クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

ケンペ、MPOのベートーヴェン/交響曲全集(EMI)

2015年11月29日 | 演奏(家)を語る
前回の11周年記念投稿の前、前々回の記事で、ケンプのピアノ独奏によるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(G)についてちょっと触れていた。そのケンプという名前からの連想で、今回は、ケンペのベートーヴェン録音(EMI)を題材にしてみようかと思う。主に1970年代、日本にもファンの多かったドイツの名指揮者ルドルフ・ケンペ(1910~1976)である。彼がミュンヘン・フィルと録音したベートーヴェンの交響曲全集(※<戦争交響曲>という駄作を除いた第1番~第9番)はどういうわけか、LP時代からずっと当ブログ主には疎遠な物で、今年(2015年)になってようやく、その全9曲を揃えて聴き通すことができたのだった。以下、各曲の演奏に対する率直な感想文を書いてみることにしたい。

評価A・・・推奨に値する名演。5点満点で採点すれば、4~5点に相当するもの。
評価B・・・可もなく不可もなくという感じの、普通の演奏。5点満点なら、3点台。
評価C・・・物足りない演奏。5点満点なら、2点台。

<第1番>=C 全体に平凡な演奏。終楽章が多少ホットかな、という程度。

<第2番>=A 当ブログ主の感想としては、この<第2番>の演奏がベスト。まず、第1楽章。音楽に生き生きとした推進力があり、聴いていてわくわくさせられる。続く第2楽章を落ち着いたテンポでゆったり歌わせ、第3楽章をきびきびと進めた後、第4楽章(特に後半)に入ると演奏がさらに熱を帯びてきて、全曲を力強く締めくくる。これは非常に聴き応えがある。

<第3番>=B 良くも悪くも、中庸を得た演奏。これといって凄いところもないし、かといって大きな瑕疵(かし)もない。評価Cでもいいかと思いつつ、終楽章がそれなりに盛り上がっていくので、甘めの採点でB。ベートーヴェンの英雄交響曲には、これ以上の名演奏が他にいくらでもある。

<第4番>=B ゆったりした序奏で始まった後、全編落ち着いた感じで曲が進む。これも中庸を得た自然な演奏だが、特にこれといった感銘を受けることもない。C・クライバーのスリリングな快速名演になじんでいる人などにはおそらく、かったるくてしょうがない演奏に感じられることだろう。

<第5番>=A 落ち着いたテンポで、豊かな音が広がる心地よい名演。特に、両端楽章で聴かれる力感溢れる表現が印象的。第1楽章コーダ付近での、ティンパニの強調も面白い。普通レベルのBよりは少し上、という意味で評価A。あと、有名な第1楽章冒頭の「運命の動機」で、フェルマータが非常に長く伸ばされるところ、ここは往年の大家ブルーノ・ワルターをふと思い起こさせる。

<第6番>=B ケンペの指揮による全9曲の演奏の中で、この<田園>が一番真ん中に来そうな出来栄えかな、という感じ。なので、評価はど真ん中のB。各楽章それぞれの性格を自然に、且つ適確に表現している。第4楽章の「嵐」の場面も十分パワフルで、楽しめる。当ブログ主の感性からすれば、終楽章をもっとゆったりしたテンポでスケール豊かに歌わせてくれていたら、さらに良い仕上がりになったのではないかと思える。

<第7番>=A 堂々と構えた悠然たるテンポで始まる。その点では上記の<第4番>と相通ずるものがあるけれども、その後に続く演奏の充実ぶりはそれとは比較にならないほど、こちら<第7番>の方が凄い。<第2番>と並ぶ(あるいは、それ以上の)、パワーみなぎる名演が展開される。評価は<第5番>の時のような消極的なAではなく、「大変な熱演を、ありがとう」という気持ちで、文句なしのA。第2楽章をあまり深刻ぶらずにすっきり流すのも、何となくケンペらしい。

<第8番>=B 全体にすっきりした快速感のある、小気味よい演奏。表現自体も自然な感じで、これまた中庸の美。で、この<第8番>に限らず、どの曲も共通して終楽章に力が入っているように感じられるのは、ケンペのベートーヴェン演奏の一つの特徴と言えるだろうか。

<第9番>=C(※第4楽章の後半のみ、A) 第1楽章から第3楽章まで、聴いていてやたら不満感が募っていく。これには困った。すっきり、あるいはあっさりした趣で流れる第1楽章に、重厚さや神秘感みたいなものは殆ど感じられない。時折息を吸い込むかのように音が小さくなる箇所が出てくるが、これも意味不明。次の第2楽章では、ケンペ独特のすっきりした演奏スタイルが場を得て、それなりに好印象が得られる。が、続く第3楽章は、中身が薄く感じられるような物足りなさと退屈感に襲われ、何ともしんどい時間を過ごすことになる。最後の第4楽章の出だしも軽量級の演奏で、「あ~あ、この第9はダメだな」・・・と思ったところへ声楽パート、特に合唱団が加わってくると、いきなり世界が変わる。ひょっとして指揮者が交代したの?と嫌味な一言でも言ってやりたくなるぐらい、音楽が変わる。大変な熱演に変わる。「終わり良ければ、すべて良し」というシェイクスピア以来の古い言い回しを、まるで地で行くような演奏。というわけで、全体的な評価はCだが、声楽が加わるところから終曲に至るまでの部分のみ評価A。

―以上をまとめてみると、当ブログ主の独断と偏見によれば、ケンペ&ミュンヘン・フィルのベートーヴェンは<第2番>と<第7番>が他よりも抜きん出ており、<第5番>がそれに次ぐといった感じになる。「全集までは買えないが、どれか1、2曲ぐらいはケンペのベートーヴェンも聴いておきたい」という方は、今回の記事をちょっと参考にしていただけたらと思う。ただし、当記事はあくまで一人のマニアの個人的な意見を書いた物なので、これから聴く人誰もが同じ感想を持つとは限らない。そのあたりはあらかじめ、お含みおきいただきたいと思う。なお、このEMIの全集録音は全体に音圧が低めなようで、他のCDを聴くときよりもアンプのボリュームを大きめにする必要がある。その点も、御留意の程。

―今回は、これにて。(※「ケンペが録音に遺した最高の名演は何と言っても、スメタナの歌劇<売られた花嫁>全曲。これが、一番」というのが当ブログ主の持論だが、この名盤については過去にもう触れているので、次回のトピックにはしようがない。さて、どうしよう・・・。)

【2019年3月21日 追記】

この記事を投稿してから、約4年半。ケンペ&ミュンヘン・フィルのベートーヴェンも、YouTubeで聴けるようになってきているようだ。ここではとりあえず、<第7番>の終楽章を貼っておくことにしたい。聴いてみて「ああ、なるほどね」と思われるか、「他の番号の方に、もっと良いのがある」とお感じになられるか、そのあたりは、お聴きになった方それぞれのご判断に委ねたいと思う。CDと同様、こちらの動画も大きめの再生ボリュームがお勧め。


●ケンペ、MPOのベートーヴェン <交響曲第7番> ~第4楽章

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