山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

TPP交渉の欺瞞と本心

2013-10-16 04:12:28 | 宵宵妄話

 前回の続きの話である。

 TPPの交渉が大詰めに近づいているらしい。しかし、実際の所、我々には、何がどう動いているのかさっぱりわからない。この解らなさは、政治家の欺瞞のレベルと同じ感じがする。欺瞞というのは、解っていながら相手を騙すということである。TPPの場合は、騙される相手のメイン対象は農民というのか、農業従事者ということになるのであろう。恐らくTPP交渉に参加すると決めた時点で、政府は聖域などいう議論は、国内での小さな障害に過ぎないくらいにしか思わなかったに違いない。一応公約に掲げて、大事にしているという素振りは見せることにしたのであろう。今時、公約を破るなんてことは、国民は、民主党政権で慣れていると踏んだのかもしれない。自民党が公約を破ったとしても、トータルで国益が増して経済の活性化が実現できれば、大して影響力のない農業分野など問題ではないと考えているのかもしれない。かつて選挙に絶大なる影響力を持った農業は、今や政治家にとってそれほどの脅威にはならないという判断があるのかもしれない。様々な勘ぐりが成り立つ。今頃になって、聖域における細目の検討が必要などと言い出しているけど、初めから承知している、とってつけたような話である。

 ところで、自分はTPPについては基本的には反対論者である。何故かといえば、どんな時代でも農業は国の基幹産業であり、食料の調達という人間にとって最重要な資源の供給を担う産業であるからである。中国などの歴史を見ると、農政の失敗が亡国につながっているケースが多いように思う。日本においては、必ずしもそうではなかったかもしれないけど、農業が国の基幹であったことは疑うべくもない事実であろう。だから、この国の基幹とも言える農業をつぶすような交易要件を呑むというのには反対なのである。

 しかし、この頃少し農業界に疑問を感じ出している。以前からJA(=農業協同組合)に対しては何かと疑問を感じているけど、この頃は個々の農家に対しても疑問を感じ出している。というのも、自分は健康保持のために毎朝10km近く歩いているのだが、その途中の田園風景が、年を経るごとに変化してきている。守谷市はいま急速な都市化の中にあり、耕作放棄地など草茫々の土地が増えてきている。休耕地もあるようだけど、そのまま放棄されてしまいそうな予感がしたりする。また、隣接するつくばみらい市でも、かなり前なのか、区画整理の大工事を済ませたと思われる田んぼが、葦やコオリヤナギの生い茂る荒れ地となっていたりするのを見ていると、何だかがっかりしてしまうのだ。

お寺の本堂と見紛うばかりの大邸宅の中には、年老いた夫婦二人しか住んでいない。そのような家がかなりあるようだ。同居していても、子供たちは農業とは無縁の仕事に就いている家が殆どのようで、若者が畑や田んぼで働く姿を見ることは滅多にない。そのような状況を見ていると、もはやこの辺りの農業の未来は尻すぼみだなと思わざるを得ない。市当局も農業に対する新たな改革案の提起など皆無の様である。守谷市の場合は、つくばエキスプレス開通後、都市化に拍車がかかっている状況にあり、TPPへの加入など関係なく、農業は衰退の一途を辿るような気がする。このような状態では、TPPもヘチマもないだろうと思ったりするのである。

 しかし、全国を旅していると、様々な農業経営の現実を垣間見ることができる。特に北海道などでは、大規模経営(国際的には中規模にも満たないのかも?)の牧場や水田、ビートやジャガイモやトウモロコシ畑など、農業という産業の地力といったものを感ずることが多い。これらの農家の経営がこれから先TPPによってどのような影響を受けるのか、具体的には判らないけど、外国からの安価な産品に席巻されて、数代にわたる積年の開拓の苦労の結果も虚しく、牧場を荒れ地に戻し、牛馬のいない草叢にしてしまったとしたら、それは単なる農家個人の問題ではなく、国家としての犯罪ともいうべき事態となるのではないか。

 農業という産業に関しては、TPPに拘わらず抜本的な構造改革が求められているように思う。戦後の農地改革は占領政策に基づいて行われ、土地の所有という抜本問題に絡んで、わが国の農業から大地主を消滅させ、小作人を無くすという甚大なる結果を招来させたが、今その改革の成果が壁にぶち当たっている。農産物のグローバルマーケットでの競争に参加するには、わが国の農業の経営規模はあまりにも小さ過ぎて、諸外国と全く太刀打ちできないからである。これらの根本課題をそのまま置き去りにして、わが国の農政は保護政策ばかりに力を入れ、農家もそれに甘えて自己革新を怠ってきたという現実がある。

 それが、ここへきていきなりTPPである。TPPは関税保護をぶち壊す国際協定である。農業の生産システムの基盤が変わらぬままでは、TPPに反対するのは当然であろう。今迄厚い毛布にくるまって、薄い下着一枚でもぬくぬくと過ごしてきた老人が、突然風雪吹きすさぶ外界に、耐寒の覚悟もないまま、防寒服無しで放り出されるのである。生き残れる者がどれほどいるのか。或いは突然の環境変化に素早く対応できる知恵を持ったレベルの者がどれほどいるのか。恐らくその多くは、抵抗する力もなく、肺炎に罹って行き倒れ、この世から消え去ってゆくに違いない。これは極端なイメージのシナリオだけど、農業の現状を見ていると、TPPが多くの農業破綻者を生み出すことは想像に難くない。そして、その破たん現象の先には、自国の食料調達の不安定な招来に対する拭いきれない不安がある。農業関係者以外でも反対せざるを得ないというのが、自分などの立場であり、理解なのである。

しかし、反対ばかりで済む問題なのだろうか、とも考える。他の産業がもみくちゃにされながらも世界の市場で戦い、生き残りにしのぎを削っているのに、農業だけが甘え続けることが、いつまでも許されるのだろうか。他の産業に関わる人たちの、国際競争における破たん・埋没者は、数え切れないほどなのだ。と、大きな疑問を抱えながらのTPP反対なのでもある。

 TPPの問題は、原発の問題とは根本的に違っている。原発は科学の生み出した恐るべき負のパワーが、人類を一瞬にして混乱と破滅に至らしめるという、恐るべき事態が如実に証明されたという、その現実を踏まえた対処のあり方の問題なのだが、TPPは人類を滅亡させるようなテーマでも、或いは日本国の農業の全てを壊滅させるようなテーマでもない。日本の産業の一分野である農業生産のあり方に係る問題であり、知恵の出しようによって、解決の道は見出されてゆく、そのような性質の問題ではある。

その根幹には、日本の農業生産システムの改革という重大な命題が潜んでいる。戦後の占領政策の一つである農地改革の成果が、現在の世界経済の動きについてゆけなくなっているのである。このアンマッチングの状態に、保護以外何の改革もしないまま、もはや限界に来たと見限って、いきなり世界経済の激流に放り出すというやり方が問題なのだ。保護ばかりにうつつを抜かし、抜本的な改革に何の手も打たなかった農政、そして自己改革のニーズを真剣に自覚もせず、ぬるま湯に浸ってきた生産者やJAなどの団体。今、これらの人たちが、保護などされなくても生き残ってゆく力をどう身につけ、どう未来を切り開いてゆくかということが問われ、試されているという問題なのだ。

 今回の政府・自民党(或いは他の政党でもその本音は同じなのかもしれないけど)の振る舞いは、TPPを引き金にして、農業界の荒治療をしようと目論んでいるのかもしれない。他の産業と同じように、熾烈な競争の世界に農業も放り込んで、自ら生き残る力をつけさせようとしているのかもしれない。順序が逆であっても、結果は同じだと考えているのかもしれない。いつまでも自動車や電機など他の産業が稼いだ税金でぬくぬくと保護されると思うな、という厳しい離縁状を突き付けるつもりなのかもしれない。

 これからの農政改革の基本政策も明確に示さぬままに、聖域などと使ってはならぬ文語を賑々(にぎにぎ)しく公約に掲げながら、政治家の欺瞞はいつもながら巧みだなと思う。これから先、おそらくTPPは聖域なるものを極小化し、保護政策の骨を抜いて、やがてそれは笑い話となるのかもしれない。自分が生きている間に、それらがどのように現実化して行くのか。残されている時間を知らないので、見届けることはできないかもしれないけど、農業の姿はこれから大きく変わってゆくに違いない。血を流すような苦難の道を辿るのかもしれない。しかし、いつかは必ず、若者が農事に数多く志願するような農業の生産システムが生まれてくる筈だとも思う。そうあって欲しいと強く願っている。

この世から、この国から農業が消え去ることなどあり得ない。縄文、弥生の時代からこの国に住む人と国を支えてきた農業が、たかがTPPなどで壊滅するなどあってたまるかと思う。政治家の欺瞞に耐えながら、農業関係者は、保護などかなぐり捨てて、知恵を振り絞って立ち上がるしかない。それが出来た者だけが、世界に伍してこの業界で生き残れるのだと思う。まさに試練の時が来ているのだと思う。TPP反対の立場は変わらないけど、事態がこのようになって来ている今では、徒(いたずら)に虚しい反対声を上げるだけではなく、農業界は、開き直って自ら生き残るための知恵を働かせるしかないと思う。今は、そう切望するしかない。

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