「推しの卒業決定で10日間の有給付与」
“オタ活”への理解が深すぎる企業に「最高の会社」「まじでホワイト」の声(ねとらぼ)
『話題になっているのは、CMやMV(ミュージックビデオ)などのクリエイティブディレクションやコピーライトを手掛ける企業「ひろろ」の代表が投稿したツイート。「社員の推しの卒業が決まってしまったため、弊社の勤務規定に慶弔休暇の項目が追加されました」と投稿したところ、様々な反響が寄せられています。』『・推しのライブ、イベントがある場合、一週間前までの申請で、早退、必要日数の休暇が取得可能。ゲリラライブや告知のない突発的なイベントに限り、当日即早退が可能。』『・推しが卒業する場合、一推しの場合10日間、二推し以降の場合3日間の慶弔休暇を申請することができる。』『・推し本人が結婚する場合10日間の慶弔休暇を申請することができる。』『・慶弔休暇は有給とし、通常の賃金を支給する。また、精神的なダメージの度合い、必要に応じて休暇日数を加算する場合がある。』
推し(おし)、という概念が理解できるかどうかという点で、
まず我々は、二種類の人種に分類されるのではないかと思う。
とりあえず語彙としての「推し」は、狭義においては、
「アイドルグループの中で一番応援しているメンバー」を意味し、
広義においては、アニメやスポーツや音楽、舞台等、すべてにおいて、
「その世界の同種の中で一番好きな対象」を指している。
「推し」という用語を使うとき、その在り方は従来の「熱心なファン」とは異なる。
「ファン」を名乗る場合は受動的に楽しんでいる段階を含むが、
「推しが尊い」等と言い出すようになると、心身共に能動的な面が見えて来る。
「推し」は「推薦」している訳だから、他者に対しても対象者(物)の魅力を
能動的に伝えたい熱意が滾(たぎ)っている。……と思う(笑)。
一方、「なんでそんなに他人に熱中するのか、わからない」という種類の人は、
この世に一定の割合で居て、彼らは「推し」の概念が、
用語としてはともかく、体験としては理解できない人々である。
「卒業」が何のことかを説明するのも、少々難しいものがあるが、
わかりやすい例は、アイドルが、自分の所属しているグループを退めることだ。
例えばAKB48、乃木坂46、などのメンバーの誰かが、グループから脱ける。
その後に俳優などになるとしても、彼女はそれまでとは別の存在になってしまうし、
ましてや、結婚、引退が決まっている場合は、
応援している側から見れば、今までのようには会えなくなることを意味するから、
慶弔規定に該当する「おおごと」であろう、と想像に難くない。
その他の分野でも「卒業」に類することは様々に起こる。
脱退・退団・解散・引退・転向、場合によっては死去。
そもそも、言語化されていなかっただけで、
「推し」とその周辺の概念は何世代も前から立派に存在していたのだ。
私が今回の有給休暇の件でいたく感動したのも、
「世の中、ついにここまで来たか」としみじみ思ったからである。
古い話だが、私の友人はカープの高橋慶彦が結婚したとき、寝込んだ(爆)。
またこれも昔の話だが、麻美れいサヨナラ公演『はばたけ黄金の翼よ』のために
公演期間中、東京ー宝塚を7往復した人も知っている。
そりゃ仕事なんてまともにやってられませんて(爆)。
当時は「推し」などと気の利いた用語がなく、「○○狂」の類いだと見なされていたが、
既にこうやって、「推し活(おしかつ)」をしていた人間はいたのだ。
他人事ではない。私だってこれまでの道楽人生、いろいろやった。
88年5月以来、ポゴ氏来日があるたびに、広島から駆けつけるのは至難で、
それはもう、毎度毎度、有給を取ったり出張と組み合わせたり苦労した。
演奏会後、青春18きっぷで臨時の夜行快速に乗って現地を発ったり、
東京から新大阪まで戻って一泊、翌朝の始発の新幹線で広島に舞い戻ったりして、
何食わぬ顔で仕事に出た、という経験も一度や二度ではない。
2000年以降の、たかこ(和央ようか)さんの宝塚トップ在位中なんて、
初日とお茶会合わせと前ラク(大劇場千秋楽は月曜なのでキツい)のために
「無泊(←ホテルで語り倒すので)3日」みたいな旅行を、
転勤先だった今治から宝塚・東京まで、子連れで(殴)たびたび敢行していた。
その他、某バンドのファイナルツアー、歌舞伎の贔屓の襲名、茶話会新年会諸々、
陸路海路空路ありとあらゆる交通手段を開拓しましたね。
少ない時間で効果的に乗り継がなくてはならず、時刻表トリックさながらだった。
そして公演等が終わったら、同人誌に、後年はネット掲示板等に、
「推し」がどれほど素晴らしかったかを書き倒すのだ。
グッズやCD等は3部ずつ買う。「使用・視聴用」「保存用」「布教用」だ。
「推し」によって人生を豊かにし、感動を学びそれを人と分かち合い、
一度も口をきいたことすらない他者のために涙する喜びを知ったことは、
我々(←勝手に括る)ヲタにとって、何ものにも代えがたい宝物であった。
私たちがかつて自分たちの中で概念化してきた事柄が、今や、言語化された。
「推し」「推し活」「単推しVS一推し、二推し」「推し事(おしごと)」「推し仲間」。
私たち世代が体で知っていた事柄が、意味づけされ、
他者に対して用語として伝えられるまでに、その存在を確立したのだ。
そして、ついに「推し活」に有給休暇を認める会社まで出現したという!
いとも見事に、げにも目出度く、社会化までされたのである!!
隔世の感がある(滂沱)。
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