


漫画「アンパンマン」の生みの親、やなせたかしさんと小松暢さん夫婦の生涯を描いたNHK朝ドラ「あんぱん」(作・中園ミホ、主演・今田美桜、北村匠海)。「虎に翼」に続く秀作だ。
とりわけ6月25日放送の回には引き付けられた。敗戦直後、子どもたちに戦争を鼓舞した自責の念に打ちひしがれる軍国教師だったのぶ(今田)。大陸で死線をさまよい帰還した嵩(北村)。
「うち、生きちょってええんやろか?」とつぶやくのぶに、嵩が語る。
「死んでいい命なんてひとつもない」
「正しい戦争なんてあるわけないんだ。そんなのまやかしだよ。まやかしの「正義」のために敵も味方も仲間も大勢死んだ」
「最後のあいつ(戦死した実弟・千尋)の言葉は、「この戦争こそなかったら、わしは愛する人のために生きたい」だった。
だから「正義」なんか信じちゃいけないんだ。そんなものかんたんにひっくり返るんだから」
「でも、逆転しない正義があるとしたら、それはすべての人を喜ばせる正義だ。ぼくはそれを見つけたい。何年かかっても何十年かかっても」
「そう思ったら、絶望なんかしていられない。だから生きるんだ! 千尋の分もみんなの分も」
朝ドラ史上に残る名場面だと思う。
「死んでいい命なんてひとつもない」―すでに5万人以上が命を奪われ、日々刻々犠牲が報じられているガザの人々が脳裏に浮かぶ。
「正しい戦争なんてあるわけないんだ。そんなのまやかしだよ」―ウクライナ戦争を思う。
かつて、のぶのような軍国教師だった人々は、戦後の教組運動の中で、「教え子に再び銃はとらせない」をスローガンにした。大学生だった私は、活動家の先輩たちから「―再び侵略の銃はとらせない」と言い換えるべきだと言われ、納得して言い換えた。侵略戦争と祖国防衛戦争は違う、と。ベトナム戦争の直後でもあった。
それから半世紀過ぎた今は思う。「祖国防衛戦争」という「正義の戦争」が肯定されていいのだろうか。「正義」のために人の命を奪い、自分の命も捨てることが是認されていいのか、と。
今は「教え子に再び銃はとらせない」のスローガンを支持する。そして「自分は絶対に銃はとらない」と宣言する。たとえ「祖国」が「侵略」されても。
「正しい戦争なんて、あるわけないんだ」