緒方貞子(1927~2019)、この名前を時折ニュースで小耳にはさんで、素敵な人のようだ、とは思っていた。しかし、こんなにも素晴らしい人だったとは知らなかった。こんなにも凄い人だったとは知らなかった。
(岩波書店 2015年 第1刷)
国連難民高等弁務官として難民キャンプの現地を視察したり、防弾チョッキを着て内戦の地へ降り立つこともして、生命の危機に晒された人々への国際支援を精力的に先導した、その原動力は何だったのか?
まずは実態を知ることが重要です。それに合わせて必要なことを考える。制度や法よりも前に、まずは人間を大事にしないといけない。耐えられない状況に人間を放置しておくということに、どうして耐えられるのでしょうか。 そうした感覚をヒューマニズムと呼ぶならそれはそれで一向に構いません。でも、そんな大それたものではない、人間としての普通の感覚なのではないでしょうか。
見てしまったからには、何かをしないとならないでしょう? したくなるでしょう? 理屈ではないのです。自分に何ができるのか。できることに限りはあるけれど、できることから始めよう。そう思ってずっと対応を試みてきました。
理屈ではないこの心情があって、かつ深い学識に基づく理論を駆使した人だった。犬養毅を曽祖父とする才智と実行力の血筋にも恵まれた人だった。編者の言葉を借りれば、「人道主義と政治的リアリズムが共存あるいは融合するところに緒方氏の真骨頂がある。」
終章「日本のこれからのために」にも、貴重な示唆がある。
(編者)緒方さんの眼から見て、いまの日本の対外関係が抱える最も重要な課題とは何でしょうか。
(緒方)やはり中国だと思いますね。「中国とどう向き合うのか」。このことは、実は「日本が自分の国とどう向き合うか」ということと同じ問いではないかと思うのです。日本は近代以前から、中国と深い関係を持っていましたし、中国を通して世界を見てきました。中国の文明圏の中に日本もあったと言っていいのではないですか。
そうした日中の政治、経済、文化にまでわたる重層的な関係は、アメリカと日本との関係以上のものとも言えます。その中国との関係が日本の対外関係において最も気になることのひとつです。
(編者)領土問題や歴史問題をめぐって、日本と中国は緊張関係にありますが、どうしたらよいのでしょう。
(緒方)いたずらに緊張を煽るようなことを、指導者がしてはならないのはもちろんです。ナショナリズムというのは、一度過激になると、手が付けられなくなるものです。
一般民衆の間でナショナリズムが燃え盛ると、外交で処理するのが難しい時代になります。日本と中国は、いろいろ問題を抱えながらも、冷戦期ですら政府から少し距離を置く形で「日中友好」を掲げて一緒にやってきた経験があることを、もう一度よく振り返ることです。
たとえ両国関係が一時的に危機的な状況に陥ることがあったとしても、深い信頼に裏打ちされた人間関係の層が厚く存在していれば、心配する必要はないと思います。日本は中国と一緒にやっていけるとはっきり言うほうがいいのです。今の日本は中国に警戒心を持ちすぎなのではないかと思うときもあります。
いろいろ言い合うより「協働」の経験が大事なのです。
もし緒方貞子さんに蘇ってもらうことが出来るのであれば、今のこの国のリーダーになってもらって、メルケル首相にも匹敵するだろう指導力を発揮してもらいたいものだが・・・
(岩波書店 2015年 第1刷)
国連難民高等弁務官として難民キャンプの現地を視察したり、防弾チョッキを着て内戦の地へ降り立つこともして、生命の危機に晒された人々への国際支援を精力的に先導した、その原動力は何だったのか?
まずは実態を知ることが重要です。それに合わせて必要なことを考える。制度や法よりも前に、まずは人間を大事にしないといけない。耐えられない状況に人間を放置しておくということに、どうして耐えられるのでしょうか。 そうした感覚をヒューマニズムと呼ぶならそれはそれで一向に構いません。でも、そんな大それたものではない、人間としての普通の感覚なのではないでしょうか。
見てしまったからには、何かをしないとならないでしょう? したくなるでしょう? 理屈ではないのです。自分に何ができるのか。できることに限りはあるけれど、できることから始めよう。そう思ってずっと対応を試みてきました。
理屈ではないこの心情があって、かつ深い学識に基づく理論を駆使した人だった。犬養毅を曽祖父とする才智と実行力の血筋にも恵まれた人だった。編者の言葉を借りれば、「人道主義と政治的リアリズムが共存あるいは融合するところに緒方氏の真骨頂がある。」
終章「日本のこれからのために」にも、貴重な示唆がある。
(編者)緒方さんの眼から見て、いまの日本の対外関係が抱える最も重要な課題とは何でしょうか。
(緒方)やはり中国だと思いますね。「中国とどう向き合うのか」。このことは、実は「日本が自分の国とどう向き合うか」ということと同じ問いではないかと思うのです。日本は近代以前から、中国と深い関係を持っていましたし、中国を通して世界を見てきました。中国の文明圏の中に日本もあったと言っていいのではないですか。
そうした日中の政治、経済、文化にまでわたる重層的な関係は、アメリカと日本との関係以上のものとも言えます。その中国との関係が日本の対外関係において最も気になることのひとつです。
(編者)領土問題や歴史問題をめぐって、日本と中国は緊張関係にありますが、どうしたらよいのでしょう。
(緒方)いたずらに緊張を煽るようなことを、指導者がしてはならないのはもちろんです。ナショナリズムというのは、一度過激になると、手が付けられなくなるものです。
一般民衆の間でナショナリズムが燃え盛ると、外交で処理するのが難しい時代になります。日本と中国は、いろいろ問題を抱えながらも、冷戦期ですら政府から少し距離を置く形で「日中友好」を掲げて一緒にやってきた経験があることを、もう一度よく振り返ることです。
たとえ両国関係が一時的に危機的な状況に陥ることがあったとしても、深い信頼に裏打ちされた人間関係の層が厚く存在していれば、心配する必要はないと思います。日本は中国と一緒にやっていけるとはっきり言うほうがいいのです。今の日本は中国に警戒心を持ちすぎなのではないかと思うときもあります。
いろいろ言い合うより「協働」の経験が大事なのです。
もし緒方貞子さんに蘇ってもらうことが出来るのであれば、今のこの国のリーダーになってもらって、メルケル首相にも匹敵するだろう指導力を発揮してもらいたいものだが・・・