shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

DELICIOUS / JUJU

2011-12-22 | Jazz Vocal
 先日いつものようにパソコンを立ち上げてヤフーのトップページを見ると、ニュース下にある “今知っておきたいエンターテインメント情報” 欄に “ジャズ初心者にもオススメ。JUJUが初のジャズカヴァーアルバム「DELICIOUS」を語る。” という記事があった。ジャズがエンタメのニュースになること自体珍しいが、それよりも私の関心を引いたのは JUJU というシンガーだった。
 私が彼女の存在を知ったのは去年のことで、マイラバの「Hello Again ~昔からある場所~」をカヴァーしたPVを YouTube で見てエエなぁと思ったのが最初だった。彼女はカヴァーだけでなくオリジナル曲でもコンスタントにヒットを飛ばしている人気歌手らしいのだが、今時の J-Pop に何の興味も関心もない私と彼女の接点はマイラバのカヴァー1曲のみで、それ以降彼女のことはすっかり忘れていた。
 ところが先月だったか、CS放送でF1 を見終わった後、テレビをそのままつけっ放しにしていたところ、 “JUJU苑” と題した彼女のライヴ番組が始まったのだ。 “あぁ、マイラバをカヴァーしてたあの歌手か... 一体どんな曲を歌うんやろ?” と思って見ていると、中森明菜の「セカンド・ラヴ」や小林明子の「恋におちて」といった邦楽に混じって何とエルトン・ジョンの「ユア・ソング」やキャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」といった洋楽の名曲をカヴァーしているのだ。特に「ユア・ソング」は名唱と言っていい素晴らしさで、“JUJU って有象無象の J-Pop 歌手とは違うんやな...” と感心したものだった。そういうわけで JUJU がジャズを歌っているという記事に興味を引かれた私は早速ネットでそのジャズ・カヴァー・アルバム「DELICIOUS」について調べてみることにした。
 私は未知のジャズ・ヴォーカル盤に出会うとまずその選曲を見る。過去の経験から言って、自分の好きなスタンダード・ソングを多く取り上げている歌手は十中八九気に入るものだ。そういう意味で、この「DELICIOUS」の選曲は私の趣味にピッタリで、②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」に⑦「ララバイ・オブ・バードランド」という “コレが入ってたら絶対に買います” レベルのスーパー・ウルトラ愛聴曲を始め、③「ナイト・アンド・デイ」、④「キャンディー」、⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」、⑥「ガール・トーク」、⑨「キサス・キサス・キサス」と、まるでこちらの嗜好を見透かしたかのような名曲のアメアラレ攻撃である。アマゾンで試聴してみた感じもかなり良かったので、Blue Note Tokyo でのライヴを収録したDVD付きの初回生産限定盤を注文することにした。再販制度という摩訶不思議なシステム(笑)のおかげでDVD付きの方が安いのだ。(私は2,980円で買ったけど、さっきアマゾン見たら6,280円になっとった... おぉこわ!)
 このアルバムで聴ける彼女のヴォーカルはリラクセイション感覚に溢れる癒し系。YouTube の関連動画にあった彼女の J-Pop 曲では、いかにも今の若者にウケそうな “声を作って歌う” 歌唱法が少々鼻につくが、このアルバムではスタンダード・ソングへの愛情とリスペクト故か、肩の力を抜いて自然体で歌っているところが◎。JUJU には J-Pop よりも Jazz が良く似合う。
 桑田佳祐師匠の「夷撫悶太レイト・ショー」や「歌謡サスペンス劇場」を手掛けた島健氏がアレンジを担当、ピアニストとしても歌心・遊び心に溢れるプレイを披露しており、このアルバムの成功の多くは彼に負う所が大きいと思う。特に②「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」ではヘレン・メリルの、⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」ではジュリー・ロンドンの、⑦「ララバイ・オブ・バードランド」ではサラ・ヴォーンの決定的名演に敬意を払いながら JUJU の魅力を巧く引き出しているところが素晴らしい。
 インタビューを読んで知ったのだが、彼女は芸名の JUJU をウエイン・ショーターのブルーノート盤から取った(←アーチー・シェップじゃなくてよかったわ... 笑)というぐらい年季の入ったジャズ・ファンらしい。このアルバムではそんな彼女が長年聴き込んできたスタンダード・ソングの数々をストレートに歌い上げており、実に聴きやすくて心地良いヴォーカルが楽しめる。そのへんの軽薄 J-Pop 歌手が話題作りのためにジャズ・アルバムを作ってみました、というのとはワケが違うのだ。特に、シングル・カットされた⑦「ララバイ・オブ・バードランド」で聴かせる彼女のDNAの一部と化したジャズ成分を巧く散りばめた歌唱はまさに絶品で、その微妙なくずし具合に彼女のジャズ愛を見る思いがする。
 それともう一つ彼女が凄いのはそれぞれのスタンダード・ソングの歌詞の内容をしっかりと理解しているということ。以前「ジャズ詩大全」の筆者である村尾陸男氏が、日本の“自称”ジャズ・シンガーの中には歌詞の意味をよくわからずに歌っている人が少なくないと嘆いておられたが、下に貼り付けた彼女のライヴ MC を聞けばわかるように、英語に堪能な彼女は歌詞の意味をしっかりと理解し、噛みしめながら歌っている。⑤「クライ・ミー・ア・リヴァー」では自分をふった男に対して “何よ今更...” 、⑨「キサス・キサス・キサス」では曖昧な態度を取る男に対して “多分、とかじゃなくてハッキリ言ってよ!” というオンナの気持ちを巧く表現しているし、“あなたと離れるたびに私の心が少し死んでいく” と歌う⑪「エヴリタイム・ウィー・セイ・グッドバイ」では恋する女性の切ない想いを見事に歌い上げている。
 アマゾンや YouTube の書き込みを見ると “めっちゃエエ雰囲気!” という肯定的な意見と “こんなのジャズじゃない!” という否定的な意見の賛否両論真っ二つに分かれて喧々諤々で中々面白い。昔スイング・ジャーナルというジャズの雑誌で “フランク・シナトラはジャズ・ヴォーカルか否か” という不毛な論争を読んで “アホくさ...” と思うと同時に不快感を覚えたことを今思い出したが、感性で音楽を楽しむのではなく理屈で音楽を “語りたがる” 連中は、クラシックやジャズを崇め奉り、逆にロックやポップスを軽視する傾向があるような気がする。同じ音楽なのに何と心の狭いことか。ジャズ界の巨匠デューク・エリントンの有名な言葉に「音楽を型にはめ、分類するのはおかしい。そんなことは無意味だ。世の中には2種類の音楽しかない。良い音楽とつまらない音楽だよ。」というのがあったが、まったくもって同感だ。音楽に高尚もクソもないのだ。
 偉大なる先人達による名演への敬意を払いながら、愛するスタンダード・ソングの数々を自分のスタイルでストレートに歌い上げる JUJU の Jazz は素晴らしい。大好きなスヌーピーをフィーチャーし、ご自慢の(?)美脚を惜しげもなく披露したジャケットも含め、ジャジーな雰囲気横溢の素敵なヴォーカル・アルバムだ。

Lullaby Of Birdland


A Woman Needs Jazz / You'd Be So Nice To Come Home To


Night And Day / Candy


Cry Me A River / Girl Talk
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