shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

End Of The Century / Ramones

2010-09-13 | Ramones
 私の音楽の聴き方は典型的な芋づる式である。ひょんなキッカケから予想もしなかった方向へとマイブームが広がっていく。前回少年ナイフによるラモーンズへのトリビュート・ソングを取り上げた時に久々にラモーンズのCDを引っ張り出してきて聴いてみるとコレが結構エエ感じだったので、折角だからガールズ祭りはちょっとお休みして今日はラモーンズでいってみよう。
 そもそも私は決して熱心なラモーンズ・ファンというわけではなかった。彼らがシーンにデビューしたのは1970年代半ば、私はまだ洋楽を聴き始めたばかりでビートルズ関係の音源を追いかけるのが最優先だったし、彼らに関しては “N.Y.のパンクロック・バンド” という程度の認識しかなく、実際に音を聞いたかどうかすら記憶にないというのが正直なところだった。
 それから何年か経ったある日のこと、ラジオからウキウキワクワクするような楽しいロックンロールが流れてきた。 “誰やコレ、めっちゃエエやん!” と思って聴いていると、それはラモーンズの「ドゥー・ユー・リメンバー・ロックンロール・レイディオ」とのことだった。 “ラモーンズって、あのパンク・ロックのラモーンズかいな?” と私は我が耳を疑うと同時に、彼らに対する自分の先入観を木っ端微塵に打ち砕かれた気がした。当時の私はポリスやプリテンダーズといったちょっとクセのあるブリティッシュ・ロックを中心に聴いていたので、彼らのケレン味のないストレートなアメリカン・ロックンロールは実に新鮮に耳に響いた。
 運良くアルバム全曲をエアチェックした私はそのテープを聴きまくった。そのアルバムこそが彼らのオリジナル・アルバムとしては5枚目にあたる「エンド・オブ・ザ・センチュリー」だった。このアルバムはあのフィル・スペクターがプロデュースしておりラモーンズとしては異色作の部類に入るだろうが、だからこそと言うべきか、それまでの彼らのアルバムとは比較にならないぐらい分厚い音でラモーンズのラウドなロックンロールが楽しめて、彼らのアルバムの中では最も愛聴している1枚なのだ。
 後年入手したフィル・スペクターの伝記「甦る伝説」にはこのアルバムのレコーディング・セッションの事が詳しく、そして生々しく書かれていたが、何よりも印象に残っているのはフィルがバンドのメンバーとの初対面で言い放った言葉 “自分達だけでまずまずのアルバムを作りたいか、それとも僕と一緒に偉大なアルバムを作りたいか?” だった。さすがは傍若無人にして唯我独尊な “オレ様” フィル・スペクターである。そして実際にレコーディングが始まるとジョンの「ロックンロール」セッションの時と同じようにトラブル続出のグダグダ状態で、ある時なんか激怒したフィルがベースのディー・ディー・ラモーンの頭に銃口を向けたという。ホンマに危ないオッサンだ。
 しかしたとえピストルを振り回そうが、完成までにめっちゃ時間と予算がかかろうが、出来上がった作品は素晴らしいものだった。まずは何と言っても冒頭を飾る①「ドゥー・ユー・リメンバー・ロックンロール・レイディオ」が素晴らしい。ドンドン ドドドン!と響き渡るドラム(←私なんかこのイントロを聴いただけでもうテンション上がりまくり!)といい、強烈なグルーヴを生み出すサックスといい、コレはまさに80年代に蘇ったウォール・オブ・サウンドだ。バリバリのパンク・ロックを期待していたファンには物足りないかもしれないが、パンクに何の思い入れもないただのポップ/ロック・ファンである私にとっては最高のラモーンズ・ナンバーなのだ。
 ⑩「ロックンロール・ハイスクール」もめちゃくちゃカッコ良い。コレは同名映画のタイトル・チューンとして出ていたものをスペクター・プロデュースの下で再レコーディングしたヴァージョンで、ラモーンズお得意の種も仕掛けもないストレートアヘッドな疾走系ロックンロールが楽しめるところが◎。軽快なエド・ステイシアム・ヴァージョンと重厚なスペクター・ヴァージョン(←ドラムのサウンドが圧巻!)の聴き比べも面白いと思う。
 ④「チャイニーズ・ロック」や⑧「アイ・キャント・メイク・イット・オン・タイム」、⑨「ディス・エイント・ハヴァナ」もラモーンズのパンク・スピリットとスペクターのウォール・オブ・サウンドの邂逅が生み出した名演で、キャッチーでありながら切っ先鋭いハードエッジなサウンドはこのコラボレーションの大いなる成果だろう。
 スペクターが無理強いしたらしいロネッツのカヴァー⑦「ベイビー、アイ・ラヴ・ユー」はさすがにちょっとキツイ(>_<) 確かにリード・ヴォーカルのジョーイ・ラモーンの歌声は男性版ロニー・スペクターと言えなくもない(←そもそもスペクターはバンドではなくジョーイのソロを作りたかったようで、 “新しいバディー・ホリーにしてやる” と言って誘ったらしい...)が、いかにも歌いにくそうに聞こえるし、スペクターの悪い癖である甘ったるいストリングス・アレンジもこのアルバムに全然合っていない。こんな変てこなトラックを 1st シングルに指定してくるスペクターの厚顔無恥ぶりも大したモノだが、アメリカでは大コケしたもののイギリスではチャート8位まで上がったというからさすがはスペクター・マニアの国と言わざるを得ない。
 1st から 4th アルバムまで、徹底したスリーコード・パンク・ロックを武器に突っ走ってきたラモーンズがフィル・スペクターという劇薬(?)の力を借りて作り上げたこのアルバムは、一見水と油のようなN.Y.パンクとウォール・オブ・サウンドがぶつかり合い、そして見事に溶け合って生まれた、アメリカン・ロックンロール史における重要な1枚だと思う。

Rock and Roll Radio - Ramones


Rock 'N' Roll High School The Ramones


Ramones, Baby I love you!