山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

絵画展を見に行く

2009-05-18 00:16:08 | くるま旅くらしの話

少し休みましたが、この間に、ある特別の絵画展を見に東京の小平市まで1泊して行って来ました。絵画展を見るのに何も1泊もする必要は無いのですが、実はその絵画展というのは、その昔私が勤務していた企業の主催で、その場所が小平市にある研修センターの体育館なのです。私は基本的には元の勤務先に係わる事業所などには顔を出さないことにしています。どうしてかと言いますと、仕事に集中している現役の人たちに迷惑をかけるからです。こちらの方は懐かしさだけで訪問するつもりでも、迎える側は恐らく複雑な心境でありましょう。それがイヤなので、旅先でもよほど特別の用事でもない限り、直ぐ傍に事務所があり、そこに知り合いが居るのを知っていても顔を出すことはありません。

その様な考えでやってきたのですが、今回は特別なケースで、絵画展の鑑賞のみならず他にも多少の相談事もあり、久しぶりの訪問なので、元の職場に在籍している人たちとも話をしたいと思ったのでした。話をするとすれば、当然のことながら一杯やることになり、それならば宿付きで行った方が良いと考え、旅車で参上したという訳です。このような時、旅車は至極便利です。

さてその絵画展なのですが、それは普通の絵画展ではありません。「世界障害者絵画展」と名づけて開催されていますが、そこに展示されているのは、文字通り世界各国から集められた障害者の方々が描いた絵画の数々なのです。障害者と一口に言いますが、健常者の人には想像もつかないほどのハンディを持った方々なのです。先天性の方も居れば、事故で突然の不幸に見舞われた方々など複雑な事情を持っておられる方たちなのです。その様な方々が、口に絵筆をくわえ、足に絵筆を挟み、或いは止まらぬ手の震えを紐で縛りつけて抑えながら、懸命に画布や画用紙に向って描いた絵なのです。私はそれらの絵は全て、「生命(いのち)の絵」だと思っています。絵描きにとって自分が生み出す全ての作品は、勿論自分の思いを籠めた生命の絵であるに違いありませんが、障害者の絵に対する取り組みは、健常者とは異なった魂の必死の思いが籠められており、もはや上手とか下手とかいう表現の技術レベルを超越した何かを感ずるのです。その何かというのが、その作者の「生命」そのものという受け止め方をせずにはいられません。

この特殊な絵画展は、私の勤務していた会社が平成4年から開始した、社員の手作りによる展覧会で、最初は事務所のロビー展として始めたのですが、それなりの反響があり、社員だけでは勿体ないと言う発案もあり、17年の歴史を重ねる中で、全国各地で開催するようになり、今までに40万人を超える来訪者を迎えていると聞いています。どの開催も全て社員のボランティア活動で運営されており、多くの社員が率先して運営に参加してくれているのは、真に喜ばしいことであり、その創設に関わった一人としてありがたく感謝しています。

さて、その絵画展ですが今回訪れた小平市の研修センター(正式には人材開発センター)がその発祥の地であり、現在はロビーではなく、体育館を会場として広く世の中に公開する形で運営されています。当初少なかった絵画の数も、世界身体障害者芸術協会(現在は口と足で描く芸術家協会と呼称が変ったようです)のご協力を得て、かなりの数になっていると思います。日本在住の画家だけではなく、世界中からの力作が集められており、現在では宝物を管理していると言うことなのでありましょう。一企業の社会貢献・寄与としてはささやかなものだとは思いますが、長く続けることによって、その価値は高まるはずだと思っています。

私がお邪魔したのは、15時をちょっと過ぎた頃でした。16時頃にと連絡しておいたのに、交通状況の読みを間違え、1時間近くも早く到着してしまいました。何しろ目立つ車なので直ぐにバレテしまい、気づかれずに行きたいという気持ちは到底無理な話なのでした。着いたときには、市の小学校や中学校の児童・生徒さんが大勢見学に来られており、引率の先生は大童(おおわらわ)の様子でした。子どもたちにとって、障害者の方々が描かれた絵がどのように受け止められたのか、関心のあるところですが、願うのは「凄いなあ!」という感想止まりではなく、絵を描かれた方よりも五体はるかに恵まれている自分に気づき、この恩恵をこれからどう活用して自分を成長させてゆくかに真剣に取り組んで欲しいということです。ワイワイ、ガヤガヤと元気な子どもたちの騒ぎ声を聞きながら、先生にはそのような方向でこの見学を活用して欲しいなと思いました。

絵画展会場の様子。これらの作品の展示の他に、地元の障害者の方々の工作作品なども展示されている。又期間中現役の絵描きさんによる作品制作の実演も行なっている。   

 展覧会では、今回は50点の絵が展示されていましたが、その1点毎に作者の紹介がされています。生まれた年度、障害の経歴や状況など、それらを読むと作品からは想像もつかないほどの大きなハンディがあることにショック受けないではいられません。生来の障害だけではなく事故や戦争の災禍など、天は特別の試練を何故この人たちに与えたのかと疑念を抱く反面、自分自身が途轍(とてつ)もなく恵まれていることを思わずにはいられません。不断気づかずに極々当たり前と思っている自分の身体の働きが、実はとんでもないほどの恩恵に浴している結果なのだと言うことを思い知らされるのです。

世の中には、背が高いとか小低いとか、体重が多いとか少ないとか、容貌(かお)がいいとか悪いとか、足が長いとか短いとか、天から授かった自分自身の身体についての不平不満や愚痴などを本気になって考えたり、言ったりする人が結構多いのですが、冗談はともかくそのような不要のこだわりは即廃棄すべきです。そして、自分の力で改善できることは、即実行に取り組むべきです。例えば、過食とか運動不足に起因する体形や体調などは、己の生きているありがたさに気づいていない証拠ではないかと私は思っています。

私が障害者の絵と出会ったのは、18年前のことでした。そのいきさつについて書くことは控えますが、絵との出会いを介して、ある障害者の絵描きさんと出合ったのは人生における最大のプレゼントでした。その人の名は安達巌と言います。ブログではAさんと書いていましたが、これからは本名で書くことにします。私の人生の後半(=50歳代以降)は、彼に学ぶことが大きいのです。仕事においてもそれ以外の私事においても、困難と思しき事態がやって来ても、彼の生き様を思えば、大抵のことは乗り越えられるのです。彼の辛酸を嘗()め尽くした来し方を思えば、今自分が困っていることなど取るに足らないことであり、如何様(いかよう)にでも乗り越えられると思うことが出来るのです。彼は私の永遠の畏友(いゆう)なのです。

安達巌は、3年前天国に旅立ちました。私より1歳年上に過ぎなかったのに。突然の訃報に驚きました。後になって奥さんからいろいろな話を聞くにつけ、彼は燃え尽きたのだと思いました。自分という人間を燃え尽くさせるほどの人生を送れる人物はそう多くはいません。多くの人間はその保有している力のほんの一部をもったいぶって弄(いじ)り回しながら、不満タラタラの人生を送り、最後の頃になってちょっぴり反省したり諦めたりしながらこの世とおさらばしているように思います。私自身もその一人であることは間違いありません。

安達巌が燃え尽きたといっても、それは何の悔いも残さずにこの世でやるべきことをやり尽くしたということではありません。たくさんの無念・残念の中で燃え尽きたに違いないと私は思っています。この世との別れに当たって、何の心残りも無く満足して旅立つ人などいる筈もありません。生と死がつながっている限り、念(=心の思い)の世界は、それを我が身を持って実現出来なくなったとき、無念や残念がなくなるはずが無いのです。燃え尽きるのは、心ではなく身体だけです。安達巌は、人体の持つ可能性の全てと言っていいほどの我が身の使い方をした人であり、それ故に燃え尽きたのだと言えるのです。

安達巌のことについては、このブログでもこれから何度か触れることがあると思います。先日読売新聞に昌子夫人の記事が連載されました。(「絵筆があれば、お前がいれば」読売新聞西日本版社会面、5/4~5/9、6回に分けて掲載)このことについては、旅の間のブログ(5/7関西春旅第7日)でも触れました。亡き夫と歩んだ彼女の人生も波瀾万丈(はらんばんじょう)であり、それは今でも続いていると思っています。今日此処へ来たのも、一つには明日彼女が大阪から来訪されるというので、先日会ったばかりなのですが、もう一度お会いして話したいことがあったからなのです。

話があちこちに飛んでしまい、絵画展の話なのか不明となりそうです。一先ず〆(しめ)ることにしましょう。

これまた思いつきですが、世の多くの健常者は障害者の絵を少なくとも一点は家の中や職場に掲げるべきだと思います。そしてその生命の絵を時々深く眺めながら、己の幸運に感謝し、今なすべきことに思いを馳せるべきと思います。我が家の安達巌の絵を見る度に、人間の本当の優しさや厳しさが何であるかを気づかされ、自分自身のあり方を省みさせられるのです。そしてそれは厳(いか)めしい煩(わずら)わしさではなく、本物の人間としての生き方を確認できる喜びでもあるのです。障害者の描く生命の絵は、人間が何であるかを如実(にょじつ)に教えてくれるのです。

 

<世界障害者絵画展関係の案内>

企業名:三菱電機ビルテクノサービス株式会社

協賛:口と足で描く芸術家協会

同社は全国各地で、地元の福祉協議会などの支援を頂戴しながら、社員のボランティアによる絵画展を開催しています。お近くで開催の折には、是非ご覧頂きたいと思います。入場無料です。直近の開催は福島市で7月10日から開催予定です。詳しいことは同社のホームページをご覧下さい。URLを知らなくても社名でアクセスできると思います。

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