shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Rumours / Fleetwood Mac

2011-12-11 | Rock & Pops (70's)
 先日、若手の同僚 H君が私の所へ来て “shiotch7さん、洋楽好きでしたよね?” と訊いてきた。 “うん、好きやけど、一体どーしたん?” “実はフリートウッド・マックっていうグループの「噂」っていうアルバム聴いてみたいんですけど、持ってはります?” とのこと。彼は今時の若者には珍しい良識ある好人物で、クラシック音楽が好きとは聞いていたが、どこかで偶然マックの「噂」を耳にしたのだろうか? “へぇ~ 中々エエ趣味してるやん!対訳・解説とか付いてない輸入盤でよければ明日持って来たげるわ。” とまぁこんなやり取りがあったのだが、サムがオーストラリアへ帰ってしまって以来久々に職場で音楽の話ができて楽しかった。
 というワケで家に帰って「噂」を聴いてみたのだが、久しぶりに聴くマックは実に新鮮でめっちゃエエ感じ。思えば去年の1月頃にマックにずっぽりハマッてこのブログでも大特集したが、H君のおかげでこの数日というもの、マック熱が再燃している。きっかけを作ってくれたH君に大感謝だ。ということで今日はフリートウッド・マック屈指の名盤「噂」でいくことにしよう。
 このアルバムは全米チャートで31週(←約8ヶ月間!)1位を記録し、アメリカだけでも1,900万枚を売り上げたという大ヒット盤なのだが、当時の私はまだ洋楽を聴き始めたばかりでビルボードのビの字も知らず、リアルタイムでその凄さを実感したわけではなかった。彼らに興味を持ったのはNHKの「ヤング・ミュージック・ショー」を見てからで、スティーヴィー・ニックスの妖艶な魅力にコロッと参ってしまい、すぐにレコード店へと走って「ファンタスティック・マック」と「噂」を購入した。
 元々はブリティッシュ・ブルース・ロック・バンドだったマックがリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスの加入により1975年のアルバム「ファンタスティック・マック」でアメリカナイズされたポップ・バンドへと大きく方向転換し、更にその路線を推し進めたのが1977年の「噂」で、この2枚はジャケット・イメージといい、洗練された女性ポップ・ヴォーカル・グループとしての魅力を前面に打ち出したサウンドといい、収録されている楽曲のクオリティーの高さといい、まさに一卵性双生児と言ってもいいぐらい雰囲気が似たアルバムである。それなのになぜ「噂」だけがあれほど異常に売れた(←「ファンタスティック・マック」も全米1位を獲得し、500万枚を売り上げた大ヒット・アルバムなのだが...)のだろうか?
 まず第一に「ファンタスティック・マック」がリリースから1年以上かかって1位になり、彼らの唯一無比なポップ・サウンドを受け入れる素地が十分出来上がったところへ絶妙のタイミングで「噂」をリリースしたことが挙げられる。しかも⑤「ゴー・ユア・オウン・ウェイ」(10位)、②「ドリームス」(1位)、④「ドント・ストップ」(3位)、⑧「ユー・メイク・ラヴィング・ファン」(9位)と、カットしたシングルを全てトップ10に送り込むことによって更にアルバムの売り上げを伸ばすという “80's型プロモーション” が功を奏したと言えるのではないか。例えるならデフ・レパードの「パイロメニア」と「ヒステリア」みたいなモンである。
 「ファンタスティック・マック」とのもう一つの違いは非常に微妙ながらアルバム全体に一種独特の緊張感が漲っていること。ポップ路線への転換が見事に当たってまさに絶頂期を迎えんとしていたマックだったが、それとは対照的にグループ内の人間関係は最悪で、リンジーとスティーヴィー、ジョンとクリスティンという2組のグループ内カップルが破局を迎え、リーダーのミックも離婚したばかりだった。普通ならそんな状態の5人が揃ってもロクな音楽は出来そうにないのだが、彼らは自作曲において逆境に置かれた自らの心情を赤裸々に吐露し、異常なまでの高い集中力で数々の名曲名演を生み出していったのだ。まさにプロフェッショナルの鑑である。
 中でも痛烈なのがリンジーの⑤「ゴー・ユア・オウン・ウェイ」で、 “君を愛したのは間違いだった... もう君の好きなようにしろよ... どこへでも行けばいい” と別れたばかりのスティーヴィーに対する捨て台詞のような歌詞は辛辣そのものだ。当時のライヴでサビのコーラスを付けるスティーヴィーの心情は如何ばかりだったろうかと思うが、97年のリユニオン・ステージでは酸いも甘いも噛み分けた(?)良き友人としてまるでお互いを慈しむように向き合いながらこの曲を歌っており、そんな二人の姿にジーンときてしまう。
 スティーヴィーの②「ドリームス」は名曲「リアノン」の流れを汲むナンバーで、彼女の妖艶な魅力が全開だ。しかしその歌詞は⑤に負けず劣らず辛辣そのもので、女を作って出て行ってしまったリンジーに対して “心を静めて自分が何を失ったか思い出してみるといいわ... あなたの前に現れた女たちもいつかは去っていく... 頭を冷やせばよく分かるはずよ...” とこれまた容赦ない(笑) ヴォリューム奏法(?)で幻想的なムードを巧く醸し出しているリンジーだが、この勝負、スティーヴィーの勝ちかな(^.^) この二人、レコーディング中は口もきかなかったらしいが(←怖っ)、歌詞を通して痴話ゲンカしてそれがミリオン・セラーになってしまうのだから音楽の世界は面白い。
 そんな愛憎渦巻く二人に比べ、穏健派(?)のクリスティン・マクヴィーが書いた④「ドント・ストップ」は “過去を振り返らずに未来に目を向けよう” というポジティヴな歌詞が◎。やっぱりこの人、オトナですね(^.^)  リユニオン・ライヴでの南カリフォルニア大学マーチング・バンドとの共演での盛り上がりは圧巻の素晴らしさだった。
 煌めくようなポップ・センス溢れる洗練されたサウンドとグループ内のドロドロした男女関係が生んだ人間臭い歌詞(←ぜひ注目して下さい!)が絶妙に溶け合ってアンビバレントな魅力を放つこの「噂」はフリートウッド・マックを、いや70年代ポップスを代表する金字塔的な1枚だと思う。

Fleetwood Mac - Go Your Own Way - Dance Tour '97


Fleetwood Mac - Dreams - The Dance -1997


Fleetwood Mac Don't Stop