shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

The Night Snails And Plastic Boogie / The Yellow Monkey (Pt. 1)

2012-01-29 | J-Rock/Pop
 イエロー・モンキーの全てのアルバムの中でどれが一番好きかと訊かれたら選ぶのに困ってしまうが、どのジャケットが一番インパクトが大きいかと問われれば、私は迷わず彼らのメジャー・デビュー・アルバムであるこの「The Night Snails And Plastic Boogie (夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)」を挙げる。
 とにかく一目見ただけで “これこそまさにグラム・ロック!” と言いたくなるような、お化粧ばっちりの吉井さんがおでこにカタツムリ(←両性具有・雌雄同体のシンボルですね...)を這わせているという実に衝撃的なジャケットなのだが、これはもうデビッド・ボウイの「アラジン・セイン」そのまんま(←もちろんボウイは顔にカタツムリなんか乗せてませんが...)。別にパクリとかそういうんじゃなくって、ボウイが大好きな吉井さんとしてはただ彼のマネがしてみたかっただけなのだろう。もし仮に私がバンドをやっていたとしたら、恐らくメンバー全員で横断歩道を渡ってるジャケット写真を撮りたがると思うし...もちろんベーシストだけは裸足で(^.^)
 長ったらしいアルバム・タイトルも実にヘンチクリンだ。夜行性のかたつむり??? プラスチックのブギー??? メジャー・デビュー作だというのにもう完全に趣味丸出しで、大衆性もヘッタクレもあったモンではない。 “夜行性のかたつむり” は退廃的でネットリした感じの初期ボウイっぽいサウンドを、 “プラスチックのブギー” は猥雑でチープな T.REX もどきのサウンド(plastic には “偽物の” “見せかけの” という裏の意味がある...)を意味しているのだろうか? まぁどちらにしろ、 “時代錯誤のグラム・ロック・バンド” 路線を標榜する初期イエロー・モンキーの姿勢が明確に伝わってくるタイトルではある。
 肝心の音の方はジャケットやタイトルから想像できるように、彼らのルーツともいえる煌びやかでポップなサウンドに歌謡曲を想わせるおセンチで下世話なメロディーが乗っかったコテコテのグラム・ロックで、具体的なイメージとしては “ジュリーや米米クラブのノリでデビッド・ボウイごっこをするマーク・ボラン” という感じ。要するに自分達が影響を受けた音楽のエッセンスを巧く融合させて、彼らにしか作り得ないような和製グラム・ロックを作り上げているのだ。吉井さん流に言えば “ルーツはツール” ということか。
 基本的には前年にリリースされたインディーズ盤の延長線上にあるサウンドだが、メジャー・デビュー作ということで肩に力が入りすぎたのか、やりたい事をあれもこれもと目一杯詰め込んだ感があり、おもちゃ箱をひっくり返したような面白さはあるものの、それらが逆に混沌とした印象を与えてしまうことも事実で、インディーズ盤にあったストレートな “勢い” のようなものは少し後退してしまっているように感じる。
 しかし個々の曲のクオリティー自体は文句なしに高く、その後のライヴで頻繁に演奏されることになる重要なナンバーも数多く含まれており、彼らが本来持っている毒々しさやアルバムとしてのコンセプトに重きを置くのではなく、単なる “名曲集” として聴いてこそ、このアルバムの真価が見えてくるのではないかと思う。何よりもデビュー時にして既にその独創的なスタイルをしっかりと確立しているのはさすがとしか言いようがない。
 全11曲、グラム・ロックの王道を行く妖しげなナンバーあり、フックのあるメロディーを巧くビートに乗せたノリノリのロックンロールあり、メロディーの美しさが際立つバラッドありと、聴いていて飽きがこない作りになっており、ポップス・アルバムとしては非常に秀逸、しかもどの曲にも一筋縄ではいかない凝った仕掛けが施されており、洋楽マニアでもある吉井さんの並々ならぬ拘りが感じられる。
 そんな中でも私が断トツに好きなのがアッパーなポップ・チューンの⑧「Foxy Blue Love」だ。このアルバム中最もイケイケな曲調でドラマチックに盛り上がるこの曲は、ちょうどインディーズ盤の「Sleepless Imagination」から狂気を抜いて裏返しにしたような感じのナンバーで、疾走感溢れる小気味よいロックンロールが楽しめる。ヒーセの絶妙なバック・コーラスはまさに “音楽を知ってる者の仕事” だし、アニーのワイルドなドラミングは得も言われぬ高揚感を生み出している。歌心溢れるエマのギターも最高だ(^o^)丿
 歌詞の方は “アカシアのしずく アカペラの恋心” とか “プラチナの涙 プラトニックのため息” のようにカタカナを多用した言葉遊び的なフレーズが乱発されていてかなり難解だが、 “人格を殺し 仮面をつけて 軽蔑の目を塞いでしまおう” のラインなんて心にグサッとくるし、 “君に会えずにいたんだ 夜も寝れずにいたんだ~♪” と歌うあたりも切ない感じが出ていて良いと思う。
 吉井さんの自伝によると、この曲でニルヴァーナみたいな音作りをしようとしたミキシング・エンジニアにフィンガー5やピンクレディーの CD を聴かせて「70年代のこういうアナログっぽいポテポテのスネアの音にして」と注文をつけたという。わかるなぁ、その気持ち。ドライで粗野でパキパキした90年代洋楽ロックの無粋なサウンド(←ボロクソ言うて悪いけど、グランジ・オルタナ系は嫌いですねん...)が初期イエロー・モンキーの和製グラム・ロックに合うワケがないのだ。とにかくこの曲は、デビュー作にしてサウンド・プロダクションまでも含めた曲の完成形をしっかりとイメージしていた吉井さんの音楽家としてセンスの良さが存分に発揮されたキラー・チューンだと思う。 (つづく)

Foxy Blue Love
この記事についてブログを書く
« Bunched Birth / The Yellow ... | トップ | The Night Snails And Plasti... »