shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

コブラの悩み / RC サクセション

2011-07-15 | J-Rock/Pop
 私がリアルタイムで RCサクセションを聴いて盛り上がっていたのは1980~82年頃までで、清志郎が教授と共演して大ヒットした CMソング「いけないルージュ・マジック」あたりを最後に、私の関心は日本のロックから英米の80'sポップスへと移っていった。これは歌謡曲をも含めた当時の邦楽が私の嗜好から外れていったのに対し、洋楽から大嫌いだったディスコ音楽が姿を消し、メロディアスなポップスが主流になったからだ。そういうワケで80年代は RC も含めて、私はほとんど邦楽を聴かずに過ごした。
 そんな私が再び清志郎に注目したのはそれからずっと後のこと、彼が歌うビートルズ・カヴァー「ヘルプ」を偶然耳にしてすっかり気に入った私はすぐにこの「コブラの悩み」を購入した。その時点では有名な “カバーズ発売中止騒動” のことは何も知らず、ただただ「ヘルプ」目的で買ったのだった。
 この盤を初めて聴いた時は何よりもまずその攻撃的な歌詞にビックリ。アルバム全体に清志郎の怒りが充満しているのだ。それから色々調べて、前作「カバーズ」に反核・反原発ソングが含まれていたことに彼らの所属レコード会社である東芝EMIが難色を示し(←親会社の東芝は原子炉を作っており、そこから圧力がかかったという噂...)、仕方なくレコード会社を変えて発売したということを知った。そりゃあ清志郎も怒るわな。
 このアルバムは “カバーズ騒動” 真っ只中の8月に日比谷野音で行われたコンサートの模様を収録したライヴ盤で、そのせいか清志郎のヴォーカルには鬼気迫るモノが感じられる。演奏の方も70年代前半のストーンズのようなグルーヴを感じさせる素晴らしさで、個人的にはこの時期のRC(清志郎、チャボ、新井田、小林、G2 の5人が揃った公式音源としてはコレが最後やったと思う...)が一番好きだ。
 “本当の事なんか言えな~い 言えばつぶされる♪” と吼えるように歌う②「言論の自由」を始めとして⑦「軽薄なジャーナリスト」、⑪「あきれて物も言えない」といったオリジナル曲の過激な歌詞からも十分に清志郎の怒りが伝わってくるが、このアルバムのハイライトは何と言っても洋楽のメロディーに彼が独自の訳詞をつけて歌うカヴァー曲だと思う。前作「カバーズ」でも明らかなように、自分が伝えたいメッセージをダイレクトに既存の曲に乗せていく一種の替え歌作業において清志郎の天才ぶりは冴え渡っており、その切れ味は日本のロックという概念を軽く超越している。例えるなら、「ラプソディー」でブレイクした頃はフォーミュラ・ニッポンのドライバーだったのが10年経って世界トップ・レベルのF1レーサーに成長したような、そんな感じなのだ。
 まずは私が清志郎に再注目するキッカケとなったビートルズ・カヴァーの④「ヘルプ」だが、 “I need somebody” の所を “あ~兄さん婆さん♪” という見事な語呂合わせで始め、細部にわたってビートルズのオリジナルに忠実なアレンジを施しながらも(←特にバック・コーラスの絡みが絶妙!)訳詞の方は清志郎節が全開で、 “そりゃー10年前は電気のことも それほど恐ろしいことじゃなかった でも10年たって気づいたことは ずる賢い奴らがいるってことさ” と例の反原発ソング騒動にサラリと触れながら “あの子供の頃は心配な時も すべてを忘れて眠れたものさ でも大人になって気づいたことは どこにも逃げ場が無いってことさ” と不条理な現状を嘆き、最後は HELP US! というシンプルなメッセージで締める。 HELP ME! ではなく HELP US! としたところが技アリだ。尚、同タイトルの DVD もあるが若干曲目が違っており、「ヘルプ」は CD のみの収録なので要注意である。
 続く⑤「イヴ・オブ・デストラクション」(邦題:明日なき世界)も圧倒的に素晴らしい。オリジナルはバリー・マクガイアが1965年に歌って大ヒットした全米№1ソングで、「受験生ブルース」で有名な高石友也がそれに訳詞を付けてカヴァーしたものに清志郎がバリバリのロック・アレンジを施したものがコレだ。25年前の古き良きプロテスト・フォーク・ソングが換骨堕胎されて疾走感溢れるカッコ良いロックンロールに生まれ変わっており、初めてこの RC ヴァージョンを聴いた時はそのあまりの違いに同じ曲だとは全く気付かなかった。他人が書いた歌詞でありながらそれを完全に自家薬籠中のモノにした清志郎の説得力抜群の歌声を聴いていると彼のオリジナル曲のように聞こえてしまう。カヴァーがオリジナルを超える瞬間とはこういうのを言うのだろう。個人的には RC の名演ベスト3に入れたいくらい気に入っている超愛聴曲だ。
 ザ・バンドの名演が忘れ難い①「アイ・シャル・ビー・リリースト」のカヴァーも圧巻で、アルバムの1曲目に持ってきたのも十分納得がいく名演だ。この盤はジョン・レノンの「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」と同様にまず第一に歌詞を聴かせるアルバムだと思うのだが、ここでも “カバーズ騒動” をストレートに皮肉った歌詞が痛快そのもの。 “頭の悪い奴らが圧力をかけてくる 呆れてモノも言えねぇ またしても物が言えない 権力を振り回す奴らが またワガママを言う 俺を黙らせようとしたが かえって宣伝になってしまったとさ...” のラインなんて最高だし、 “陽はまた昇るだろう 東の島にも” という行を “東の芝”(←つまり東芝EMI のことやね!)と歌うところなんか清志郎のブラック・ユーモア炸裂でオーディエンスからもひときわ大きな歓声が上がっている。もちろん演奏面でも聴き所満載で、チャボの歌心溢れるギター・ソロといい、金子マリのソウルフルなバック・コーラスといい、言うことナシのキラー・チューンだ。
 このアルバムのラストには⑫「君は LOVE ME TENDER を聴いたか?」というわずか30秒のスペシャル・ショート・ヴァージョンが収められており、“君は LOVE ME TENDER を聴いたかい 僕が日本語で歌ってるやつさ あの歌は反...” と尻切れトンボで終わってしまうのだが、当時は何でこんな中途半端なヴァージョンが入ってるのかワケがわからんかった。今ではネット上で完全版が聴けるので、清志郎が言いたかったことが痛いほど伝わってきて激しく胸を打つ。 “それとも原子力発電と核兵器は同じものなのかい?” と、東芝を始めとして清志郎に不当な圧力をかけてきたブタ連中にナイフを突きつけるかのような歌詞が痛快だ。ニコニコ動画にアップされてたヤツを下に貼っときましたので興味のある方はどーぞ。

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RC SUCCESSION - 明日なき世界


忌野清志郎 I Shall Be Released.