クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

歌劇<イワン・スサーニン>(2)

2006年09月27日 | 作品を語る
前回の続きで、グリンカの歌劇<イワン・スサーニン>の残り部分のお話。具体的には、第3幕の後半から第4幕、そして最後のエピローグの内容についてである。

〔 第3幕 〕 ~後半部分

突然押し入ってきたポーランド軍の兵士たちが、「修道院まで案内しろ」とイワン・スサーニンに詰め寄る。イワンは一計を案じて、彼らの要求に応じることにする。彼は養女のワーニャに、「皇帝に急を告げよ」とひそかに指示し、ポーランド兵たちとともに家を出て行く。父親を敵軍に連れて行かれたアントニーダは、深い悲しみにくれる。

(※嘆くアントニーダを友人達が励ますシーンでは、「春の水は牧場に溢れ」と歌う女声合唱が聴かれるが、これは素朴なロシア民謡調。やがて気を取り直すアントニーダが、「幼友達よ、私は嘆きません」と歌うロマンスに続いて、ソビーニンと農民たちが敵軍への怒りを歌う力強い合唱へと進む。ちなみに、この合唱のテーマが序曲主部の第1主題になっている。)

〔 第4幕 〕

ワーニャは、養父イワン・スサーニンの身に起こったことを皇帝に通報する。一方イワンは、皇帝のいる修道院ではなく、全くでたらめな方向へとポーランド軍を導いていく。彼は敵軍を深い森の中で迷わせてやろうとしているのだ。激しい風雪の中、ポーランド兵たちはこのロシア農民に自分たちがまんまと騙されてしまったことに気付く。夜明けとともに彼らはイワンを殺害するが、その彼らもまた、雪の中で次々と凍え死んでいく。

(※修道院に馬を乗り付けて皇帝に事件を通報する場面は、ワーニャ役の歌手が最も力を発揮するところである。最初はイタリア式カヴァティーナ風の美しい歌を朗々と披露し、やがて合唱団の合いの手を受けながら力強いカバレッタに進む。このあたりいかにも、「イタリアで、学んできました」というグリンカらしいものだ。手元に歌詞対訳がないのが残念だが、この場面の音楽にはちょっとニンマリさせられる。)

(※続いて、このオペラで最も有名な場面に入る。第4幕第3場、森の中である。イワンの考えが見事図に当たって、ポーランド兵たちは雪の中で難渋する。しかし、ついに彼らはイワンの計略に気付き、彼を殺すことにする。「彼らは感づいた」というレチタティーヴォに続いて、イワンが有名なアリアを歌い始める。この「さし昇る太陽よ」は、数あるロシア・オペラのアリアの中にあっても群を抜く名曲の一つである。実際、全曲を聴いていても、この場面こそまさに全編のクライマックスだと、つくづく実感する。)

(※M=パシャイエフ盤でイワンを歌っているのは、マクシム・ミハイロフ。この人の声は非常に泥臭くて、野性的な響きを持ったものだ。しかし、ロシア農民を演じる歌手の声としては、こういう方が断然良い。ミハイロフは、ヴォルガ中流域の貧しい農村で生まれ育った幼少時の体験から、何よりもイワン・スサーニンという農民の役に深い共感を持っていたそうだ。実際、この役については、何と400回以上も歌った実績があるらしい。今回扱っているCDでも、名演が聴かれる。有名なアリアも勿論立派だが、そこから死に至る場面までの演技歌唱も非常に素晴らしい。ちなみに、かつて映像で鑑賞したネステレンコの歌唱はこれよりずっと洗練度の高いものだったが、残念ながら、私の心にはあまり響いてこなかった。)

〔 エピローグ 〕

モスクワ。クレムリン宮殿前の広場。皇帝を迎える群衆の歓喜の声で、全曲の終了。

(※最後のエピローグは、2つの場面から構成されている。まず第1場は、新しい皇帝を迎える群衆が集まっているところでアントニーダ、ソビーニン、そしてワーニャの3人が、スサーニンの死を悼む三重唱を歌う。そして人々が、「皇帝を守るために命を投げ出したイワン・スサーニンのエピソード」を確認するのである。かつてNHKで紹介されたネステレンコ主演の映像では、この第1場がしっかり演奏されていたと記憶する。しかし、この第1場は実演では省略されることも多いらしく、今私の手元にあるM=パシャイエフ盤ではカットされている。)

(※続く第2場が、全曲を締めくくる最後のシーンとなる。「我がロシアに栄光あれ」と歌う力強い合唱で幕が閉じられる。これは凄い終曲である。轟然たる合唱に、鐘の音がガランガランガランガラン・・・。しかし、ドラマの展開としてはやはり、上記の第1場をちゃんとやってからこの第2場へ進める形の方が良いだろうと思う。いきなりこの第2場では、ちょっと唐突な感じがする。)

(PS) ソビーニンのアリアについて

今回は枠に少し余裕が出来たので、ちょっと補足話。<イワン・スサーニン>に登場する若者ソビーニンはテノールの役だが、彼が歌うアリアはハイCにシャープが付くという超高音が要求される難曲のため、普段の上演ではカットしてしまうのだそうだ。これは本で読んだ知識の受け売りに過ぎないが、録音上でこの「幻のアリア」を見事に歌って復活させたのは、若き日のニコライ・ゲッダだそうである。マルケヴィッチが1957年に指揮した演奏とのこと。さて、その後はどうなのだろう。

―以上で、歌劇<イワン・スサーニン>は終了。これまで見てきた通り、イタリアに学ぶ、つまり「真似ぶ」ことから、グリンカのオペラ創作は始まったのであった。次回のトピックは、そんな彼が書いたもう一つの歌劇。これは序曲ばかりがやたら有名な作品だが、当ブログではしっかりとその全曲の内容を見ていく予定である。

【2019年3月7日 おまけ】

マクシム・ミハイロフが歌うイワン・スサーニンのアリア

極めつけの名演を、貴重なカラー映像で。

コメント (9)
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