魯生のパクパク

占いという もう一つの眼

真面目局

2021年11月11日 | 日記・エッセイ・コラム

もう、半世紀ぐらい前の話だが、インテリア関連のアルバイトで、NHKの放送センターに行った。既に運営中だったが、まだ、建設中の部分もあり、アルバイトの内容は各部屋のルームナンバーを貼り付ける仕事だった。

リーダーの前田さんに従って、アルバイト二人がアクリルの数字を、部屋の入り口の上に貼り付けて回るのだが、
一応、寸法は測るが、前田さんは
「あまり、寸法に囚われないように。文字の形や部屋の配置の関係で、かえって見た目がズレてしまうから」と言いながら、何部屋か手本を示して回り、あとは前田さん一人とアルバイト二人に別れて回ることになった。
前田さんは慣れているので一人で見当を付けられるが、アルバイトは貼り役とバランス判断と二人でやる必要があった。

放送センターがどういう構造になっているのか、どこにいるのか解らないまま、指定された順序に作業を進めていった。
一つの部屋の中に別の部屋の入り口がある場合も多く、ガランとした、だだっ広い部屋で床に図面を広げ、間違えないように二人でしゃがみ込んで確認していると、
突然、40歳ぐらいのメガネを掛けたスーツの細い男性が飛び込んできて、
「なんだ!君たちは!誰の許しを得てこの部屋に入ったんだ!」
と、早口で絶叫のようにまくし立てる。
あっけにとられて、二人で顔を見合わせながら、
「前田さんに言われてきました・・・」
間抜けな返事だが、それ以外に何の根拠もなかった。もちろん入館証などもない。

と、突然その男性は、号令を掛けられたように姿勢を正し、
「あ、そ、そうですか」
と慌てて出て行った。
アルバイトの相棒のキョトンとした顔を見ているうちに、笑いがこみ上げてきた。
「アハ、アハ、アハハハ・・・きっと、勘違いしたんだよ」
当時のNHK会長が前田という人だったことを思い出した。

ウソのような話だが、思い出すたびに笑えてくる。
と、同時に、NHKの体質を垣間見た、忘れられない出来事だ。
身なり風体の定まらない若造には虫けらのように接し、偉い人には名前だけでも震え上がる。名前を聞いただけで畏れ入り、どこの前田さんですかとさえ聞き返せない。
当時は、戦後まだ30年も経っていない時だから、社会的な上下意識は残っていたとは言え極端な態度だった。少なくともNHKの内部で、あの人は普通に過ごせていたのだろう。
その後のNHKの報道姿勢や出演者、様々な関係事件を見ていても、NHKの体質は根本的に変わっていない。各地の県民性があるように、大学カラーや企業体質は時代が変わっても変わらない。
若い頃は、御用放送のNHKに、受信料は払うべきではないと思っていたが、視ているうちに、最も確かなソースであると気づき、これは払うべきであると考えを変えた。したがって、情報は信じるが配信姿勢は信じない。ウソではないがモザイク情報もある。
NHKは権威主義と同時にくそ真面目で善意だ。しかし、善意は何を基準にするかによって非常に危険なものでもある。