アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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ヘイト訴訟2つの画期的判決とメディアの責任

2023年10月14日 | ヘイトスピーチ・ヘイトクライム
   

 ネットで「祖国へ帰れ」「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などヘイトスピーチの被害を受けた川崎市の在日コリアン3世、崔江以子(チェ・カンイジャ)さんが損害賠償を求めた訴訟の判決が12日あり、横浜地裁川崎支部(桜井佐英裁判長)はヘイトスピーチ解消法上のヘイトスピーチと断定し、篠内広幸被告に194万円の損害賠償を命じました(写真左=沖縄タイムスより)。

 崔さんの弁護団は声明で、「ヘイトスピーチを断罪する画期的な判決」と評価。とりわけ、「「祖国へ帰れ」との言動は、永く在日コリアンを苦しめ、現在も苦しめているヘイトスピーチの典型であり、かかる言動が違法な差別的言動に該当すると認められ、高額な慰謝料が認められたことは極めて意義がある」と強調しています。

 崔さんは「私たちは一緒に生きる仲間なんだと示してもらった。これ以上の被害を生まないよう、ネット上の差別を禁止する法規範につながればうれしく思う」と語りました(13日付沖縄タイムス)。

 ヘイトスピーチをめぐる裁判では、先週の4日にも注目すべき判決がありました。

 神奈川新聞の石橋学記者が取材の中で、元川崎市議選候補・佐久間吾一氏の差別的発言の誤りを指摘したのに対し、佐久間氏が「名誉毀損」として損害賠償を要求していた訴訟で、東京高裁(中村也寸志裁判長)が「(石橋氏の)発言の前提事実は真実で、意見や論評としての域を出ない」とし、1審判決を取り消し請求を棄却、石橋氏の逆転勝訴となったものです。

 判決後、石橋記者は「差別者を厳しく批判する記事は、厳しく向き合う取材から始まる。取材の正当性が認められたことは、差別と闘うべき報道機関全体にとって意義がある」と語りました(5日付沖縄タイムス、写真右も)。

 2つの判決はいずれもヘイトスピーチを根絶していくうえで画期的なものです。崔さんや石橋氏、支援者の闘いの成果です。崔さんが言う通り、これを差別禁止法の制定につなげていく必要があります。

 見過ごせないのは、この2つの画期的な判決を全国紙はじめほとんどの新聞がいずれも無視、あるいは小さなベタ記事や地域版に収めるなど、きわめて軽視したという事実です。

 これは、日本のメディアがヘイトスピーチ・人種差別に対していかに無知で鈍感かを端的に示すものです。今回の判決は、石橋氏が述べているように、「差別と闘うべき報道機関全体にとって意義がある」ものです。それをほとんどのメディアは理解していません。

 そんな中、神奈川新聞とともに一貫してこの問題を重視して報じているのが沖縄タイムスです。崔さんの勝訴について同紙の阿部岳編集委員は「解説」でこう書いています。

「崔さんのような差別被害の当事者が攻撃にさらされながら訴訟などを重ねて、日本の対策はここまで来た。次は、当事者が矢面に立たずとも差別が一律に違法と認定される差別禁止法が必要だ。本来、対策の責任は多数の日本人の側にある。出番は、とうに来ている」(13日付沖縄タイムス)

 日本人の1人として重く受け止めなければなりません。全国紙はじめ「本土」メディアの責任は決定的に重大です。ヘイトスピーチだけでなく、性暴力・ジェンダー問題を含め、メディアは差別・人権侵害に対する感覚と報道責任を根本的に問い直さなければなりません。
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