河野常務の介入により、夫の退職騒動はひとまずおさまった。
そしてピカチューは、相変わらずアキバ産業へ出入りしている。
退職騒動以降、その頻度はいちだんと増え
今やほぼ毎日、入り浸っていると言った方が正しい。
目の上のタンコブが辞め損ねたので
アキバ社長と前後策を話し合っているのだろう。
我々は、それでいいと思っている。
常務には、あえて何も言ってない。
アキバ産業のことは、常務を始めとする本社と
本社直営の営業所長ピカチューの二者が検討する案件であり
我々子会社の仕事とは無関係なので放置しておく。
何事も、出過ぎは良くない。
よって常務は、ピカチューが何を企んでいるかを知らない。
知ったら怒り狂って、アキバ産業への出入りを止めるだろう。
なぜって共同仕入れと言えば聞こえは良いが、要は
「あんたとこの信用と金で、うちの商品も一緒に仕入れてよ。
うちが使った分は、後で払うからさ。
二軒分をまとめて仕入れたら、あんたとこも値をたたけて
安くなるでしょ?」
そのようなムシのいい話なのだ。
ピカチューがまだ無事で、アキバ産業へ通っているということは
共同仕入れの件を常務にまだ伝えてないということになる。
無知な彼もさすがに躊躇しているのか
それとも酒の接待をもっと受けたくて焦らしているのかは不明だが
ピカチューの口から直接言わせ
どうなるかを眺める方が面白いではないか。
我々の悠長ぶりは以前、似た流れを経験しているからである。
ピカチューの前任者だった昼あんどんセクハラ男、あの藤村も
アキバ産業に取り込まれようとしていた。
銀行管理になったのが、ちょうどその頃という符号から
アキバ社長の焦りがわかるというものだ。
アホの藤村はすぐに引っかかり、アキバの事務所に通い始めた。
が、2ヶ月もしないうちに、自分が入社させた女運転手から
労基に訴えられて左遷されたので、その時は未遂に終わった。
藤村が去った後、別の支社へ飛ばされていた松木氏が再び返り咲いたが
アキバ産業は彼に手を出さなかった。
出せなかったのだ。
返り咲いてほどなく、松木氏は肺癌が見つかり
休みがちになったからである。
これらの失敗があるので、今回アキバ社長は満を持して
スパイを送り込むという手の込んだ作戦に出たと思われる。
そのドラマチックかつ古典的な手段ときたら、ゾクゾクしちゃうわ。
しかもスパイは新規採用でなく、彼の愛人…
つまり在庫だぞ。
経費節約にもほどがある。
その在庫に引っかかったのが夫、そしてピカチュー。
ついでに言うと本社の窓際、ダイちゃんも引っかかった。
入れ食いじゃねぇか。
これがせめて美人ならまだしも
つり目でエラの張った、色黒のガリガリ。
蜘蛛(クモ)みたいな四十女だ。
こんな見るも無惨な不細工をなぜ?と思うが
アキバ社長の好みは細けりゃいいらしく、これでイケると踏んだらしい。
そしてその目論見は、見事に当たった。
ところでアイジンガー・ゼットだが
この4月16日をもって正社員となった。
給料の締め日が15日なので、16日からなのだ。
彼女を正社員にする運動は昨年、ダイちゃんによって開始され
今年に入ってピカチューも運動に参加。
二人の強力な推しで、アイジンガー・ゼットは
アルバイトから正社員へ昇進の運びとなった。
腹が立たないのかって?
今後、あの女もボーナスをもらうのは憎たらしいけど
私のお金で払うわけじゃないし、他は全然。
日頃、言っているだろう。
私は事務員としての彼女を気に入っている。
他県の出身、嫌われ者で地元に友だちがいない…
これは雇う側にとって、垂涎のプロフィールだ。
うちは家族と仕事がごっちゃになった会社なので
そこいらのおばさんを入れて、家のことや社員のことを
地元でベラベラしゃべられるほど迷惑なことは無い。
筒抜けなのは、隣のアキバ産業だけ…
範囲が限定されている安心感は大きい。
けれども我々は、心がけの良くない人々が
一時の幸運をつかんでは転落していったさまを見てきた。
嘘と芝居で本社の信頼を得、こちらでの営業所長に加えて
大阪支店の支店長という肩書きをもらって有頂天だった藤村は
労基に訴えられるという予想外の事態で左遷されたし
同じく嘘と芝居でデキる男を装ってきた松木氏は
藤村の左遷後、営業所長より一つ上の
次長という肩書きをもらって返り咲いたが
すぐ病気になって、結局は退職した。
そしてピカチューは、登りはしないものの
何やら勘違いをして威張り散らしたあげく
所長代理への格下げが決まった。
アイジンガー・ゼットの正社員登用という幸運も
あんまり手放しで喜べるものではないような気がするのだ。
一方、息子たちは正社員の件が、かなり気に入らない様子。
16日の朝礼で、ピカチューがアイジンガー・ゼットを皆の前に立たせ
社員昇格を発表しようとしたので、長男と次男は事務所を出たという。
このことを本人たちから聞いた私は、言った。
「バカじゃね!祝ってあげんさいや」
「親父を陥れたヤツじゃん!」
「スパイを正社員にして、狂っとる!」
二人は不満そうだ。
何を子供じみたこと言うとるん…
私はたたみかける。
「一緒に働く仲間じゃけん、こういう時は拍手して
お祝いを言うてあげるもんよ」
「ええ〜?無理!」
「満面の笑顔でパチパチしてあげて
“おめでとう!これからも情報漏洩に励んでくださいね!”
これが大人っちゅうもんじゃん。
それを話の途中で出るとは…あんたら、ホンマに私の子か?」
同じ日、ピカチューも所長から、所長代理へと降格になった。
それについて、ピカチューからの発表は無かったそうだ。
《続く》
本当にそうですね。
で、また人材の墓場からやって来て
ミイラ取りがミイラになるマトリョーシカ。
アイジンガー・ゼットの旧姓がわからないので
何とも言えませんが、あの厚かましさは香ります。
まさに軒下貸して母屋取られるを地で行ってて
ハタで眺める私には面白いです。
お目付け役のお目付けが要るじゃないですか。
アイジンガー・ゼット つり目でエラがはって耳たぶがなければ○○人!?
埼玉だったら川〇!?と思ってしまいました。
軒下貸して母屋取られる…と連想してしまいました。
結びの一番のつもりだったんですが
今回の記事が長くなり過ぎたのと
リアルタイムでちょっとした動きがあったので
続けることにしました。
モヤモヤ解消のヒント満載とは、ありがとうございます。
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