古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

財政破たんの深層

2015-02-24 | 経済と世相
日本は1100兆円の借金(債務残高)を抱えている。消費税を上げないと、日本の財政は破たんするとよく言われる。しかし、本当にそうなのか、それを考えてみようと、『財政破たんの深層』(NHK新書)なる本を読んでみた。
著者は、小黒一正氏、京大理学部卒、一橋大経済学研究科博士課程修了、大蔵省入省、財務省財務総合政策研究所主任研究官を経て、現在法政大経済学部准教授
財務省出身だから、ちゃきちゃきの増税不可避論者だろう。その言い分をまず聴こうと思ったのです。
 著者の言いたいこと
1、 日本の財政は破綻寸前である。
国のバタンスシートを診てみよう。
 財務省は、2003年度から「国の財務諸表」を定期的に作成するようになった。2012年度版のバランスシートを見ると、国の総資産640.2兆で、正味資産は477兆円の赤字です。http://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/
また内閣府も「経済財政白書」で発表している。これによれば、正味資産は地方政府が234.9兆円、中央政府は487.4兆円の赤字。である。
http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je01/pdf/wp-je01-00302.pdf
ちなみに地方経済の正味資産が黒字というのは意外に思われるかもしれないが、この背景は自治体間の格差である。貧しい自治体は地方交付税を多くもらっても財政は改善しないが、豊かな自治体は資産も豊富で、合計では純資産がプラスになっている。
 しかし、これらのバランスシートには、全部あるいは一部しかカウントしていない項目がある。年金債務についてだ。年金債務には二つの考え方がある。一つは「現金主義」。「各年度の給付はその時点の収入で賄われるから会計上の負債としてカウントせず、実際に発生した現金収支にみによるというもの。
 もう一つは、「政府は将来の高齢者に年金給付を約束しているが、それに要する積立金も負債としてカウントする」という「発生主義」だ。
財務省の「国のバランスシート」では「現金主義」。将来の給付財源に充てるため保有している積立金のみ「負債(公的年金預り金)」として計上しているだけ。
内閣府の「政府のバランスシート」は、「発生主義」に基づくものの、全額でなくその一部、「公費負担分を計上しているだけです。
2、 財政悪化の最大の要因は、社会保障費の増大であり、年金負担が高齢化によって年々増大することにある。
ここで、社会保障費の対GDP比率を1995年と2044年を比較すると、
1995年には14.7%だったのが、2011年には25.4%になっている。つまり、高齢化のスピードのためである。租税収入の対GDP比は、17.5%(1995)から16.8%(2011)になっている。
3、  財政破たんを避けるべく年金システムの抜本的改革が必要だが極めて困難である。
高齢者にとって年金受給は既得権になっており、有権者の中で高齢者の比率あ年々増加しているからである。
歴史をふりかえれば「財政再建のための増税政策を掲げた政治家は、ことごとく辛酸をなめた。」
 たとえば1979年、初めて公選の焦点に消費税導入を掲げた大平首相率いる自民党は。同年の衆院選で過半数を割り込む大敗を喫した。
 近い所では、2012年6月に、社会保障・税一体改革法案を成立させた民主党野田政権、野田氏はこの法案を通して1997年以来の要否税導入を決めるため、民主党の分裂や政権の崩壊という代償を払った」
 外から眺めると、財務省こそが強大な権限を持つ組織に見えるかもしれないが、予算編成や政策立案の過程では政治の意向が強く働いている。
 海外でも、「財政当局が本当に強い権限を持っていれば、財政は今日ほど悪化しなかった」と指摘する研究もある。
現行の年金システムは、財政を悪化させるだけでなく、著しい世代間格差を生んでいると述べています。
「1億2300万円」という数字の意味をご存じですか。ざっくり言えば、いまの60歳以上と将来世代(1986年生まれ以降)の世代間格差の大きさで、世代ごとに生涯の受益と負担を推計するとこうなると言います。
 財政破たんはどういう形をとって現われるか。
国債の値下がりと国債金利の急上昇が始まり。歳出の抑制に取り組まざるを得ない。その時。最初にやり玉に挙がるのは、年金である。
 公共投資は歳出全体の3%に過ぎないのに、国債費と社会保障関係費で国の予算お4分の3を占めるのだ。
国家予算237.4兆円(14年度一般会計⁺特別会計)のうちいわゆる社会保障給付は110兆円に達する。高齢化によりこの額は今後さらに大きくなる。)

2013年度の社会保障給付費110兆円の財源の内訳は、保険料収入が約60兆円、資産運用収入が約10兆円、残りの約40兆円は公費で賄う。国の負担分、「社会保障関係費」は年伸び率が約1兆円である。
 日本の財政赤字の主たる要因は、社会保障費の急速な膨張にある。しかし、その抜本的改革には「民主主義の壁」がある。少子高齢化により高齢者世代の相対的に増すことだ。高齢世代にとって年金は一種の「既得権益」でその削減が相当な困難を伴うことだ。
2004年の年金改革で、「マクロ経済スライド調整」が導入された。しかし・・・
「マクロ経済スライド調整」とは、その時どきの社会情勢に合わせて年金の給付水準を自動的に調整するしくみです。導入前は、「物価スライド」という仕組みがあり、インフレ率等の物価変動に合わせて年金給付額を増額させていた。しかし、「マクロ経済スライド調整」ではインフレ率(今では賃金上層率)から定率(たとえば0.9%=年金保険者数の減少率(0.6%)+平均余命の伸び(0.3%))を差し引いて給付する。インフレ率が2%なら給付額は1.1%増に留める。その結果、年金受給者は気づかれない形で実質的に毎年約1%削減できる。
 現実には、これまでデフレが継続していたので2004年の導入以来一度も発令されていない。2015年は導入されるらしい。
以上の論理展開は明快で間違ってはいないのですが、すべて財務省の役人の立場からの論であると考えます。
 次回で、一年金受給者側からの議論を述べてみます。(続く)