ひと通りの見学が終わると、私は2人を引っ張るようにして
兄貴に別れを告げた。
「センセ、なんだか私、体中が浄化されたような気がしますぅ」
「私もぉ!うかがって良かったですぅ」
ありがとうございました〜…
振り返り振り返り、兄貴に叫ぶ2人。
兄貴は笑顔で手を振っていたが、ありゃ絶対怒っとる。
やっぱりこの人たちには、田舎定食と田舎スーパーがお似合いだ…
人付き合いにはそれぞれ、ふさわしい場所がある…
変わった所へ連れて行くもんじゃない…
ましてや第三者に会わせるなんて、もってのほかだった…
私は激しく後悔しながら、次のプログラムへと進む。
今度はユリちゃんのお寺の料理で知り合った、梶田さんのカフェ。
明るくて気持ちのいい彼女は、兄貴のお気に入り。
この秋から兄貴に頼まれて、毎週日曜日にカフェを出店している。
先ほど我々が過ごした飲み物中心のカフェとは違い
こっちは食事系。
梶田さん得意の西洋あか抜け定食、一品だけのカフェである。
ここには先月、同級生で結成する5人会で訪れたが
味はもちろん、テーブルセッティングや器も
梶田さんのセンスが光っていた。
それで、ぜひまた行きたいと思って計画したのだ。
2人には腹を立てていたので
強引に連れて帰りたいところだが、行くことは伝えてあり
我々の分をキープしておくように頼んであったので
行くしかないのだった。
梶田さんは我々の訪れをとても喜んでくれた。
その日はお客さんが少なかったそうで、店には我々だけ。
そして最後の客になりそうだ。
ここでも2人は、先ほどの体験を得意げに話す。
「それは大変だったねえ。
私は何もわからないほうだけど
そういう体質の人はつらいって聞くよ」
優しい梶田さんは2人を慰め、2人はそれが嬉しくてますます上機嫌。
長居をして、しゃべりまくっている。
私は相変わらずチッと思いながら
時々「もう帰ろう」と提案しつつ、その光景を眺めていた。
2人の気が済んで、やっと帰れる瞬間がやってきた。
会計でラン子は1万円札を出したので
梶田さんが申し訳なさそうに言う。
「ごめんね〜!今日はお客さんが少なかったから
お釣りが足りないのよ」
ラン子はいつもそうだ。
遊びに行くのは先月からわかっているのに
お金を細かくしておく配慮を一度もしたことがない。
私も両替をしてやるほど千円札を持っていなかったので
ラン子の料金を立て替えた。
「え〜?悪いわ〜!」
ラン子は一応言うが、過去の前例から
戻ってくる確率は5割というところか。
だから嫌だけど、そんなことでグズグズしたくない。
兄貴という教養人を不快にさせた2人が
今度は梶田さんという善人に危害を加えないうちに
一刻も早くその場を去りたかった。
ヤエさんとラン子にとっては今日限りの相手だろうけど
私にとっては今後も付き合いを続けたい人々だ。
私にはこんな友だちしかいないと思われたら…
いや、実際こんな友だちしかいないんだが…
恥ずかしいではないか。
帰りの車中で「楽しかった」を連発する2人に
「コーヒーまでご馳走になって、兄貴に申し訳なかったわ」
私がつぶやくと、ヤエさんが言うではないか。
「ああ、あのお金は私が払っといたから」
終わった…と思った。
ここは、「ごちそうさま」と甘えるところだ。
黙って支払いをするのは
人の気持ちを踏みにじる不粋というもの。
パリの粋が信条の兄貴に、これは相当きつい仕打ちである。
ヤエさんはそういう人なのだ。
気配りの人なんだけど、時々配慮の的がズレる。
厳しい半生を送ってきた後遺症で、配慮の的がズレるのか。
それとも配慮の的がズレているから
厳しい半生を送らなければならないのか。
わたしゃ何となく、後者のような気がしてきた。
翌日、ユリちゃんを介して兄貴からの伝言が伝えられた。
「せっかくコーヒーをご馳走したかったのに
どなたかが払ってくださってて残念だった。
次は甘えてね」
それから、霊騒ぎの件も指摘があった。
「場所を考えてね」
私はユリちゃんに謝罪の言葉を託した。
「本当にごめんなさい。
アレらは二度と連れて行きません」
ユリちゃんはちゃんと伝えると言い、そしてたずねた。
「ところで25日、暇?」
その日は檀家さんが集まって年末の大掃除をするので
昼ごはんを作って欲しいという話だった。
主婦が年末に暇なわけ、ないじゃろが。
来年までごはん作りは無いって、言うとったじゃろが。
しかしこんなことになってしまったので、拒否しにくい。
おそらくユリちゃんも、そのつもりで言ったと思う。
行くと答えるしかなかった。
最初は万引きが見つかって、ゆすられるようになった主婦が
だんだん悪の道に足を踏み入れて行く…
そんなサスペンス気分よ。
25日は、ちょうどクリスマス。
鶏肉に、あとは赤と緑でごまかそうと思っている。
《完》
兄貴に別れを告げた。
「センセ、なんだか私、体中が浄化されたような気がしますぅ」
「私もぉ!うかがって良かったですぅ」
ありがとうございました〜…
振り返り振り返り、兄貴に叫ぶ2人。
兄貴は笑顔で手を振っていたが、ありゃ絶対怒っとる。
やっぱりこの人たちには、田舎定食と田舎スーパーがお似合いだ…
人付き合いにはそれぞれ、ふさわしい場所がある…
変わった所へ連れて行くもんじゃない…
ましてや第三者に会わせるなんて、もってのほかだった…
私は激しく後悔しながら、次のプログラムへと進む。
今度はユリちゃんのお寺の料理で知り合った、梶田さんのカフェ。
明るくて気持ちのいい彼女は、兄貴のお気に入り。
この秋から兄貴に頼まれて、毎週日曜日にカフェを出店している。
先ほど我々が過ごした飲み物中心のカフェとは違い
こっちは食事系。
梶田さん得意の西洋あか抜け定食、一品だけのカフェである。
ここには先月、同級生で結成する5人会で訪れたが
味はもちろん、テーブルセッティングや器も
梶田さんのセンスが光っていた。
それで、ぜひまた行きたいと思って計画したのだ。
2人には腹を立てていたので
強引に連れて帰りたいところだが、行くことは伝えてあり
我々の分をキープしておくように頼んであったので
行くしかないのだった。
梶田さんは我々の訪れをとても喜んでくれた。
その日はお客さんが少なかったそうで、店には我々だけ。
そして最後の客になりそうだ。
ここでも2人は、先ほどの体験を得意げに話す。
「それは大変だったねえ。
私は何もわからないほうだけど
そういう体質の人はつらいって聞くよ」
優しい梶田さんは2人を慰め、2人はそれが嬉しくてますます上機嫌。
長居をして、しゃべりまくっている。
私は相変わらずチッと思いながら
時々「もう帰ろう」と提案しつつ、その光景を眺めていた。
2人の気が済んで、やっと帰れる瞬間がやってきた。
会計でラン子は1万円札を出したので
梶田さんが申し訳なさそうに言う。
「ごめんね〜!今日はお客さんが少なかったから
お釣りが足りないのよ」
ラン子はいつもそうだ。
遊びに行くのは先月からわかっているのに
お金を細かくしておく配慮を一度もしたことがない。
私も両替をしてやるほど千円札を持っていなかったので
ラン子の料金を立て替えた。
「え〜?悪いわ〜!」
ラン子は一応言うが、過去の前例から
戻ってくる確率は5割というところか。
だから嫌だけど、そんなことでグズグズしたくない。
兄貴という教養人を不快にさせた2人が
今度は梶田さんという善人に危害を加えないうちに
一刻も早くその場を去りたかった。
ヤエさんとラン子にとっては今日限りの相手だろうけど
私にとっては今後も付き合いを続けたい人々だ。
私にはこんな友だちしかいないと思われたら…
いや、実際こんな友だちしかいないんだが…
恥ずかしいではないか。
帰りの車中で「楽しかった」を連発する2人に
「コーヒーまでご馳走になって、兄貴に申し訳なかったわ」
私がつぶやくと、ヤエさんが言うではないか。
「ああ、あのお金は私が払っといたから」
終わった…と思った。
ここは、「ごちそうさま」と甘えるところだ。
黙って支払いをするのは
人の気持ちを踏みにじる不粋というもの。
パリの粋が信条の兄貴に、これは相当きつい仕打ちである。
ヤエさんはそういう人なのだ。
気配りの人なんだけど、時々配慮の的がズレる。
厳しい半生を送ってきた後遺症で、配慮の的がズレるのか。
それとも配慮の的がズレているから
厳しい半生を送らなければならないのか。
わたしゃ何となく、後者のような気がしてきた。
翌日、ユリちゃんを介して兄貴からの伝言が伝えられた。
「せっかくコーヒーをご馳走したかったのに
どなたかが払ってくださってて残念だった。
次は甘えてね」
それから、霊騒ぎの件も指摘があった。
「場所を考えてね」
私はユリちゃんに謝罪の言葉を託した。
「本当にごめんなさい。
アレらは二度と連れて行きません」
ユリちゃんはちゃんと伝えると言い、そしてたずねた。
「ところで25日、暇?」
その日は檀家さんが集まって年末の大掃除をするので
昼ごはんを作って欲しいという話だった。
主婦が年末に暇なわけ、ないじゃろが。
来年までごはん作りは無いって、言うとったじゃろが。
しかしこんなことになってしまったので、拒否しにくい。
おそらくユリちゃんも、そのつもりで言ったと思う。
行くと答えるしかなかった。
最初は万引きが見つかって、ゆすられるようになった主婦が
だんだん悪の道に足を踏み入れて行く…
そんなサスペンス気分よ。
25日は、ちょうどクリスマス。
鶏肉に、あとは赤と緑でごまかそうと思っている。
《完》
>厳しい半生を送らなければならないのか。
おっしゃる通りだと思います。
無神経な方は、その反動で、
どうしてもそうなってしまうんでしょう。
みりこんさん、今回裏目に出て、辛いでしょうが、
自分を責めないでくださいね。
これは一回チクリと話して置いた方がご当人たちのためですが分からないだろうなぁ。
初めてじゃないですけど、後味の悪いものですね!
無神経って、周囲に与える影響が案外大きくて
あと先で善行をほどこしても清算が追いつかず
運命を封鎖するのかもしれません。
ありがとうございます。
自分を責めずに恥を乗り切りますわっ!
身の置き所がありませんでした。
ご同情、ありがとうございます。
チクリどころか、バッサリ怒りたかったんですが
連れて行ったのは私だし、言ってもわからないと思い
もう遊ばなきゃいいや、と考えて我慢しました。