クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

津波警報で中断されたホルスト・シュタイン特集

2010年02月28日 | 演奏(家)を語る
NHKのFM番組『20世紀の名演奏』で今日(2月28日)、ホルスト・シュタインの特集があった。最初に紹介されたのは、ウェーバーの歌劇<オベロン>序曲。これは、昨(2009)年物故した名指揮者がNHK交響楽団を振った1984年の録音らしい。さすがに堂々とした立派な演奏だった。このオペラについては随分前に、当ブログで全曲紹介の記事を書いたことがある。序曲を聴くのも本当に久しぶりだったのだが、曲の途中でクラリネットがヒュオンのアリアに出てくるテーマを吹くところで、ドミンゴの歌声が私の頭の中で響き始めた。クーベリック盤で同役を歌っていたのが、彼だったからだ。「ドミンゴの声は、ドイツ物にはちょっとなあ」と思いつつも、それなりに印象的な歌唱だったので、私の脳裏にしっかりと残っていたらしい。

続いては、バンベルク交響楽団とのシューベルトの<未完成>(1986年録音)。これも、どっしりした感じのドイツ的な名演。ただし“ドイツ風の重厚な演奏”と言っても、カイルベルトのようにゴツゴツした素朴さを表立って顕示したようなタイプのものではなく、もっと練り上げられた響きがシュタイン氏の音楽にはあったようだ。この演奏を聴きながら、そんな事をふと思った。(※ちょっと話がそれるが、昨年来カイルベルトの廉価盤シリーズを何枚か買って聴いているのだが、ベートーヴェンやブラームスもさることながら、ドヴォルザークの<新世界より>にはかなり笑わせてもらった。ドイツ風に野暮ったくて無骨な響きに溢れ、何とも魅力的な怪演だったので。w )そう言えば、古い話になるけれども、あのピエール・ブレーズがバイロイトに登場した時、オーケストラの楽員たちがこぞって「シュタイン氏が良い」と賛辞の声を寄せた話が遺されている。さもありしなむ、と思う。シュタインはドイツ音楽を本当にドイツ音楽らしく重厚に鳴らし、安定感があった。だから聴く方は勿論のこと、演奏する楽員たちの立場から見ても、「安心して指揮台に立ってもらえる人」だったのだ。

ネットで見られるNHKの番組表によると、シューベルトの<未完成>に続いてベートーヴェンの<ピアノ協奏曲第2番>、そして最後にブラームスの<交響曲第4番>が流れる予定になっていたようだ。ベートーヴェンの方はフリードリヒ・グルダのピアノ独奏による有名なデッカ録音で、協奏曲全5曲がLP時代に発売されたときは結構な話題になったものである。私がレコード(及び初期のCD)を買って聴いたのはそのうちの3、4、5番だけだったが、いずれについても、「随分軽いタッチの、ユニークなベートーヴェンだなあ」と、新鮮さと同時にある種の戸惑いみたいなものも感じずにはいられなかった。特に第5番など、ある評論家氏の言葉にあるように、「グルダの<皇帝>は最後までエンペラーにはならず、プリンス然としている」ものだったのだ。後半の3、4、5番よりもむしろ、モーツァルティアンな要素が幾ばくか感じられる1、2番の方が、グルダの演奏スタイルに合っているんじゃないかな、という気も当時していたのだが、結局どちらのLPもCDも買わずじまい。その意味でも、今回予定されていた第2番は(一種の懐かしさも加わって)ちょっと楽しみだった。しかし残念ながら、今日それは叶わなかった。

午前9時33分、<未完成>の第2楽章が流れている最中に突然の信号音。何事かと思いきや、「津波警報が出されました」という男性アナウンサーの声。番組中断である。ありゃりゃ・・・。しかし音楽などの趣味番組よりも、喫緊の災害情報が優先されるのは当然の話。津波の件、大事に至りませんように。
コメント (4)
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