古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

高橋洋一さんの本

2013-12-16 | 読書
高橋洋一さんの本、「日本は世界一位の政府資産大国」(講談社α新書、2013年10月)を読みました。
「日本国は1000兆円の借金がある」という話は良く聞きます。いくら借金が多くても、資産がたくさんあれば何ら問題はありません。では、日本の資産はどれくらいあるのか、解説する本はないかと思っていましたので、図書館の棚この書名を見てすぐ借りてきました。著者は、かつて大蔵省で、最初に日本政府のバランスシートを作成したのだそうです。
ずばり結論を言うと、「資産628.9兆円。金融資産だけを見ても、2011年の対GDP比の数字を出すと、83.2%になる」。
G7各国の金融資産の対GDP比を比較してみよう。
アメリカ20.0、イギリス32.6、フランス37.0、ドイツ35.5、イタリヤ24.5、カナダ51.%。ドルベースの金額で言うと、アメリカは3兆151億3600万ドル、日本は4兆9063億2064万ドル・・・アメリカを抜く、まさに金メダル級の金融資産を持つ。
日本には豊富な資産があると指摘すると、役人たちは「それらの資産は土地や道路で売れないものだ」と反論してくる(これは有形固定資産180.9兆円に限定した話)。
国道や堤防そのものを売ることはできないが建物は、不動産証券化といったやり方で換金できる。
さらに役人たちは「これらの資産には将来支払う年金の資産が入っている」と言い返してくるが、これは、資金の運用寄託金の話だ。
年金を払うための準備金としておよそ2000兆円が必要だが、現役の人が払う保険料に依存している。年金のための積立金は140兆円。単独でみれば大きいが、年金支払額の1割に満たない。
年金の積立金以外の有価証券はどうか。
113.8兆円の外貨準備があるが、変動相場制なのに、巨額の外貨準備を持って為替市場に介入する必要はない。
さらに、政府資産の中身を見ると、202.2兆円が貸付金と出資金。このうちの多くが、官僚の天下り先の特殊法人に流れている。
企業であれば、経営が苦しくなれば、まず資産を売却する。最初に売値を上げる企業はない。「政府も国の経営が苦しければ資産を売却すべきで、最初に増税をするのは筋が通らない」と言うのが結論です。
私も思うのですが、財務省が増税したがるのは、財務省の役人にとって、予算を決める、つまりおカネの使い方を決めるのが彼らの権限なのです。ですから、毎年1兆円も社会保障費が自然像で増えると、その分お役人の配分する資金が減り、言い換えると、お役人の権限が小さくなります。それが我慢できないからだと思います。

ここまでの著者の主張には大賛成です。しかし、「ソウカナ」と首をかしげる主張もありました。
小泉内閣で、経済財政担当大臣などを務めた竹中平蔵の下で手腕を発揮した著者らしく、郵政民営化に関連してこう言う。
『民営化しても、「郵貯が外資にのっとられる」ことはあり得ない。
銀行には株主規制があるからだ。「株式を20%超保有する場合、銀行主要株主規制で、あらかじめ金融庁長官の認可が必要、また50%超保有する場合の支配株主規制。金融庁長官は、支配株主傘下の銀行経営の健全性維持のために、監督上必要な措置ができる」
にも拘わらず郵政民営化は後退し、それによりTPP交渉の足を引っ張られることになる。
ゆうちょ銀行やかんぽ生命の株を国が持っていると、それらの会社に政府の後ろ盾があることになる。日本がTPPに参加する場合、「その制度はフェアでない」と指摘される可能性が高い。』
ここまでは、まぁ良い。しかし、その後TPPについて
『参加すれば国民の利益になることは自明の理。貿易サービスの自由化は、国民経済を豊かにするからだ。
このロジックは、経済学の中でも、200年程度の長い歴史で実証されている。世界的な叡智ともいえる。
もちろん、短期的にはマイナス面もある。しかし、長期的に見るとプラス面が多いことが経済理論的にわかっており、もしこれを否定できれば、ノーベル経済学賞級の業績だ。』
とまで言い切っている。
この点については、異論ありです。
第一に、TPPを自由貿易の制度と単純に考えてよいか?
第二に、自由市場と言っても、ルールのない、自由市場はあり得ない。どのように自国に有利なルールにするかを政府間で鎬を削っているのであって、どんなルールでもTPPに加入しさえすれば利益があるとは言えない。
第三に、経済理路的に正しいと言っても、今日までに確立された経済学は、国民経済を前提にした理論であって、生産要素も通貨も、国境を越える所謂グローバル経済を前提にした理論は確立されていない(この面で経済学者にノーベル賞級の業績を期待する)。
最後にアベノミクスについての著者の見解。
『消費者動向指数が上昇している。こうした景況感について、高級品を中心に消費が動いているだけで、円安などによる物価上昇で、株に投資している人以外には恩恵が少ないという批判がある。しかし・・
株高によって年金運用がずいぶんと楽になったという事実がある。2012年10月から12月における、厚生年金と国民年金を運用する年金基金の運用益は約5.1兆円。この運用益は最終的には、年金受給者の利益になる。「インフレで喜ぶのは資産家だけ」という発言は的外れである。』
それは、その通りですが、あらゆる政策には、プラスとマイナスがあり、プラスがマイナスより大きいかどうかが問題なのです。