車を停める。相棒の要請が、この近くの中京町という所に無名異焼の窯元があり、そこへ行いたいということなので、先ずはそこを目指すことにする。来た道を少し戻ると版画村美術館というのがあり、その脇辺りの細道が中京町への入口のようだった。版画村美術館というのは元裁判所があった建物らしく、レンガ塀に囲まれてなかなか風情のある景色を醸していた。少し行くと時の鐘を打つ鐘楼が見えて来た。これは気に指定の史跡となっているとのこと。案内資料では、この辺りが昔の佐渡金山の町相川の中心街だったようだ。京町通りという時鐘のある場所付近から始まる坂を上る細長い道は、下京町、中京町、上京町と続いており、その一番上に拘置所があったということで、この筋を中心に昔の相川の町が形成されていたらしい。ゆっくり歩きながら道の両側に並ぶ家々の景色を楽しんだ。中京町エリアに入り、相棒の言う無名異焼の窯元を探したが見つからなかった。後で知ったのだが、sの窯元は既にかなりの昔に廃業となっていたのだった。何しろ相棒の調べた本のデータは、9年前に佐渡へ来た時かったものなのだが、発行は20数年前となっているので、今ではもう役に立たない部分が含まれていたのだった。少し行くと相棒の興味・関心その物を扱っているような裂き織りの機作業をしている人がいる店があり、こりゃあ、この先時間がかかることになるなと思った。その後相棒が予想通り、その店に入り込んで腰を据えらたらしいのを見たあと、一人付近を歩き回ることにした。

相川の中心街は、長崎や平戸などに似たとんだ坂の町だった。そして石の町でもあった。坂の地形に家を築くには石垣が不可欠であり、京町通りを外れると、細い石段の坂道が何本も造られていた。遊郭の跡などもあったが、皆石垣の上に造られた建物だったようだ。下方に海が見渡せる景観は、一時の遊びには慰めになるとしても、そこに住み働く人たちにとっては、さて、どんなものだったのだろうか。また、相川には特にお寺が多いと感じた。金山での過酷な労働がお寺を必要としたに違いないが、森の樹木に隠れて見えないその中にいくつものお寺があり、墓が並んでいる景色は、浮いた観光気分をたしなめるものがある。やや複雑な気持ちになりながら、車に戻ることにした。

  

版画村美術館付近の相川の風景。この先の方に京町通りがあり、そのあたりが町の中心街となっている。

12時近くになってようやく相棒が戻ってきた。もうかなり暑くなって来ており、気温は30℃近くになっているのではないか。版画村美術館は次に来た時に回すことにして、昼食を佐和田の海岸にある駐車場で摂ることにして出発する。海のそばならば、風があって暑さをしのぐには好都合との考えだったが、これは正解だった。食事を済ませ、しばらく午睡を貪る。

15時近く出発して、途中在庫が少なくなっているカセットガスのボンベと飲料水などを買い入れ、ろうそく能の開催される正法寺の少し先にある、順徳上皇が流された時の御所のあった黒木御所跡前の駐車場に車を入れる。少し遠いのだけど、この駐車場ならば車を安心しておくことができると思った。ろうそく能の開場は18時であり、まだまだ時間がある。とにかく暑くて困惑した。風が殆どないのだ。TVを見ようとしたら、アンテナの調子が悪くて、上手く映らない。かなり手間取ってようやく写るようになったが、TVを見る気も失せてしまった。そのようなことをしている内に17時を過ぎ暑さも収まり、開場の時間が近づいて来た。

ろうそく能は指定席となっており、場所取りは不要である。自分たちは早めに券を買っているので、番号は9と10である。どうやら最前列のようだ。慌てることはない。開場の15分前くらいに正法寺に入る。ろうそく能は正法寺の本堂で上演されるのだが、何故正法寺なのかといえば、それは申楽能の大成者である世阿弥が、佐渡に流された時に過ごした場所がこのお寺だったということからとのこと。境内には世阿弥の供養塔が幾つも建っている。立派なお寺で、本堂も大きい。既にかなりの人が集まっていていた。18時半から受け付けが開始され、いよいよ本堂の中へ。薪能とは大分雰囲気が違う。本堂なので、演場の上には、何本ものきらびやかな装飾が吊り下げられている。その向こうには祭壇があり、木魚や鐘なども置かれたままだった。

  

開演前の本堂内の様子。演場を取り巻く2方が観客席になっている。撮影禁止なので、これしか撮れない

間もなく開演となり、先ず最初にお寺の関係者の儀式があり、御詠歌が詠われ、厳かな読経の時間となった。一連の儀式が済むと、次は特別講演として、芥川賞作家で法政大学教授の藤沢周氏の「世阿弥と私」というタイトルでの話が始まった。30分ほどの短い話だったが、真に深い内容の啓示に富んだ話だった。それらをここに書くのは難しい。

講演が終わった後、いよいよ能の上演となった。今日の演目は「井筒」である。今日のシテは、観世流の能楽師の松木千俊しで、重要無形文化財に指定されている方でもある。「井筒」の話も在原業平と紀有常の娘の恋に係る話であり、杜若構成に似ているものである。「つゝ井筒 いゞつにかけし まろがたけ 生いにしけらしな 妹見ざる間に」の歌からの表題でもある。ろうそくが灯されて、いよいよ上演となった。最初はワキの登場で、これは旅の僧。そして間もなくシテの登場。その後のストーリーの展開は、他の演目と基本的には変わらない感じがした。シテの所作に注目したが、さすがに今まで見た演者とは違うなと思った。所作に無駄がなく、声もよく通って耳に心地が良かった。まだ鑑賞のレベルはレベルというほどにも至っていないけど、それなりに感ずるものはたくさんあった。本堂内は集中した緊張に溢れているように思えたが、一瞬その情景は演場で披歴されるシテの舞を五百羅漢が取り巻いて見ているような錯覚にとらわれた。我々は、特に自分などは修業もしない堕落した羅漢の一人だなと思った。

20時半過ぎ上演が終わって、そのあと寺宝であるという、「雨乞いの面」の公開があった。この面は鎌倉時代の作で、世阿弥が用いたとも聞いた。鬼の面である。面とはめんではなく「おもて」と読む。要注意である。何しろ席は舞台の一番前だったので、その面の公開は目の前だった。ラッキーな気分で真っ先にその黒っぽい怖い面を見せて頂いた。

  

公開された「雨乞いの面」。暗い道内の中なので明瞭な写真を撮るのは難しかった。

ろうそく能が終わり、本堂を出ると参道の両側には地面に置かれた小さな雪洞に火が灯っており、何とも幻想的な世界が現出していた。その中をゆっくり歩いて車に戻る。観光バスなども停まっており、今日の観能来訪者は200人を超えていたようである。

  

帰り道の参道には、両側に雪洞が灯されていて幻想的だった。ほっとした気分になった。

21時半近く、道の駅に戻り、遅い就寝となった。これで佐渡での暮らしは終了し、明日はフェリーに乗って新潟へ戻ることになる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする