古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

『パレートの法則

2012-03-26 | 読書
『動的平衡2』(福岡伸一著、11年12月刊木楽舎)という本を読んでいます。「きらくしゃ」という出版社のネーミングが面白いですね。 
“働きアリに見る『パレートの法則』”という章がありました。
『働かないアリに意義がある』(メデイヤファクトリー新書)という面白い本がある。私たちはアリを働き者の代名詞のように思っているけれど、実は彼らの2割くらいは働かずに遊んでいるというのである。
著者の長谷川英祐氏(北海道大学大学院准教授)のグループは、シワクシケアリを研究素材にした。
「7つのコロニーを野外から採集して、1匹の女王と150匹の働きアリからなる実験コロニーを作りました。すべての働きアリを個体識別できるようマーキングし、1ヶ月間すべての個体の行動を1日に3回ずつ記録しました。1ヵ月後、働きアリごとに記録を集計し、仕事をしていた割合を計算しました。
「結果、すべてのコロニーで、働きアリごとに仕事をしていた割合が大きく違っており、ほとんど何もしていない『働かない働きアリ』から、観察された行動の9割以上が仕事であるような『よく働く働きアリ』まで幅広くいる」
 研究グループは「働く、働かない」がそのアリに与えられた天性の資質なのかどうかを確認する。
「次に実験の第二段階として『よく働く』30匹の働きアリを残すコロニーを三つ、『働かない』30匹を残すコロニーを四つ作り、女王とともにさらに一ヶ月飼育観察しどうなるかを調べました。働くアリだけを選抜したコロニーも、働かないアリだけを残したコロニーでも、やはり残された個体は一部が働き、一部はほとんど働かないという、元のコロニーと同じような労働頻度の分布を示すことがわかった」
 「働く、働かない」は、天性のもの(つまり遺伝)ではなかったのである。長谷川氏は、この観察結果について「パレートの法則」が「少なくともシワクシケアリの世界では実在する現象だった」と述べている。
 「パレートの法則」とは100年ほど前に、イタリヤの経済学者ヴィルフレッド・パレートが発表した経済法則で「社会の富の8割は2割の高額所得者に集中し、残りの2割の富が8割の低所得者に配分される」というもの。
 以後、この法則は多くの社会現象や自然現象を語るのに使われ「会社の売り上げの8割は、従業員の2割が生み出している」などと言われる。その原因は?
「仕事への反応性の個性のせいだと考えられます」。働かないアリを集めて作ったコロニーでも、相対的に反応性の高いアリが、働くようになる。
 書名が示すように、長谷川氏は「その働かない2割のアリにも意義がある」と指摘している。「2割くらい遊軍を常に準備しておく」という仕組みは「いざ」というときには役立つだろうが、いつ「いざ」がやってくるかはわからない。すぐかもしれないし、遠い将来かもしれない。
しかし、現在のダーウィニズムの枠組みでは、遠い将来に役立つかもしれないことを、生物が、あるいは生物の集団が、あらかじめ予定して準備しておくことはできないと考えられている。なぜなら、その仕組みは、その世代において機能しない限り自然選択の対象になりえないからである。
 それゆえ、生物の集団が、見かけ上、未来に起こりうることを想定して、それに対応した仕組みに進化させているようにみえる、この観察事実は、新しい生物学、新しい進化学を考える上でとても刺激的な問題提起なのである。(続く)