不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

続報・現場はいま…7

2020年09月28日 21時19分29秒 | シリーズ・現場はいま…
藤村の凡ミスによる夫の受難を

本人や息子たちから詳しく聞いた私は、ううっと涙が出そうになった。

この仕事に携わる者であれば、いくら慣れているとはいえ

1日で通算3桁にのぼる積込み回数が尋常でないのはわかる。

大袈裟に言えば、前人未到。

その壮絶を乗り越えた夫に感動したのだ。

昔の夫であれば、途中で投げ出したはずである。

「この子も社会人として成長したなぁ」

そんな親心みたいなものだ。


さて、翌日の日曜日からは連休なので

夫は3日間、ヤツと顔を合わせなくて済む喜びに浸っていた。

しかし午前6時、長男から電話が…。

彼はこの日、船で海釣りに出かけたのだが

沖へ出るには会社の前を通るしかない。

その時、会社の方をふと見たら、藤村を発見したという。


それを聞いた私は、つい期待してしまった。

神田さんと密会するんじゃないの?…

神田さんが情にほだされ、朝早く待ち合わせて

おデートとか…。


だが、よっぽどのことでなければ

親に電話をしない長男は真剣である。

あの怠け者の藤村が、休みにはるばる広島市内から来るのもおかしいけど

チャーターしたダンプが数台、出入りして

普通に仕事をしているのはおかしいと言う。

そう言われてみれば、変。

藤村が人目をしのんで、何かをやっているのは間違いない。


昼過ぎにバドミントンから帰った夫に、このことを伝えたら

「ほっとけ」

と即答した。

「かかわらん方がええ」

静かな口ぶりから、これはやはり危険なのだとわかった。

下手に知ってしまったら、危ないらしい。

気づいていたにもかかわらず、報告を怠った罪を問われる…

夫はそう言いたいようだ。


一般的には、藤村がやっている内容を知ったからといって

短絡的にそうなることはあり得ない。

しかし本社と合併して9年、我々はこの危険と隣り合わせで生きてきた。

前任の松木氏も現在の藤村も、本社が直営する営業所の人間。

いわば本妻の子供だ。

そして我々は、本社と合併した子会社の人間。

いわば合併を推進した、河野常務の連れ子。

本社というお父さんは大らかで、どちらもちゃんと育ててくれる。

しかし何かあった場合、連れ子より実子を信じる習性は

折々で痛感してきた。


どんな会社でも究極の場面になると、そういうものだ。

私の生い立ちが継子でなければ、この習性はわかりにくいだろう。

ことに嘘つきの実子、松木氏や藤村が相手では

数々のピンチに対応することができず

とうに切り捨てられていたと自負している。

切り捨てられるのは構わないが、一寸の虫にも五分の魂。

あいつらに着せられる汚名のオマケはいらない。



やがて、長男が釣りから帰って来た。

沖から戻る時も、藤村はまだ会社にいたという。

「絶対、おかしいけん!行ってみた方がええよ」

長男に言われ、我々夫婦は夕方になって見物に出かけた。


チャーターは帰ったらしく、駐車場には乗用車が2台。

1台は藤村の社用車で、もう1台はよその支社で働く30代の男

黒石のプライベート・カー。

彼は営業職ではないので、社用車を与えられてない。

だから自力で来るしかない。

この黒石は、忙しい時に「」の名目で来ていた

藤村お気に入りの丁稚(でっち)である。


こうなりゃもう、完全におかしい。

母体が同じとはいえ、別の支社の社員を呼んで

誰もいない休日、事務所に詰める不思議…

この不思議から連想するものといったら、二つしか無い。

藤村と黒石はホモ…

でなければ、藤村はやはり何かを隠蔽する必要にかられ

黒石に手伝わせているのだ。


なぜ黒石か。

顔すらよく知らない彼の噂は以前から

遠く離れた我々の耳にも届いていた。

チクリと呼ばれていて、社内の嫌われ者という内容。

つまり藤村とは同類だからか、親子ほどの年齢差を超えて

最近この2人は急速に仲良くなった。


お山の大将、藤村は、黒石を自分の後継者と勝手に決め

黒石は黒石で、いち社員として終わるより

ジョボくても肩書きが付く方が良いと踏んだのであろう。

この考えは一応、妄想の域を出てないが

おバカさんの野心とは、おしなべてこの程度のレベルである。

この2人、今は野心という絆で結ばれていても

ひとたび仲がこじれると、お互いにチクリだから

泥仕合になればさぞ見ものだろう。


で、我々は藤村の疑惑をあばくために何かをしたか。

いや、何も。

そのまま帰った。

彼が何をしたって、こっちに火の粉が飛ばなければいい。

知らなかった…これが一番安全である。


藤村がいったい何をしているのか、我々には見当がついていた。

地方に飛ばされたスーパーゼネコンの現場監督は

たいていタチが悪いとお話ししたが

オイル漏れの件で、現場監督にしこたま怒られた藤村は

ペナルティとして、ある密約をさせられたに違いない。

その密約とは商品の伝票を切らず、無料で納入することだ。


これは正しいことではないものの、いちがいに不正とは言えない。

数量が少なければ、サービスの一環で済む。

ただ、上に相談して許可を得るという段階を踏まずに

相手の言いなりになって大量に納入したのが発覚すると

不正になる。

藤村は絶対に後者だ。


不正だからといって、告発なんかしない。

正義感に燃えるほど、我々は純真ではない。

また、告発された本社も困るだろう。

裏リベートや中抜きなど、正真正銘の不正に

心当たりのある重鎮がたくさんいるからだ。

驚くことはない。

会社とは、どこでもそういうものだ。


しかし藤村がどこまでアホなのかは、ぜひ見たい。

我々は、明日以降の藤村に期待を寄せた。

今日と同じことが続くのか、あるいは今日だけなのかで

彼の秘密がどの程度のものか、わかる。

秘密は、重いほど楽しい。

《続く》

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 続報・現場はいま…6 | トップ | 続報・現場はいま…8 »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (hana)
2020-09-29 01:48:00
怒涛の更新ありがとうございます!
久しぶりにコメントさせてもらいます。
現場は今シリーズ最高です。
それと、みりこんさんのブログ色々社会勉強になってます。^^
ありがとうございます。
現在進行形の現場は今に、ハラハラドキドキワクワクがとまりません。
頻繁な更新大変とは思いますが、続き楽しみにしてます。
返信する
お久しぶりです! (みりこん〜hanaさんへ)
2020-09-29 08:12:40
このシリーズ、最高ですか?
ありがとうございます!
ネタを拾う努力もせず、労力も使わず
ただ暇にあかせ、私の地味でささやかな日常を
そのままお話ししているだけなので
申し訳ないと思っているのですが
楽しんでいただけて嬉しいです。

更新は頻繁を心がけないと、忘れてしまうんです。
年のせいだと思います。
タラタラしている間に、中継だったはずが
時系列が一週間も遅れてしまって
少々焦り気味の今日この頃。
忘れないうちに急ぎたいと思います。
返信する
ホモで爆笑!! (ユウキ)
2020-09-29 10:18:47
そっちでもよかったですが
いやいや、今までの情報だとその線は薄いですもんね。

そんなことがあるのか!と
全く知らない業界の話でとても面白いです。

職人さんは道具を大事にされますよね。
ダンプは商売道具なうえに命も預ける大事な相棒ですもんね。
しっかり管理して、きれいにされてる方は
やはり仕事もしっかりされます。
どこの業界も同じだなぁと思いました。

そして地方に飛ばされた・・・のくだりも妙に納得!!大笑
返信する
Unknown (モモ)
2020-09-29 10:23:53
もう、どきどきですよ!
天罰は下っているのか・・・
頭の中で半沢のバックミュージックが流れていて、落ち着きません(笑)
返信する
そっちの方が… (みりこん〜ユウキさんへ)
2020-09-29 14:46:49
ずっと面白かったのに、ホモでなくて残念です。

業界話は、書く方も楽しいです。
ナンボでも書きたい(笑)
面白いと言っていただけると、励みになります。
ありがとうございます。

商売道具を大切にする基本は、どの業界でも
同じですね。
私物や貸与にかかわらず、大切にできない人は
結局その仕事に向いてない。

飛ばされて、いろんなのが来るんですよ〜。
本線を外れて不本意なのはわかりますけどね。
返信する
天罰 (みりこん〜モモさんへ)
2020-09-29 14:50:58
どうなんでしょ?
どきどきしてくださって、ありがとうございます。
でも今の時点では、まだです。

半沢直樹、人気ですね!
千倍返しくらいしてやりたい気分ですけど
うちらのことだから、期待薄よ。
返信する

コメントを投稿

シリーズ・現場はいま…」カテゴリの最新記事