shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Portrait In Jazz (Stereo) / Bill Evans

2022-12-17 | Jazz
 今日は久々にジャズ・レコードのお話。そもそも私がアナログ・レコード、それもオリジナル盤を買い始めたのはグランジ / オルタナやR&B / ヒップホップまみれの90年代洋楽チャートに嫌気がさしてコンテンポラリーなロック・ポップスと決別し、他ジャンルを模索している中で聴き始めたモダン・ジャズがきっかけで、同じ演奏をCDとオリジナルLPで聴き比べてそのあまりの音の違いに衝撃を受け、ブルーノートやプレスティッジ、ベツレヘムといったレーベルを中心に、CDで聴いて特に気に入った盤をオリジナル盤で買うようになったのだった。あれから20年以上が経ち、欲しかったジャズのオリジナル盤はほとんど手に入れることが出来たが、未だに買えてない盤が数枚あって、何とかゲットしようと根気強くネットで網を張っていた。そして先日ついにその中の1枚をめでたく入手できたのだが、そのレコードこそ今日取り上げるビル・エヴァンスの「Portrait In Jazz」ステレオ1stプレス盤なのだ。
 このレコードは音の悪いオルフェウムのリイシュー盤なら簡単に手に入るが、オリジナルであるリヴァーサイドの黒レーベル盤となると中々市場に出てこないし、ごくたまに出てきても$300を超える超高値で、私なんかには手も足も出ない。今の時代、確かに金さえ出せば大抵の物は買えると思うが、それではそのレコードを聴くたびに毎回 “ぼったくられたなぁ...” という忸怩たる思いが頭をよぎることになって、音楽を聴く喜びよりも不愉快な気持ちが先に立ってしまう。私はいくらそのレコードが欲しくても、自分が考える適正価格以上の値が付いたレコードは絶対に買わない主義なので、「Portrait In Jazz」のステレオ1stプレスを中々手に入れることができなかったのだ。
 今年に入って狂ったような円安に突入したのと、Discogsの改悪に愛想が尽きて絶縁処分にしたことのダブルパンチで海外からレコードを買うペースがガクンと落ち、エヴァンス遠のいてしもうたなぁ... と半ば諦めていたのだが、先月 Discogsの代わりにチェックするようになった CD and LP というサイトに「Portrait In Jazz」ステレオ黒レーベル盤が出品されているのを発見。値段を見ると驚いたことに $75という嘘みたいな低価格。慌てて商品説明を読むと、盤質は VG(plays with some crackle)なのだがジャケットに難ありということで G+ が付けられている。私は盤質さえOKなら余程のことがない限りジャケットのダメージは気にならないので、送料込みで VG盤が1万円ちょいで手に入るなら安いモンと思い、ダメ元の値下げ交渉も成功して$70でゲット。まさかこの円安の逆境の中でビルエバはんの垂涎盤がこんなに安く手に入るとは夢にも思わなんだ。人生とは不思議なモンである。
 届いた盤はスパイン部分に貼られたセロテープが茶色く変色してパラパラと剥がれてたり、ジャケットの底が完全に抜けてたり、裏ジャケに前所有者の名前が太いマジックでデカデカと書かれてたりで、これなら確かに由緒正しいコレクターには見向きもされないだろうという満身創痍ジャケだったが、盤の方はパッと見は大きなキズも無く一安心。最近の私的デフォルトになった3回連続超音波洗浄(←効果のほどは分からんけど1回きりよりは何かキレイになる気がする...)を施してからいよいよターンテーブルに乗せる。少なくとも見た目上はピッカピカのNM盤だ。
 実際に音出ししてみると、曲によって VG になったり VG+ になったり Ex になったりという感じだが、一番チリパチの大きな箇所でもリスニングの邪魔になるというほど酷くはない。特に大好きな「枯葉」「ウィッチクラフト」「ペリズ・スコープ」が Ex レベルの再生音で聴けるのがホンマにラッキーだ (^o^)丿 サックスやトランペット入りのにぎやかなジャズとは違い、ピアノ、ベース、ドラムスだけのピアノトリオ盤は繊細さこそが命なので盤質がめちゃくちゃ重要なんである。
 このレコードはオリジナル・モノラル盤(青レーベル)も持っているが、A②「枯葉」がモノとステレオで別のテイクが入っているということで、是非ともステレオのオリジナル盤を聴いてみたかったのだ。で、聴いてみた感想としては、しっかりとした芯のある音で特にエヴァンスのピアノの音が太く入っていて “ピアノが主役のトリオ” としての丁々発止のインタープレイが楽しめるモノ盤(←モチアンのブラッシュもしっかりした音で入っているが、ラファロのベースは何故か少しこもって聞こえる...)に対し、ステレオ盤の方はラファロのベースのキレが圧倒的に素晴らしく(←相対的なものかもしれないがピアノやシンバルの高域のヌケはイマイチ)、ベース中心の三位一体プレイが生み出す躍動感を存分に味わえる。極論すれば、エヴァンスを中心に聴くならモノ、ラファロを中心にトリオとしての進取性を楽しみたければステレオ、と言えるかもしれない。個人的な好みで言うと、ピアノのイントロの後に入っているラファロの“グィ~ン” というチョーキングがたまらないモノ・ヴァージョンに軍配を上げたい。
Autumn Leaves (Mono)

Autumn Leaves (Stereo)

 レコード・コレクションをしている人間にとって、長い間ずーっと欲しかったレコードをついに手に入れた時の喜びというのは筆舌に尽くし難いものがあるが、そういう意味でこの「Portrait In Jazz」ステレオ黒レーベル盤の入手はめちゃくちゃ嬉しい出来事だった。入手困難盤ゲットの秘訣は焦らずにただひたすら待つ... これに限りますな。