河井克行前法相・愛里参院議員の逮捕、イージス・アショアの挫折、先の見えないコロナ対策、「モリ・カケ・桜・黒川」問題、「支持率」急落など、満身創痍の安倍晋三首相が苦境に立つはずだった記者会見(18日)。
しかし会見は、安倍氏の言いたい放題、独演会の場となりました。あきれるやら、腹が立つやら。しかしやがて、それは戦慄に代わりました。この日の会見は無内容な居直り会見と片付けることができない重大な意味を持っていると思うようになったからです。それは、日本がいま重大な地点・岐路に立っていることを暗示する会見でした。
18日の安倍会見の特徴を、会見の順に沿って挙げてみましょう。
① 政権の腐敗への居直り… 安倍氏は河井夫婦の逮捕について、「遺憾」「責任がある」と言いながら何ら責任をとろうとせず、「すべての国会議員は襟を正す必要がある」と責任転嫁しました。どんな違法・腐敗が発覚しようと、まったく責任を取ろうとしない。それが日本の国家権力であることをあらためて見せつけました。
② 翼賛野党への「感謝」… 立憲民主、国民民主などは今国会(17日閉会)で安倍政権の緊急事態宣言の根拠となった特措法「改正」案、第1次、第2に補正予算案にことごとく賛成しました(日本共産党は第2次補正のみ反対)。そのことについて安倍氏は会見冒頭で、「協力いただいたすべての野党に心から感謝する」と述べました。
③ 「新しい国家像」 新型コロナウイルスに関連して安倍氏は、「ポストコロナ」の「新しい国家像」を打ち出す必要がある強調しました。
④ 憲法「改正」への異常な意欲… 「新しい国家像」の流れで安倍氏が強調したのが「憲法改正」。「任期中(来年9月)に改正する決意はまったく変わらない」「国会議員の力量が試されている」と文字通り拳を握りしめました。
⑤ 新たな軍事体制方針… 抽象的でつかみどころのない「コロナ対策」とは対照的に、安倍氏が具体的に示したのが、「新たな安全保障体制のあり方をこの夏に打ち出す」こと。イージス・アショア停止問題で対米従属の軍備拡張に反省が求められている中、それとは真逆に、新たな軍事体制方針を打ち出すと断言しました。何度も口にしたのは「抑止力とは何か」。米軍と一体となってさらに攻撃的な体制へ向かう危険性が濃厚です。
⑥ メディアの迎合… 質問した記者は10人。「幹事社」(フジテレビと産経新聞)の質問項目は、「河井問題」「東京五輪」「解散・総選挙」「憲法改正」(この産経記者は質問というより督促)。その他の記者から、「拉致問題」「宇宙防衛」「海外との通商」「総裁任期」「ポスト安倍」「防衛新方針」「財政不安」「海外邦人救出」。「河井問題」「財政不安」を除けば、すべて安倍首相にとって痛くもかゆくもない、いやむしろ持論を吹聴したいテーマばかり。会見が安倍独演会となったのは、こうしたメディアの“助力”があったればこそです。
重要な局面で市民が聞きたいことは聞かず、政権に迎合する質問ばかり。メディアの退廃・腐敗も来るところまで来た感があります。
以上の安倍会見の全体から見えてくる日本の立脚点は―。
「コロナ禍」を逆手にとって「新しい国家像」を打ち出して国家主義を強める。そのために「憲法改正」は必須(自民改憲草案の第1条は「天皇元首」化)。その柱は「安全保障体制」=軍事体制の新たな方針・強化。そうした政権の暴走に歯止めをかける責務がある国会は、すでに主要な法案に賛成する翼賛国会と化している。市民に代わって国家権力を監視すべきメディアは退廃・腐敗を極め、政権に迎合し国家権力と一体化―。
まるで戦前の日本の再現ではないでしょうか。
戦前と違うのは、いま私たちの手にあるのが「天皇主権」の帝国憲法ではなく、「主権在民」の憲法だということ。しかし、その憲法も主権者が行使しなければ絵に描いた餅です。