「小さな政府と大きな政府」について面白い論文を読みました。
神野直彦東大名誉教授が、中央公論5月号に寄せた論文「小さな政府では格差と貧困を解消できない」です。
まず、大きい政府の定義をしています。
社会的支出の対GDP比の大きい政府を大きい政府と定義しています。
社会的支出とは、年金、保険医療給付、現金給付(子供手当てなど)等を言います。
もう一つ、社会的扶助支出という言葉を定義しています。たとえば、生活保護のように、貧困者に限定して支給する現金給付(対GDP比)です。
以下は、その社会的支出と社会的扶助支出のデータです。
国 社会的扶助支出 ジニ係数 相対的貧困率 社会的支出
アメリカ 3.7 0.361 16.7 15.2
イギリス 4.1 0.312 10.9 23.1
スウェーデン 1.5 0.211 3.7 35.3
デンマーク 1.4 0.213 3.8 30.7
ドイツ 2.0 0.280 9.1 26.4
フランス 2.0 0.278 7.5 28.0
日本 0.3 0.295 13.7 11.8
(ジニ係数と貧困率は90年代半ば)
スウェーデンの社会政策学者コルビは、「再分配のパラドックス」という説を唱えています。「貧困者に限定した現金給付を手厚くすればするほど、社会の格差は激しくなる」というのです。この表で言うと、社会的扶助支出の大きいアメリカ、イギリスはジニ係数でみても相対的貧困率でみても格差が大きい(格差が大きいから社会的扶助支出が大きい?)。
いずれにしても、社会的扶助支出には、格差を減らす効果はない、社会的支出の大きい国は格差が少ない、といえそうです。
ジニ係数についてのデータ(1995)を見てみます。
国 財政介入前 財政介入後 変化率
アメリカ 0.455 0.344 ▲24.5
ドイツ 0.436 0.282 ▲35.5
日本 0.340 0.265 ▲22.0
フランス 0.392 0.231 ▲41.0
スウェーデン 0.487 0.230 ▲52.9
(財政介入前は税金や社会保障給付以前の所得、介入後は税引き・社会保障給付後)
ジニ係数が大きいほど所得分配は不平等ということになります。つまり、日本は市場の決める所得ではもっとも平等だが、政府の介入による格差解消はもっとも少ない!
政府は何をしているのか?次のデータを見ます。
国 政府の大きさ(社会的支出/GDP)% 経済成長率 相対的貧困率 財政収支
アメリカ 14.8 3.0 17.1 ▲2.8
ドイツ 27.4 1.2 9.80 ▲2.7
スウェーデン 29.8 2.6 5.30 1.4
日本 16.9 1.4 15.3 ▲6.7
(政府の大きさ2001、貧困率2000、財政収支と成長率2001~2006)
表から見て明確なことは、日本はもっとも財政収支の赤が大きいが、社会的支出が大きいわけでもない。相対的貧困率もアメリカに近い高さで、経済成長率は最悪。
お金の使い方についての政府のパフォーマンスが最悪だというのです。
では、どういうお金の使い方をすべきか?その結論だけ。
【重化学工業では同質の筋肉労働を必要とするため、主として男性が労働市場に進出する。政府は市場の外側で、主として男性が労働市場で獲得すると想定されている賃金を喪失した時に現金を給付すれば、国民の生活を保障することが出来た。
重化学工業を基軸とする工業社会では、家族内で無償労働に従事する、主として女性の存在が想定できたからである。つまり、失業すれば失業保険、疾病に陥れば医療保険、高齢退職すれば年金というように、主として男性が稼得してくる賃金を喪失した時に、所得を保障すれば、・・生活を保障できたのである。
ところが、知識産業やサービス産業というソフトな分野に産業構造の基軸が転換すれば、女性も大量に労働市場に進出するようになる。そうなると、育児や養老などを無償労働で担った女性が姿を消し、家族の生活保障機能は縮小する。】
そういう社会にあっては、政府の社会的支出は大きくなる。「小さな政府では格差と貧困を解消できない」という論旨です。
神野直彦東大名誉教授が、中央公論5月号に寄せた論文「小さな政府では格差と貧困を解消できない」です。
まず、大きい政府の定義をしています。
社会的支出の対GDP比の大きい政府を大きい政府と定義しています。
社会的支出とは、年金、保険医療給付、現金給付(子供手当てなど)等を言います。
もう一つ、社会的扶助支出という言葉を定義しています。たとえば、生活保護のように、貧困者に限定して支給する現金給付(対GDP比)です。
以下は、その社会的支出と社会的扶助支出のデータです。
国 社会的扶助支出 ジニ係数 相対的貧困率 社会的支出
アメリカ 3.7 0.361 16.7 15.2
イギリス 4.1 0.312 10.9 23.1
スウェーデン 1.5 0.211 3.7 35.3
デンマーク 1.4 0.213 3.8 30.7
ドイツ 2.0 0.280 9.1 26.4
フランス 2.0 0.278 7.5 28.0
日本 0.3 0.295 13.7 11.8
(ジニ係数と貧困率は90年代半ば)
スウェーデンの社会政策学者コルビは、「再分配のパラドックス」という説を唱えています。「貧困者に限定した現金給付を手厚くすればするほど、社会の格差は激しくなる」というのです。この表で言うと、社会的扶助支出の大きいアメリカ、イギリスはジニ係数でみても相対的貧困率でみても格差が大きい(格差が大きいから社会的扶助支出が大きい?)。
いずれにしても、社会的扶助支出には、格差を減らす効果はない、社会的支出の大きい国は格差が少ない、といえそうです。
ジニ係数についてのデータ(1995)を見てみます。
国 財政介入前 財政介入後 変化率
アメリカ 0.455 0.344 ▲24.5
ドイツ 0.436 0.282 ▲35.5
日本 0.340 0.265 ▲22.0
フランス 0.392 0.231 ▲41.0
スウェーデン 0.487 0.230 ▲52.9
(財政介入前は税金や社会保障給付以前の所得、介入後は税引き・社会保障給付後)
ジニ係数が大きいほど所得分配は不平等ということになります。つまり、日本は市場の決める所得ではもっとも平等だが、政府の介入による格差解消はもっとも少ない!
政府は何をしているのか?次のデータを見ます。
国 政府の大きさ(社会的支出/GDP)% 経済成長率 相対的貧困率 財政収支
アメリカ 14.8 3.0 17.1 ▲2.8
ドイツ 27.4 1.2 9.80 ▲2.7
スウェーデン 29.8 2.6 5.30 1.4
日本 16.9 1.4 15.3 ▲6.7
(政府の大きさ2001、貧困率2000、財政収支と成長率2001~2006)
表から見て明確なことは、日本はもっとも財政収支の赤が大きいが、社会的支出が大きいわけでもない。相対的貧困率もアメリカに近い高さで、経済成長率は最悪。
お金の使い方についての政府のパフォーマンスが最悪だというのです。
では、どういうお金の使い方をすべきか?その結論だけ。
【重化学工業では同質の筋肉労働を必要とするため、主として男性が労働市場に進出する。政府は市場の外側で、主として男性が労働市場で獲得すると想定されている賃金を喪失した時に現金を給付すれば、国民の生活を保障することが出来た。
重化学工業を基軸とする工業社会では、家族内で無償労働に従事する、主として女性の存在が想定できたからである。つまり、失業すれば失業保険、疾病に陥れば医療保険、高齢退職すれば年金というように、主として男性が稼得してくる賃金を喪失した時に、所得を保障すれば、・・生活を保障できたのである。
ところが、知識産業やサービス産業というソフトな分野に産業構造の基軸が転換すれば、女性も大量に労働市場に進出するようになる。そうなると、育児や養老などを無償労働で担った女性が姿を消し、家族の生活保障機能は縮小する。】
そういう社会にあっては、政府の社会的支出は大きくなる。「小さな政府では格差と貧困を解消できない」という論旨です。