古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

サイエンスと科学

2015-07-04 | サイエンス
「科学」と「日本語」の関係を『日本語の科学が世界を変える』から拾ってみます。
サイエンスという英語を、いったい誰が「科学」という言葉に移し替えたのか、その資料をずっと探してきた。正直言って、なお、確たる証拠はつかめていない。ただ、科学史の研究者などの聞くと、みな「西周(にしあまね)でしょう」と言う。今日、日本語による学術用語、専門述語がきちんと存在し、日本語と言う自分たちの言葉で学問・学術・科学ができるのは、実は西周をトップ格とする当時の人々の努力のおかげである。調べれば調べるほど、特に西周なくして、日本語の近代学問はありえなかったと思うようになった。
 西周(1829~97)という人は本当にすごい。生まれ育ちは、森鴎外(1862~1922)と同じ津和野藩で、二人は親戚関係にある。
 最初に、日本語をその効率性から見てみよう。
日本人は世界で最も多くの文字種を使う国民ではないだろうか。漢字がJIS第1水準で3000文字、ひらがなとカタカナで100文字、アルファベットもアラビヤ文字、ローマ数字などほぼ日常的に使っている。このような現実を見れば、明治期に欧米文化と直面した先人たちの一部が、日本語をローマ字で表記するよう変えてしまえばよい、と考えても仕方がないだろう。
 ローマ字表記論というのはその後も生き残り、戦後などかなりの勢力を持った。しかし、日本語はローマ字表記にならず、現在のように、さまざまな文字種を使っている。これは本当に幸いだった。もしローマ字表記にしてしまったら、今日、韓国や北朝鮮のハングルが直面している厳しい文化的状況と、似たようなことになったかもしれない。
ハングルにも長所はあるが、欠点は表音文字であるため、元の漢字の読みが同じだとみな同じ表記になってしまう。しかも、漢字文化を捨ててしまったため、あれほど自分たちが大事にし、誇りに思っている李朝朝鮮の歴史書や古文書を読める人がいなくなってしまった。
 これに比べ、つくずく日本語はやまったことをしなくて良かったと思う。
 おそらく、日本語ワープロほど、日本の文字文化に革命を起こした技術はないと思う。
 しかも、この日本語ワープリの技術は、中国はもちろんアジヤの国々の言語の電子化にも役立っている。日本語ワープロは、日本人が世界に誇っていい大発明だ。なぜ、文化勲章やノーベル平和賞とかが贈られないのか不思議なくらいだ。
 (日本語ワープロの開発で)いまや、日本語で科学を進める上で、何の障害もないということだ。

山中博士は、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞されたが、発表の時、私は「受賞は当然だが、それでも受賞は早すぎる!」と思った。
 ノーベル生理学・医学賞には原則のようなものがある。それは、実際に治療に使われた発見に授賞するということだ。Ips細胞はその時点では、治療に使われていなかった。従って山中博士の2012年の受賞は異例中の異例といってよい。
なぜ、これほどに評価されたのか。
 山中博士の記者会見の数日後、突然、ローマ法王庁による発表があった。「難病治療につながる技術を受精卵を破壊することなく行えることになったことを賞賛する」と、山中博士の仕事を絶賛した。従来のES細胞による再生治療は、そのES細胞をヒトの卵子から作る。それは本来一人の人間になりうる可能性を持った細胞なので、治療のためであっても、許されないという深刻な議論があったのだ。この深刻な課題をさけうるということを法王庁が評価したというわけ。
 つまり、科学の研究には、社会の価値観が大きく関与するのだが、欧米の価値観と異なる価値観に基づく日本社会の日本語による科学は、世界を変える可能性があると言う。