まつなる的雑文~光輝く明日に向かえ

まつなる兄さんのよしなしごと、旅歩き、野球、寺社巡りを書きます。頼りなく豊かなこの国に、何を賭け、何を夢見よう?

「奥出雲おろち号」に乗る~木次線でのおもてなしを経て備後落合へ

2021年09月21日 | 旅行記F・中国

「奥出雲おろち号」は宍道で向きを変えて木次線に入る。私の席は宍道から進行方向逆向き。向かいの席は空席なのでしばらく移ってもいいのだろうが、そのまま座っている。

木次線に入ると速度も遅くなるが、窓の外から生い茂った葉っぱが飛び込んでくる。特に後ろを向いているので後頭部を不意打ちされることもある。体を横に向けてやり過ごす。

加茂中を出ると平野部に出て、稲穂の実る景色が広がる。この辺りから、沿線で「おろち号」を見送る人、また撮り鉄の姿も出てくる。サギも飛んで「おろち号」をお出迎え・・いや、これは単に音に驚いて飛んでいるだけだろうが。

10時06分、木次に到着。ここで果たして10数人のご年配の団体が乗ってくる。空だったボックス席はこの人たちの席だったようだ。それでも私の向かいの席は空席だし、隣の席の男性もお連れさんがいる向かいのボックス席に移ったまま。この先の駅で乗ってくる確率は低いのだろうが、とりあえずこのまま進む。

停車時間はわずかだが、ホームには販売のワゴンが出ている。予約の弁当や、木次牛乳などの販売で、乗客が車内から身を乗り出して、あるいはホームに出て先を争うように買い求める。空いている私の向かいの席から身を乗り出して購入する人もいる。私のお目当てはこの先にあり、いずれも前日に電話予約していたのでその時まで楽しみに待つことにする。

木次から先は一層ローカル線らしくなる。次の日登を出ると勾配に挑む区間に入り、列車ものんびりとした走りになる。トンネルに入ると心地よい冷風が車内に容赦なく入り込む。

駅の一角に「駅ナカ農園」が設けられている下久野に到着。もっともこの時は収穫も終わったのか、農園も草生したように見える。

下久野を出てしばらくすると、木次線で最長の下久野トンネルに入る。全長2241メートルあるが、直線で掘られているため、入口から出口まで見通すことができるという。先頭部からだと、トンネルに入ってもかすか向こうに出口を見ることができる。これは車掌のアナウンスで知ったことで、普通の列車ではこうした案内はなかったと思う。観光案内では、このトンネルの通過中に車内でイルミネーションが輝くとあったが、この日だけなのか、それとも取り止めとなったのか、天井の豆電球が光るだけだた。まあ、トロッコ型列車といえばそれらしい。

トンネルを抜けた後の出雲八代では、地元の人たちがホームに出て熱く手を振ってくれる。合わせて、クリーム大福を手にした係の人が乗り込み、車内販売が行われる。この列車、木次線の中でも木次以南のほうが駅ごとの歓迎やPRが盛んなように見えた。

次の出雲三成でクリーム大福の方が下車し、代わりに「仁多牛べんとう」を積み込んだ別の人が乗って来る。この「仁多牛べんとう」、私も前日に予約していた昼食の一品で、車端部で名前を告げて受け取る。仁多米コシヒカリの上に仁多牛を牛丼風にのせた一品。スイスイと胃袋に入ってくる。これなら「飲み鉄」といきたいところだが、この後帰りにマイカーで広島に戻らなければならないので自重。

列車がゆっくり走る間に「仁多牛べんとう」を平らげ、次の亀嵩に到着。松本清張の「砂の器」の舞台として、また駅舎がそば屋と一体化している駅として有名なところだ。もっとも、訪ねる人のほとんどはマイカーなのだが・・(私もその経験あり)。

ここは普段の列車でも事前に予約すれば「そば弁当」を受け取ることができるが、「奥出雲おろち号」だと注文も増えるという。ご主人も含めて店の人が3人ホームに出て、「○○様いらっしゃいますかー」と声を張る。その昔、窓の開く特急や急行に乗って、駅のホームで弁当の立ち売りから我先に買い求める・・そんな景色が山間の小駅で繰り広げられる。窓全開の「奥出雲おろち号」ならではである。

こちらの「そば弁当」をいただく。素朴な見た目のそばにつゆ、そして温玉をかけていただく。そばを弁当にするならこのスタイルが最善なのだろう。口直しに飴玉が1個入っているのはご愛嬌。

出雲横田に到着。ここでも地元の人たちの歓迎を受ける。予約・購入しなかったが「笹ずし」が売られていた。笹の葉でくるんだ押し寿司で、うなぎ、えび、舞茸、鮭、さば、たこの6種の具材を楽しめるという。これも酒のアテにちょっとつまむのにいいかと思う。また機会があれば買ってみよう。

出雲横田の次は八川。ここも駅前に人気の「八川そば」がある。ここにも「そば弁当」があり、先ほどの亀嵩ほどではないが受け取る客がいる。私もその一人・・・。こちらは舞茸の天ぷらや山菜などをのせた一品。亀嵩と八川、どちらも美味しくいただくことができた。

八川のそばをいただいている間にまた速度を落とし、出雲坂根に近づく。三段式スイッチバックで有名な駅で、これから上りに挑む。その前にわずか5分の停車だが、駅の外にある「延命水」をペットボトルに注ぐ。またその横には焼き鳥などを売る店が出ており、そちらを買う客もいる。この上に焼き鳥なんぞ食べると絶対に「飲み鉄」と行きたくなるが、仕方ない。時間はかかるが、出雲市までバスで行けばよかったかな・・という思いがよぎる。

「延命水」をいただいてスイッチバックの上りに入る。車両の前に人だかりができる。私も席を立って景色のよい方向に陣取る。出雲坂根駅で進行方向が変わり、折り返しとなる行き止まり線に到着。ここで再度向きを変えるが、運転士が機関車を降りて、客車の貫通扉を開けて車内に入り、そして先頭部にやって来る。移動するだけでも手間である。

そして三段式の三段目に入る。出雲坂根から次の三井野原までは、直線距離では1.5キロほどだが、高低差が約160メートルもある。10メートル進むごとに1メートル上がる計算で、登山ならともかく鉄道では厳しい勾配だ。それを克服するためのスイッチバックだが、鉄道としては名所となっている。もっとも、日常の通勤列車でいちいちこういうことをされては利用客もウンザリだろうが・・。

スイッチバックを上りきった後に広がる車窓は「おろちループ」。ループ線も勾配を克服する手段であるが、それなりの半径が必要なことから、鉄道では導入が限定されている。そこはクルマのほうが適しているようだ。この「おろちループ」が開通したことで並走する国道の利便性が高まり、木次線の存在意義も低くなったのだが、今は逆手にとって車窓の名物として紹介している。一方、「おろちループ」を上ったところにある道の駅では、「奥出雲おろち号」が通るのを見物できるのを売りにしている。ここはお互いにエールを送っていると言っていいだろう。「奥出雲おろち号」の運転が終了する2023年度終了以後はどうなるのかな・・。

三井野原に到着。ここで、木次から乗って来た団体を含めて下車する人も出る。終点の備後落合まで行くことにこだわりがなければ、車窓の見どころも過ぎたことだしここで下車するのもありだろう。団体用か、駅前にはマイクロバスも停まっている。今度は逆に「おろちループ」をたどり、その後はどこかで奥出雲の味を楽しむといったところか。

三井野原を過ぎると広島県に入る。山深い中、最後の走りを楽しみ12時36分、備後落合に到着。結局、向かいの席の客が座ることはなかった。隣の控え車両にいたのか、黙ってキャンセルしたのか。

「奥出雲おろち号」はおよそ20分後に折り返し木次行きとなる。広島県に戻ったのに再び島根県に行く形になるが、改めてこの列車の復路を楽しむことにしよう・・・。

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