クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

心電図検定1級のレベル(6)~電解質異常

2022年04月30日 | 心電図検定
第7回心電図検定1級に出題された問題を振り返るシリーズ。第6回となる今回は、電解質異常。このテーマについては、典型的な高K(カリウム)血症の分かりやすい心電図が出て受検生は下駄を1つ履かせてもらえたが、その一方で、かなり厄介な問題も出された。

―その「厄介な」心電図の所見は、著明なロングQT。電解質異常を示唆する5つの選択肢から考えられる正解候補は、3つ。まず、低Mg(マグネシウム)血症。これについては、ブログ主の勝手な思い込みで、普通他の電解質異常に併発して起こる物というイメージがあり、それだけを一本釣りみたいに選ぶ考えは持ちにくかった。また、実臨床での意義はともかく検定試験の場合、Na(ナトリウム)はたいてい囮(おとり)か、“かませ犬”の役目を負わされていることが多いので、これもスルー。高K血症は、ないない。全然違う。―となると、答えは低K(カリウム)血症か、低Ca(カルシウム)血症。で、問題の指示は、「1つ、選べ」。

―試験当時、さっと見た感じでU波が増高してロングQTUになっているような印象を受けたので、当ブログ主は低K血症を選んだ。そして、すぐに次の問題へ。・・・ところがこれ、思っていた以上に controversial(物議を醸し、意見が割れるよう)な問題であることが、試験終了後に判明する。その日の夜以降、ツイッター上で何人かの受検者(※いずれも医療従事者、それも循環器のプロと見られる方々)が、この問題についての疑義を表明したのである。まず、そのうちのお一人・・・

●まるく @knochenpoppun Jan 12

{ 心電図検定にてQT延長してる心電図の原因を1つ選べで、低Ca血症、低K血症、低Mg血症が並んでて分からんかったですね。(先天性QT延長の3型っぽい形だった【注1】) 正直全部検査オーダーするべきだと思うし(Mgを慌てて追加オーダーするのが目に見える)この問題臨床的に意味があるのかよく分からなかったですね。 }

【注1】 上のツイートにある“先天性QT延長の3型っぽい形”について、ブログ主より補足。まず、きっちりした名称は、「先天性QT延長症候群 ロマーノ=ウォード(Romano=Ward)Ⅲ型」。具体的には、“平坦なST segmentがズズズッと長く伸びた後、寝坊して起きてきたプッチンプリンみたいに陽性T波がぴょこんと顔を出す”波形を示すもの。(※その発生機序からメキシレチン処方に至るまでの詳しい話を、『心電図マイスターチャンネル』の動画「先天性QT延長症候群」で、じっくり聞くことができる。視聴推奨。)

―あら、困った。ロマーノ=ウォードⅢ型だと、ブログ主が見た気になっていたTU complexは形成されない。・・で、実は『マイスターチャンネル』の新井陸先生も【復元】動画の中で、「U波はなかったので、低K血症は除外しました」って。・・・やだ、どうしましょう。じゃ、正解は低Ca症?

―続いて、もうお一方のツイート。

●aidvioa38 @ironmusk_titan Jan 18

{ 心電図検定1級の試験で唯一かつ最大の疑問点が残った問題が一つ。QT延長の電解質異常を答える問題で、低K、低Ca、低Mgなどが選択肢に並んでいた。QT延長→3つの電解質異常を全て選ぶ問題はよくあったが、そのうちひとつを選ぶのは見たことがなかった。・・・問題の心電図は、低Mgのようなテント状Tはなかったにしても、低Kを示唆するTU複合/2峰性Tや低Caを疑うやや平坦なQT部分延長の両者が認められ、電解質異常の所見を知っていた上で挑んでも答えは選べないと思った。・・・電解質異常は様々な変化をきたすことは臨床でよく経験しているし、高Kなどは選べないのはわかるが、低K/Ca/Mgの心電図変化は感度・特異度の問題で、そもそもどれも選べないじゃないかと思った。公式の問題としてのあの心電図は微妙だと思ったのと、実は複数回答もありえるのかと思った。心電図検定試験作成委員の方よかったら解答を教えてください! }

―来ました。「低Kを示唆するTU複合/2峰性T」。うひゃひゃ。やっぱり、あったんだ。QTU。きゃぴっ。・・で、結論なんだけど、これ多分、正解が複数ある。「低K、低Ca、低Mgの、どれでも良い」みたいな。ちなみに、前回の記事でご登場いただいたマイスター認定のT @t_cardio_ecgさんは、この問題については低K血症を選んでおられたらしい。一方、低Ca血症を選んだ新井陸先生は今回、成績優秀者。つまりお二方とも50点満点~それに近い得点だったわけで、どちらでも正解だったと考えるのが妥当でしょうと。

―ある意味、この問題は一種の「不適切設問」だったんじゃないかな。問いかけ方としては、「考えられるものを3つ選べ」とするか、「考えにくいものを2つ選べ」という風に出せば良かったのだと思う。

【 おまけの話 】

今回の受検で使った本の中に、『主訴から攻める心電図』(EMI Alliance教育班 羊土社)という素晴らしい一冊がある。その最初の方のページに、「意識障害を伴う徐脈性ショックを起こした87歳女性の心電図」が提示され、原因を問われる問題が出ている。心電図所見は、P波が消失した促進性の房室接合部調律。QTも長い。ブログ主は回答できなかったが、正解は高Mg血症。え?血清マグネシウム値が低下しているのではなく、逆に上がっているって?う~ん。何なんでしょう?・・・解説ページによると、この患者さんは酸化マグネシウムの過剰摂取をしていたことが後に判明したらしい。どうやら、高齢者にありがちな「頑固な便秘」に対する処方薬を、本人の判断でやたら飲み過ぎていたということのようだ。(ああ、そういう事なの。)患者自身は体に良かれと思っての行動だったんだろうが、その結果が意識障害を伴う徐脈性ショックとなると、ちょっと怖い。実臨床では、いろいろな事があるようで・・。

―次回は、「急性心膜炎と、たこつぼ心筋症」。ブログ主の素人パワーが炸裂する。w
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心電図検定1級のレベル(5)~小児の心電図、先天性心疾患

2022年04月23日 | 心電図検定
第7回心電図検定1級の問題を振り返るシリーズ。今回は、小児の心電図と先天性心疾患について。

●小児の心電図

当ブログ主が今でも思い出せる範囲だけに限ると、小児心電図に関する問題は、2つ。1つは、「何か大事(おおごと)かと思わせながら、実は単なる洞不整脈」という心電図。これについては、特になし。

問題は、もう1つの方。これがエグい。例えば胸部誘導の陰性T波が出されたなら、『公式問題集&ガイド』で、おそらく誰もが勉強済み。年齢を確認しながら、正常という診断を出していく。右軸偏位や右室肥大など、いわゆる右心負荷を示唆する波形についても同じ。これも、(年齢を鑑みながら)基本的には正常扱いで良いことが多いというのも、1級受検者なら皆勉強済みだろう。ところが今回出題されたのは、QTが長い心電図。何がエグいって、先の2例と違って、これは心電図だけにとどまらず、更なる精査が必要とされるケースが必ずあるように思われるから。つまり、先天性QT延長症候群を、その子が持っている可能性。その事が脳裏をよぎったので、当ブログ主は「正常」という選択肢を選べなかった。而(しか)して正解は、「子どもなら、これぐらい長いQTでも正常」【注1】。・・・やられた。あな、くちおし。(おや、どこからか負け犬のオーボエが)・・・ねえ~、遺伝子検査は~?いいの~?しなくて~。

【注1】 「正常な心電図」をここでの正解と認めた根拠は、今回の試験でマイスター認定を取ったT @t_cardio_ecgさんという方が、『マイスターチャンネル』の新井陸先生に寄せたツイートで、この問題に対して「正常」を選んだ旨書いておられること。)

―さて、当ブログ主が持っている本の中で、小児心電図の独立した解説ページを持っているものは・・・

◎『日本医師会雑誌 第144巻・特別号(2) Electrocardiography A to Z 心電図のリズムと波を見極める』より、S268~S277 [4]小児の心電図

単に「小児の心電図」という漠然とした言い方でなく、胎児期、新生児期、幼少期と順を追って、それぞれの心電図的特徴を述べるところから記事が始まる。まあ、さすがと言うか・・。その後、「どういう状況(あるいは、条件)が揃ったら、病的意義を認めるか」の解説に移っていく。医師向けにsome tipsを与える良記事になってはいるが、必ずしも心電図検定に直結する物ではなさそう。

◎『レジデントノート 2016-4 Vol.18 No.1 救急の心電図 どう読む?どう動く?』(羊土社)より、68~81ページ 【各論】小児の心電図判断

救急搬送されてきた子どもの症例を3つ取り上げ、レジデント向けの助言を行なっている。例えば、「近医で胃腸炎の診断を受けた女の子が、その後も状況の改善がなく、搬送されてきた。心電図をとったらVT(心室頻拍)で、それが全然収まらない。更なる検査により、劇症型心筋炎と判明。緊急入院となった」とか。怖。この特集もあまり検定向けの物とは言えなそうだが、実臨床に即した好企画の記事ではある。

●先天性心疾患

続いて、小児の心電図と強い関連性を持つテーマ。先天性心疾患。今回は(も?)、ASD(心房中隔欠損症)が出た。・・・で、やはりと言うか、レア症例の一次孔欠損よりも発生率がずっと高い、二次孔欠損の方が登場。問題の心電図所見は、右軸偏位と不完全右脚ブロック。ただ、もう一つASDに特徴的とされる“クロシュタージュ・サイン【注2】”は、今回の問題図には見られなかった(と記憶している)。孤立性の陰性T波は・・・忘れた。w ちなみに、『心電図・心エコー コンパクトナビ』 (一色高明&杉村洋一著 医学教育出版社)の103ページに、一次孔欠損と二次孔欠損の違いを簡略化して描いたモデル図がある。興味の向きは是非、ご参考に。

【注2】 クロシュタージュ(crochetage)=「錠破り、ピッキング等に使う鉤(かぎ)針」を意味するフランス語。

―さて、先天性心疾患についての検定対策お勧め本。やはり何と言っても、これ↓だろう。

◎『心電図の読み方 パーフェクトマニュアル』(渡辺重行・山口巖著 羊土社)

検定試験のネタとして妙に偏愛されている心房中隔欠損(ASD)をはじめ、心室中隔欠損(VSD)、動脈管開存、肺動脈弁狭窄、Fallot四徴症(ToF ※指定難病215)、エプスタイン奇形(※指定難病217)、修正大血管転位(※指定難病208)、さらには心内膜床欠損まで、主立った先天性心疾患を手広くカバーしている。作りが受検生向きでありがたいのは、各疾患の波形的特徴を簡潔な文とフローチャートにまとめてくれていること。例えば、「ファロー四徴症は、尖状P波+右軸偏位+右室肥大」「エプスタインは、WPWのB型+肺性P波」「修正大血管転位はV5、V6でq 波がなく、V1で認められる。時に、房室ブロックを併発」等。いずれも覚えやすく、「このうちのどれかに、本番で出会えたら嬉しいねえ」と思わせるほど、実際の試験に即している。学習者の間でライバル視されることもある『実力心電図』との比較だが、先天性心疾患に関しては、『パーフェクトマニュアル』の圧勝と言ってよさそうだ。その一方で、心電図検定では『実力心電図』に準拠した物が多く出されるという毎度の傾向を考えると、「ASD、VSD、ToFの3つは絶対、頭に入れておかねばならない」ということも、間違いなく言えるだろう。

―次回のテーマは、電解質異常。実は今回出題のこれ、受検者たちの間から試験後に疑義が続出し、かなりcontroversial(物議を醸すよう)な問題であることが判明したのだった。詳しくは、次回。
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心電図検定1級のレベル(4)~心筋梗塞の責任血管部位

2022年04月16日 | 心電図検定
第7回心電図検定1級に出た問題を振り返るシリーズ・第4回。今回は、心筋梗塞の責任血管部位。検定試験では、2級と1級のレベル差がはっきり出るテーマである。

★ST上昇を起こしている誘導とミラーイメージを確認し、心臓のおよそどのあたり(下壁・側壁・前壁中隔・後壁)で梗塞が起きているかを鑑別できれば、2級。
★おおよその梗塞箇所だけでなく、具体的な責任血管部位を答えるよう求められるのが、1級。

―心電図検定のおそらく最重要テーマということで、ブログ主は試験直前のチェック用ノートとして、下記のようなワープロ原稿を作成して会場まで持って行った。・・・そのほんの一部を、以下にコピペ。

●Ⅱ・Ⅲ・aVFでSTが上昇し、高さがⅢ>Ⅱ。V1~V3でST低下。

→責任部位は、RCA dominantの遠位部(#3)。この場合、Ⅰ誘導はミラーイメージとしてSTが下がる。また、詰まっているのは右室枝(#2内)よりも先っちょの方なので、右室に問題は無く、V4Rは変化なし。V1~V3でSTが低下するのは、下壁梗塞のミラーイメージ。

●Ⅱ・Ⅲ・aVFでSTが上昇し、高さがⅡ>Ⅲ。さらに、V1~V3でST低下。

→責任部位は、LCX dominant(#11~#14)。普通は側壁を巻き込むので、Ⅰ誘導でSTが上昇する(少なくとも、下がらない)。逆に右室側は全く無関係なので、V4Rは側壁梗塞のミラーイメージでSTが低下する。V1~V3でのST低下は、長いLCXが受け持つ後壁の梗塞と考えられる。その場合、背中の誘導V7~V9をとってSTの上昇を確認する。

●胸部誘導V1~V6のSTが上昇していて、Ⅱ・Ⅲ・aVFがST低下。側壁のⅠ・aVLで、ST上昇。

→責任部位は、LAD近位部(#6)かLMT(#5)。Ⅱ・Ⅲ・aVFでのST低下は、前胸部上昇のミラーイメージ。また、Ⅰ・aVLでSTが上昇するのは、側壁を養うLAD内の対角枝(#9&#10)も巻き込まれているからと考えられる。

●右脚ブロックがある心電図で、前壁誘導のST上昇が見られる。

→責任血管部位は、LAD近位部(#6)かLMT(#5)。右脚を養っているのは、#6から分枝している第1中隔枝だから。それの手前がふさがったために、右脚ブロック。また、ここでは側壁Ⅰ・aVLのSTも同時に上昇しがちであるが、その理由は1つ上の例と同じ。おそらく、対角枝(#9&#10)が巻き添え。

●下壁梗塞の責任血管部位は、V4Rが見られれば一発。V4RでSTが上昇していたら、RCA近位部(#1)。V4RがST変化なしなら、RCA遠位部(#3)。V4RのSTが低下していたら、LCX dominant。

●P波がないSSS(洞不全症候群)の心電図で梗塞が認められる場合、それは#1からの分枝である洞結節枝がやられていると考えられるので、閉塞箇所はRCA近位部(#1)。

●Ⅱ・Ⅲ・aVFのST上昇(且つⅡ<Ⅲになっている)とともに、V1~V3でサドルバック型のブルガダ波形が見られた場合、それはRCA近位部(#1)からのもう1つの分枝である円錐枝の領域が閉塞を起こしている可能性が高い。(※出典:日本不整脈心電学会HP →「会員・および医療関係者の皆様へ」 →「教育関連(書籍・情報)」 →「臨床心電図解析の実際-どこをどうみるか-重症不整脈に直結する波形異常編」 →第Ⅶ章 →「>」をクリックしてSTT-2へ。)

【以上、「円錐枝とブルガダ波形」の項以外は全て、『心電図マイスターチャンネル』の視聴学習で得た知識。】

―このような調子で、ブログ主は心筋梗塞の責任血管部位について、10数項目から成る「試験直前確認用メモ」を作ったのだった。上の具体例を見て、「うん、そうそう。そういうことだね」とニコニコしながら読める人は、もう既に1級を持っているか、あるいはその先のレベルにまで進んでいそうな強者(つわもの)。・・・で、「まだ、とてもそこまでは・・」という方のために、お勧めの勉強法をここでお伝えしておこうと思う。

◎まず、下↓のURLにあるような「冠動脈のカラー模式図」を1枚印刷し、手元に用意しておく。

https://skima.jp/gallery?id=72194

◎YouTube動画『心電図マイスターチャンネル』の心筋梗塞をテーマにした初期動画と、2022年1月実施の試験に備えて投稿された「心電図検定対策10問ドリル Day1~Day8」を視聴する。その際、手元にあるカラー図を見ながら、「RCA遠位部だと、・・・あ、ここか。AHA番号#3ね」「LAD近位部だと、#6か。ここが塞がるから、その先の対角枝(#9と#10)もやられて、側壁のⅠと aVLのSTも上昇するってことね。なるほど」といった風に、枝分かれした血管の名前と位置、そしてそれぞれのAHA番号までセットにして、少しずつ頭に入れていくのである。後は、その繰り返し。

◎できたら動画勉強をしながら、「自分向けの、試験直前確認用メモ」を作っておくと良い。

―次回(第5回)のテーマは、「小児の心電図と、先天性心疾患」。
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心電図検定1級のレベル(3)~WPW症候群、ペースメーカー心電図

2022年04月09日 | 心電図検定
第7回心電図検定1級の問題を振り返るシリーズ・第3回。今回は、WPW症候群とペースメーカー心電図。

●ウォルフ・パーキンソン・ホワイト(WPW)症候群

WPW症候群は心電図検定の鉄板ネタであると同時に、各級ごとのレベルを示すバロメーター的な性格も持っている。具体的には・・・

★Δ(デルタ)波という言葉を知っていて、該当する心電図でそれに気がつけば4級。
★Δ(デルタ)波を伴うQRS complexを見て、それがWPW症候群であると答えられれば3級。
★問題のWPWが、A型・B型・C型のどれであるかを鑑別できれば2級。
★WPWの型分類が分かった上で、ケント束が局在する位置を正しく推定できれば1級。

昨年第6回の試験が終了した後、ツイッター上で、「1級はWPW祭りでしたね」という受検者たちのつぶやきが流れた。今回(第7回)の1級では、祭りと言うほどの状況ではなかったものの、およそWPWに関する題材がほぼ総登場だったように思う。まず、1級の定番であるケント束の位置推定問題が、1つ。『マイスターチャンネル』の【復元】動画で丁寧に解説されているとおり、前中隔にケント束が局在するC型のWPWが今回出題された。

ケント束の位置推定のみならず、WPWに由来する頻脈の問題もガッツリ出た。副伝導路の存在がAVRT(=房室リエントリー型の上室頻拍)を惹起することを思い出させ、正しく選ばせる問題。WPWが発作性の心房細動を起こした時の波形、いわゆる偽性心室頻拍(=pseudo VT)を鑑別させる問題。手を変え、品を変え、同症候群に関する理解を確かめに来たような印象がある。

●ペースメーカー心電図

ペースメーカーのようなデバイス絡みの問題は、(複雑な設定や機能まで範囲に入れれば、)出題者の胸一つで、どこまででも難しくすることができる恐ろしい分野である。そのペースメーカー心電図が今回簡単な問題ばかりだったのは、素人の当ブログ主にとって僥倖(ぎょうこう)だった。このテーマについても『マイスターチャンネル』の【復元】動画で解説されているので、ここでは詳述しないが、まず今回のように「心房ペーシング、心室センシング」を正解とする問題については、『公式問題集&ガイド』にしっかり元ネタが出ている(※問題35~38の中)。つまり、2級レベル。

それともう1つ、リードの設置箇所を答えさせる問題。これも、当ブログ主の知識の範囲内だった。心尖部にリードを設置する従来型ペースメーカーの心電図は、下から上に向けて刺激伝導が流れることになるので、主に下壁の誘導(Ⅱ、Ⅲ、aVF)でQSパターン(※当ブログ主が勝手に、「土砂崩れ型」と呼んでいる波形)を示す。しかし今回の問題図は、QRS complexがいずれもペースメーカーを使っていない健常者の物に似ていた。つまり、土砂崩れを起こさず、(幅は広めながらも)ちゃんと上向き陽性のQRSが立ち並んでいたのだ。こんな風に普通の人の心電図に近い波形を作れるリードの位置といったら、中隔ペーシングしかあるまいと。有り難いことに、5つの選択肢のうち“中隔”という言葉を含むものは「右室中隔ペーシング」1つだけだったので、迷うことなく即答できた。・・・試験の約1ヶ月後(2022年2月13日)、『マイスターチャンネル』に動画「ペースメーカ リードの位置と心電図」が投稿され、お陰様で今は受検時よりも判読能力を上げさせていただいている。しかし、当日の試験の選択肢に「ヒス束ペーシング」が並んでいなくて良かったと、今頃になって冷や汗が(苦笑)。・・・それやこれやで、今回は本当にラッキーだった。

―さて、ペースメーカー心電図を勉強できる教材。この記事を書いている2022年4月現在の状況で言うと、普通に入手できそうな本は下記の2冊ぐらいかもしれない。

◎『ペースメーカ患者のケアに自信が持てるようになる本』 (柏瀬一路著 MCメディカ出版)

ペースメーカー心電図を初めて学ぶ者にとって、大きな助けになってくれる好ガイドブック。機械の仕組みや主な設定モードの解説から始まり、各モードの心電図的特徴を順に見ていく展開になっている。周術期のケアにもしっかりページを割いているあたり、基本的にナースさん向けの本と思える。各章の終わりに理解度チェックの質問があるのだが、これがなかなか難しい。最後の章は、総復習のための練習問題。心電図8問と、患者のケアに関する問題10問が並ぶ。が、正直なところ、もう少し問題数がほしい。・・ということで、内容のボリュームはさほどではないけれど、ビギナー向けに易しく書かれている好著ではある。

◎『ペースメーカー心電図が好きになる! 改訂第2版』 (山下武志・葉山恵津子著 南江堂)

現在入手可能なペースメーカー解説本としては、ほぼ万全な内容を持った名著だと思う。必要にしておそらく十分な知識と情報が、コンパクトに網羅されている。ただ、これはペースメーカーの理論や使用法を一通りマスターしている医師や看護師、あるいは技師さんが手にしたときに、心地良く知識の整理と確認ができる本であり、当ブログ主のような素人は勿論のこと、学びはじめの医療研修者にもちょっとキツいように思える。AV-delayやヒステリシスぐらいまでは何とかついて行けても、27ページにPVARPが登場してくるあたりから何だか怪しくなってくるのだ。そこからは先に行くほど理解が困難になって、1回の勉強で進めるページ数がだんだん短くなってくる。そしてついに、逆ウェンケバッハ型の挫折に至るという地獄。w

―そのような状況で、ペースメーカー心電図は、入門者向け参考書&問題集(あるいは、動画教材)の新登場が切に待望される分野と言えそうだ。

―次回は、心筋梗塞の責任血管部位。心電図検定の、おそらく最大にして最重要と考えられるテーマ。
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心電図検定1級のレベル(2)~キャリブレーション、巨大陰性T波

2022年04月02日 | 心電図検定
今年(第7回)の1級では出なかったが、昨年の第6回では出ていたらしい“キャリブレーション(=較正)問題”について。しれっと較正が行われている心電図の検定試験問題で、よく使われる題材は以下の2つ。

★この図のままだと一見正常に見えるが、実は左室高電位(時に、左室肥大)。
★普通の陰性T波に見えているが、実は巨大陰性T波。

今回は上記2点のうち、巨大陰性T波についてのお話。普通(?)の陰性T波は、「非貫壁性の梗塞」「心筋症」「血管閉塞後の再灌流」「心房中隔欠損症に於ける孤立波」、あるいは「(段階的に正常と見なされる)小児期の胸部誘導波」等々、実に多様な機序によって生じるが、巨大な陰性T波(Giant Negative T)を発生させる疾患となると、ある程度出てくる顔ぶれが決まっている。そのうち代表的な5つの例については、下のように並べると語呂が良くなって覚えやすい。

“褐色の、タコ、クモ、しんせん、Q波なし。” ―詳細は、以下の通り。

★褐色細胞腫

カテコールアミン産生性を持つ腫瘍で、ほぼ90%が副腎髄質に発生する。心電図検定にはあまり縁が無いように思われるが、症状が“5H病”だったり、(小児やパラガングリオーマの発症率など)比率が何かと“10%病”だったり、その独自の性格に関しては、一通りの知見を得ておくに如(し)くはない。

★たこつぼ心筋症

巨大陰性T波を発生させる疾患の代表例みたいだが、発症していきなりそれが出るわけではなく、ある程度時間がたった亜急性期以降の波形であることは押さえておきたい。心電図検定では鉄板の常連ネタで、出題パターンも“あの手、この手”。昨年の第6回2級では、巨大陰性T波を明示しつつ、「QT延長」を正解の選択肢にしていた。そのうちこれ、キャリブレーションと絡めて出題される可能性もありそう。

★くも膜下出血に代表される脳血管障害

検定試験に出るかどうかよりも、実臨床での重要性が極めて高い疾患。心電図所見以前に、頭痛や目眩、意識障害、あるいは吐き気・嘔吐等、患者の尋常でない様子から察せられる要素が多く、緊急性も高い。頭蓋(とうがい)内での出血は、心電図にしばしば大きな陰性T波を発生させるらしい。

★心尖部肥大型心筋症

(いくつかの関連サイトを見たところ)今はあまり使われなくなったらしい「マロン分類」でいう、V(5)型の心筋症。昨年の第6回2級では、キャリブレーションなしの素直な形で出題された。なお、『指定難病ペディア2019』(日本医師会編)の207~209ページによると、肥大型心筋症には「指定難病58」という番号名が付いているようだ。当ブログ主のような素人が想像するよりも、ずっと重篤な病。

★非Q波心筋梗塞

Q波を出さない心筋梗塞、いわゆる心内膜下梗塞。これも、陰性T波が大きくなるパターンを持つ。

《 ※参考までに、もう1つ。ズガルボッサ(Sgarbossa)基準のnegative concordanceをふと想起させる形を持つDe Winter’s ST/T wave complexと並んで、一般にLAD(左前下行枝)の狭窄・閉塞を示唆するものとされる波形に、ウェレンス(Wellens)徴候がある。このウェレンスの二相性T波も、陰性成分が大きな電位を示すので、GNTリストに加えておいていいかもしれない。 》 

【おまけの話】

「くも膜下出血」を英語にすると、subarachnoid hemorrhage(サブアラクノイド ヘモレッジ)、略してSAHとなる。この言葉について、元々語学畑の人間だったブログ主の“昔取った杵柄(きねづか)”的な得意話を、今回の締めくくりにちょっと書いてみることにしたい。

まずsubは、「~の下」を意味する接頭辞。subway(地下鉄)、submarine(潜水艦)、subordinate(仕事の部下)等の英単語で、おなじみ。続くarachnoは、古代ギリシャ神話に出てくる若い娘の名前「アラクネ」に由来する。これがちょっと酷い、と言うか、かわいそうな話なのだが・・・。

{ アラクネの染織り技術は職人の父親譲りで、天才そのもの。およそ織物に関しては、誰も彼女に敵う者はいなかった。あまりにも自信満々になってしまった彼女はある日、工芸を司る女神アテナに挑戦。そこで女神と競いつつ、神の技をも超えるような傑作を織り上げてしまう。激怒したアテナはアラクネの作品を引き裂き、さらに彼女を打ち据える。あまりの侮辱に耐えられず、アラクネは首をくくって自殺。それでも怒りが収まらぬ女神は、「お前は生きて、いつまでも機を織り続けるがよい」と、アラクネを蜘蛛の姿に変えてしまった。ヒドス・・。ちなみに1990年のホラー映画『アラクノフォビア』は、「クモ恐怖症」を意味するタイトルである。 }

最後のhemorrhageは、出血。ナースさんたちの業界隠語「ヘモってる」は、「出血している」の意。【 例:点滴のサーフロが外れて、患者の腕の穿刺箇所周辺が紫色。「あっ、ヘモってる」。 】

―次回のテーマは、WPW症候群とペースメーカー心電図。
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