殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

王様の耳はロバの耳

2014年04月10日 11時30分49秒 | みりこんぐらし
10年ほど前の出来事。

病院の厨房で働いていた頃、古田さんという60才の先輩がいた。

仕事はできるが大変な負けず嫌いで、すぐ喧嘩腰になるため

皆は怖がって、彼女の定年を待ち望んでいた。


10年前といえば携帯電話がすっかり普及し

すでに無くてはならない時代となっていた。

しかし古田さんだけ持っていなかったので、緊急時に連絡が取れない。

緊急といっても仕事に関する変更ぐらいのものだが

職場の最年長者であり、最古参のパートとして

何でも人より先に知っておきたい古田さんは

そのたびに悔しがるのだった。


定年まで、あと数ヶ月…

このままアナログを通したかった古田さんだが

持ち前の負けん気には勝てず、とうとう携帯電話を入手した。

「うちのは新型じゃけのう!」

嬉しそうに携帯電話を見せびらかす古田さんであった。


数日後、いよいよ非番の古田さんに緊急連絡をする必要にかられた。

ルルルル…ルルルル…あ、これ、呼び出し音ね。


「イマリューツー、イマリューツー」

電話に出た相手から、いきなりこう言われた私の当惑を

わかってもらえるだろうか。


「ふ…古田…さん?」

「こちら古田、こちら古田」

声は確かに古田さんのダミ声である。

「リューツーツーカ、リューツーツーカ」

「ええっ?」

「アー、アー、テス、テス、テス」

「…」


そこでハタと思い当たる。

リューツーというのは

町はずれにある流通倉庫(仮名)という名前の会社ではないのか。

そこは通称「流通」と呼ばれていた。

どうやら古田さんは、ご主人の運転する車でその辺りを走っているらしい。

そして彼女の携帯デビューは、この電話だったらしい。


「あの…古田さん?」

「こちら古田、こちら古田」

「はいはい…あのね、業務連絡。

3号室の患者さんの粉末カルシウムがストップになったから…」

「接近中、接近中」

「な…何がっ!」

「◯◯橋、通過」

「はいはい、近くまで来てるのね。

電話で言うから、わざわざ寄らなくていいからね」

「こちら古田、こちら古田、アー、アー」

「わかった、わかった。

それで別の患者さんが1人始まったので

明日の朝の分の用意は同じ数だけど、仕込む患者さんを間違えないでね」

「あと1分、あと1分」

「古田さん?トランシーバーじゃないんだからね?」

「到着、到着」

何も聞いちゃおらん。


結局古田さんは病院に寄り、口頭で連絡を聞いて帰って行った。

古田さんの名誉のため、私はこのことを職場の誰にも言わなかった。

でも思い出すと、へへへと笑えてしまい

誰かに言いたくて仕方がない。

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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
また、またぁ! (すみこはん)
2014-04-10 13:13:25
そんな、面白すぎる人
ほんとに居たのぉ~!!
私も遭遇してみたい、みたい。

最近では携帯動画に
古田さん、動画よ、動いて動いて、決め顔ほどいて~
って言われているかも。(;゜д゜)

入園が一つ
入学が二つ
長女が小学校の給食のおばちゃんデビュー。
まさにピカピカスタートの時期を実感しています。

みりこんさん、ずっとお元気でしたか?
私は、桧花粉症がひどくて顔がクシャクシャしています。
みりこんさんは花粉症、大丈夫ですか?
返信する
テス、テス (すみこはん)
2014-04-10 13:22:31
って何ですか~?

「只今マイクのテスト中」ってやつですか?
返信する
遭遇… (みりこん~すみこはんへ)
2014-04-10 22:02:22
できればしない方がいいような気が…(笑)

生まれてすぐに両親が亡くなって、養女に行った先で
“おしん”みたいな苦労をして、結婚したらご主人は暴力を振るう人で
よくタンコブ作って仕事に来てたわ。
最初の子供を病気で亡くし、その後生まれた子供達は父親が嫌で
寄りつかず、ご主人は仕事をすぐ辞める人なので年金が少なくて
古田さんが働かないと生活できないから、今もどこかで働いてると
思います。

あまりにも苦労続きだと、人の働き方がユルく見えるんでしょうね。
厳しかったけど、私は母親を早く亡くしているという理由により
かわいがってもらいました。
実家と同じ町内在住だから、知っていたのね。
料理の腕は抜群で、この人に鍛えてもらいました。

テステスは、多分それだと思います。
重ねて言いますが、あまりにも苦労続きだと
浮世のあれこれに疎い面があるかもしれません。

タンコブ作って来るたびに「あんなジジイなんか、捨ててしまえ!」
と怒ったもんですが、古田さんはいつも
「あの人は、土佐のいごっそうだから」と言ってました。
ご主人は高知県の出身だったので。
女子供に暴力振るうのを土佐のいごっそうと言ったら
高知の人が怒ると思うんだけど、そんなご主人でも
彼女にとっては大切な人なんでしょうね。

花粉症、私はおかげさまで無いんです。
でも、いつなるかわかりませんよ。
ヨシコも数年前になりましたから。
クシャミしながら、暴走族みたいなメガネかけてます。
とっても辛いんでしょ?
お大事になさってくださいね。

おめでた続きで、忙しくも嬉しい春ですね!
おめでとうございます。
返信する
当たり前の事ですが (すみこはん)
2014-04-10 23:28:30
本当に人生いろいろですね。

想像も出来ないような苦難の道を古田さんは強く歩いてこられたのですね。
軽くこんな事を言うのは、傲慢かも。

なのに私は、何度も読み返しては
涙が出るくらい大笑いして。
申し訳なかったと思います。

自分で招く苦難も多々ありますが
それこそ襲いかかって来るような苦難にも
しっかり地に足着けて頑張る人も沢山おられんだと改めて思い直しました。

花粉症は夏場のほんの短い間だけなくなりますが
ほとんど一年中。
もう35年ほども付き合っています。
桜も、もう終わりますね。
返信する
本当に (みりこん~すみこはんへ)
2014-04-11 07:20:47
人生いろいろよ~!

すみこはんは傲慢じゃないですよ。
お願いですから笑ってくださいよ(笑)
後付けで余計なこと言った私が悪いわ。

現代社会で、彼女ほどの手放しの苦労人は
なかなかいないとは思うけど
「苦労が人を磨くわけではない」と言いたかっただけなの。
人間、避けられない不幸に泣くことは確かにある。
でも「自分は苦労したから、人に辛く当たってもいいはず」
これでは不幸は終わらないのかもしれませんね。

35年!花粉症のベテランですね。
何のなぐさめにもならないけど、桜も散ったし
次は大好きなモクモクした新緑を楽しみましょうね!




返信する
お別れ (ねこ)
2014-04-11 15:10:52
「苦労が人を磨くわけではない」か~
いつも深いお言葉です。

昨日で壁上司とおさらばでした。

何もしないでお別れするわけにはいかないかなと思い、少しのお菓子を帰る際に渡し、「お世話になりました。」とご挨拶したのですが、無言。

向こうも私が苦手だったんでしょう。

気まずい空気を察した受付嬢が、焦って「これ、ねこさんにって。」と
受付嬢経由で壁上司からおまんじゅうを頂きました。

なんとおまんじゅうに、メッセージが焼き印で押してある!

「あとはよろしく」

唖然ですよ。
最後まで、頭を下げたくなかったんでしょうね。

気を遣わせてごめんね、受付嬢。

笑うところなんでしょうけど、本気で笑えなかった。
来週職場で食べるからと受け取りませんでした。

大人げなかったですよね・・・
でも、本当に腹が立ったんですよ。

結局また愚痴でした。
返信する
そうですよ~ (すみこはん)
2014-04-11 16:29:45
笑ったこの顔、どないしたらええねん!って思ったけれど
もっと考えたのは、古田さんの不幸は全部避けられなかったのか?ってこと。
一人の人にこんなにも災難が降りかかるなんて・・・・・・と。

大人になれば自分の知恵で生き抜いて行かねばならない、なんて言われているけど
成らぬは人の成さぬなりけり、って言われるけど
だけど
その知恵を授からなかったり、教えてもらえる環境下になければ
何をどう考えていいのかさえ判断できないと思うんですよ。
環境のせいにしてはいけないけれど、
でも、やっぱり生まれ落ちた所で決まってしまう事が多い、と思うんです。
もっとよく考えれば違う道があるはずだって
そうしたほうが良いんじゃないかって感じても
おつむが弱いから、出来ない。
それは、その人だけの責任とは言い切れないんじゃないかって。
だから
不幸続きで多少歪んでいたって、自分の食い扶持を自分で稼いでいれば
十分立派だと思うんですよ。
古田さんだけのことではなく。

あれ?
何が言いたいんだ?

そんな事をアレコレと考えた次第です。
返信する
焼き印! (みりこん~ねこさんへ)
2014-04-11 20:17:41
ブハハ!
まんじゅうで良かったではないですか。
せんべいやクッキーだったら、あたしゃキレてるね。

無言だったのは、へたに何か言うと、せっかく用意した
焼き印のインパクトが薄まってしまうからかもよん。
ねこさんのためにお金を使ってくれたのは確かなのよね。

「劇場型」というのしら、自分をドラマの主人公に設定して
生きてる人がいるものです。
彼女の描いた彼女のためのシナリオに、周りが従わないと
気がすまない。
合う合わない、好き嫌い以前に精神的な疾患かもしれませんね。
あんなのが姑でなくて良かったじゃんか。

感じが悪かったら、腹を立てていいんですよ。
怒りを抑えこんだり、反省する必要無し!

月曜日はまんじゅうか~。
ええのう。
せんべいやクッキーだったら…って、また言ってるよ(笑)
お菓子は箱が重たいのが好きです。
返信する
私も… (みりこん~すみこはんへ)
2014-04-11 20:38:08
病院時代に、同じようなことをさんざん考えたよ。
不幸自慢ばっかりの職場だったから。

よくよく考えたら自分を含め、旦那がしっかりしてないから
無茶な時間に出勤が可能なわけで、そりゃ似たようなのしか
来んわな、とか。
自分の食い扶持稼ぐのは立派だけど、その食い扶持のために
周りの人を犠牲にするのは、本当に自立してることになるんかな?
とか。
それは結局依存ではないのか?とか。
その依存は次の不幸を呼ぶんかな?とか。
そそ、古田さんのことに限らず、いろんな職場のいろんな立場の人に
当てはめてみたりしてね。

だけど働いてお金を稼ぐって、綺麗ごとだけじゃ無理じゃん。
突き詰めれば、エゴのぶつかり合い。
対他人、対自分の両方に、どこで折り合いをつけるかが
その人の人格なんだろうな~
なんて、ボヤけた結論あたりでブラブラしてるうちに
終了しちゃったよ。
返信する

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