第7回心電図検定1級に出題された問題を振り返るシリーズ。第6回となる今回は、電解質異常。このテーマについては、典型的な高K(カリウム)血症の分かりやすい心電図が出て受検生は下駄を1つ履かせてもらえたが、その一方で、かなり厄介な問題も出された。
―その「厄介な」心電図の所見は、著明なロングQT。電解質異常を示唆する5つの選択肢から考えられる正解候補は、3つ。まず、低Mg(マグネシウム)血症。これについては、ブログ主の勝手な思い込みで、普通他の電解質異常に併発して起こる物というイメージがあり、それだけを一本釣りみたいに選ぶ考えは持ちにくかった。また、実臨床での意義はともかく検定試験の場合、Na(ナトリウム)はたいてい囮(おとり)か、“かませ犬”の役目を負わされていることが多いので、これもスルー。高K血症は、ないない。全然違う。―となると、答えは低K(カリウム)血症か、低Ca(カルシウム)血症。で、問題の指示は、「1つ、選べ」。
―試験当時、さっと見た感じでU波が増高してロングQTUになっているような印象を受けたので、当ブログ主は低K血症を選んだ。そして、すぐに次の問題へ。・・・ところがこれ、思っていた以上に controversial(物議を醸し、意見が割れるよう)な問題であることが、試験終了後に判明する。その日の夜以降、ツイッター上で何人かの受検者(※いずれも医療従事者、それも循環器のプロと見られる方々)が、この問題についての疑義を表明したのである。まず、そのうちのお一人・・・
●まるく @knochenpoppun Jan 12
{ 心電図検定にてQT延長してる心電図の原因を1つ選べで、低Ca血症、低K血症、低Mg血症が並んでて分からんかったですね。(先天性QT延長の3型っぽい形だった【注1】) 正直全部検査オーダーするべきだと思うし(Mgを慌てて追加オーダーするのが目に見える)この問題臨床的に意味があるのかよく分からなかったですね。 }
【注1】 上のツイートにある“先天性QT延長の3型っぽい形”について、ブログ主より補足。まず、きっちりした名称は、「先天性QT延長症候群 ロマーノ=ウォード(Romano=Ward)Ⅲ型」。具体的には、“平坦なST segmentがズズズッと長く伸びた後、寝坊して起きてきたプッチンプリンみたいに陽性T波がぴょこんと顔を出す”波形を示すもの。(※その発生機序からメキシレチン処方に至るまでの詳しい話を、『心電図マイスターチャンネル』の動画「先天性QT延長症候群」で、じっくり聞くことができる。視聴推奨。)
―あら、困った。ロマーノ=ウォードⅢ型だと、ブログ主が見た気になっていたTU complexは形成されない。・・で、実は『マイスターチャンネル』の新井陸先生も【復元】動画の中で、「U波はなかったので、低K血症は除外しました」って。・・・やだ、どうしましょう。じゃ、正解は低Ca症?
―続いて、もうお一方のツイート。
●aidvioa38 @ironmusk_titan Jan 18
{ 心電図検定1級の試験で唯一かつ最大の疑問点が残った問題が一つ。QT延長の電解質異常を答える問題で、低K、低Ca、低Mgなどが選択肢に並んでいた。QT延長→3つの電解質異常を全て選ぶ問題はよくあったが、そのうちひとつを選ぶのは見たことがなかった。・・・問題の心電図は、低Mgのようなテント状Tはなかったにしても、低Kを示唆するTU複合/2峰性Tや低Caを疑うやや平坦なQT部分延長の両者が認められ、電解質異常の所見を知っていた上で挑んでも答えは選べないと思った。・・・電解質異常は様々な変化をきたすことは臨床でよく経験しているし、高Kなどは選べないのはわかるが、低K/Ca/Mgの心電図変化は感度・特異度の問題で、そもそもどれも選べないじゃないかと思った。公式の問題としてのあの心電図は微妙だと思ったのと、実は複数回答もありえるのかと思った。心電図検定試験作成委員の方よかったら解答を教えてください! }
―来ました。「低Kを示唆するTU複合/2峰性T」。うひゃひゃ。やっぱり、あったんだ。QTU。きゃぴっ。・・で、結論なんだけど、これ多分、正解が複数ある。「低K、低Ca、低Mgの、どれでも良い」みたいな。ちなみに、前回の記事でご登場いただいたマイスター認定のT @t_cardio_ecgさんは、この問題については低K血症を選んでおられたらしい。一方、低Ca血症を選んだ新井陸先生は今回、成績優秀者。つまりお二方とも50点満点~それに近い得点だったわけで、どちらでも正解だったと考えるのが妥当でしょうと。
―ある意味、この問題は一種の「不適切設問」だったんじゃないかな。問いかけ方としては、「考えられるものを3つ選べ」とするか、「考えにくいものを2つ選べ」という風に出せば良かったのだと思う。
【 おまけの話 】
今回の受検で使った本の中に、『主訴から攻める心電図』(EMI Alliance教育班 羊土社)という素晴らしい一冊がある。その最初の方のページに、「意識障害を伴う徐脈性ショックを起こした87歳女性の心電図」が提示され、原因を問われる問題が出ている。心電図所見は、P波が消失した促進性の房室接合部調律。QTも長い。ブログ主は回答できなかったが、正解は高Mg血症。え?血清マグネシウム値が低下しているのではなく、逆に上がっているって?う~ん。何なんでしょう?・・・解説ページによると、この患者さんは酸化マグネシウムの過剰摂取をしていたことが後に判明したらしい。どうやら、高齢者にありがちな「頑固な便秘」に対する処方薬を、本人の判断でやたら飲み過ぎていたということのようだ。(ああ、そういう事なの。)患者自身は体に良かれと思っての行動だったんだろうが、その結果が意識障害を伴う徐脈性ショックとなると、ちょっと怖い。実臨床では、いろいろな事があるようで・・。
―次回は、「急性心膜炎と、たこつぼ心筋症」。ブログ主の素人パワーが炸裂する。w
―その「厄介な」心電図の所見は、著明なロングQT。電解質異常を示唆する5つの選択肢から考えられる正解候補は、3つ。まず、低Mg(マグネシウム)血症。これについては、ブログ主の勝手な思い込みで、普通他の電解質異常に併発して起こる物というイメージがあり、それだけを一本釣りみたいに選ぶ考えは持ちにくかった。また、実臨床での意義はともかく検定試験の場合、Na(ナトリウム)はたいてい囮(おとり)か、“かませ犬”の役目を負わされていることが多いので、これもスルー。高K血症は、ないない。全然違う。―となると、答えは低K(カリウム)血症か、低Ca(カルシウム)血症。で、問題の指示は、「1つ、選べ」。
―試験当時、さっと見た感じでU波が増高してロングQTUになっているような印象を受けたので、当ブログ主は低K血症を選んだ。そして、すぐに次の問題へ。・・・ところがこれ、思っていた以上に controversial(物議を醸し、意見が割れるよう)な問題であることが、試験終了後に判明する。その日の夜以降、ツイッター上で何人かの受検者(※いずれも医療従事者、それも循環器のプロと見られる方々)が、この問題についての疑義を表明したのである。まず、そのうちのお一人・・・
●まるく @knochenpoppun Jan 12
{ 心電図検定にてQT延長してる心電図の原因を1つ選べで、低Ca血症、低K血症、低Mg血症が並んでて分からんかったですね。(先天性QT延長の3型っぽい形だった【注1】) 正直全部検査オーダーするべきだと思うし(Mgを慌てて追加オーダーするのが目に見える)この問題臨床的に意味があるのかよく分からなかったですね。 }
【注1】 上のツイートにある“先天性QT延長の3型っぽい形”について、ブログ主より補足。まず、きっちりした名称は、「先天性QT延長症候群 ロマーノ=ウォード(Romano=Ward)Ⅲ型」。具体的には、“平坦なST segmentがズズズッと長く伸びた後、寝坊して起きてきたプッチンプリンみたいに陽性T波がぴょこんと顔を出す”波形を示すもの。(※その発生機序からメキシレチン処方に至るまでの詳しい話を、『心電図マイスターチャンネル』の動画「先天性QT延長症候群」で、じっくり聞くことができる。視聴推奨。)
―あら、困った。ロマーノ=ウォードⅢ型だと、ブログ主が見た気になっていたTU complexは形成されない。・・で、実は『マイスターチャンネル』の新井陸先生も【復元】動画の中で、「U波はなかったので、低K血症は除外しました」って。・・・やだ、どうしましょう。じゃ、正解は低Ca症?
―続いて、もうお一方のツイート。
●aidvioa38 @ironmusk_titan Jan 18
{ 心電図検定1級の試験で唯一かつ最大の疑問点が残った問題が一つ。QT延長の電解質異常を答える問題で、低K、低Ca、低Mgなどが選択肢に並んでいた。QT延長→3つの電解質異常を全て選ぶ問題はよくあったが、そのうちひとつを選ぶのは見たことがなかった。・・・問題の心電図は、低Mgのようなテント状Tはなかったにしても、低Kを示唆するTU複合/2峰性Tや低Caを疑うやや平坦なQT部分延長の両者が認められ、電解質異常の所見を知っていた上で挑んでも答えは選べないと思った。・・・電解質異常は様々な変化をきたすことは臨床でよく経験しているし、高Kなどは選べないのはわかるが、低K/Ca/Mgの心電図変化は感度・特異度の問題で、そもそもどれも選べないじゃないかと思った。公式の問題としてのあの心電図は微妙だと思ったのと、実は複数回答もありえるのかと思った。心電図検定試験作成委員の方よかったら解答を教えてください! }
―来ました。「低Kを示唆するTU複合/2峰性T」。うひゃひゃ。やっぱり、あったんだ。QTU。きゃぴっ。・・で、結論なんだけど、これ多分、正解が複数ある。「低K、低Ca、低Mgの、どれでも良い」みたいな。ちなみに、前回の記事でご登場いただいたマイスター認定のT @t_cardio_ecgさんは、この問題については低K血症を選んでおられたらしい。一方、低Ca血症を選んだ新井陸先生は今回、成績優秀者。つまりお二方とも50点満点~それに近い得点だったわけで、どちらでも正解だったと考えるのが妥当でしょうと。
―ある意味、この問題は一種の「不適切設問」だったんじゃないかな。問いかけ方としては、「考えられるものを3つ選べ」とするか、「考えにくいものを2つ選べ」という風に出せば良かったのだと思う。
【 おまけの話 】
今回の受検で使った本の中に、『主訴から攻める心電図』(EMI Alliance教育班 羊土社)という素晴らしい一冊がある。その最初の方のページに、「意識障害を伴う徐脈性ショックを起こした87歳女性の心電図」が提示され、原因を問われる問題が出ている。心電図所見は、P波が消失した促進性の房室接合部調律。QTも長い。ブログ主は回答できなかったが、正解は高Mg血症。え?血清マグネシウム値が低下しているのではなく、逆に上がっているって?う~ん。何なんでしょう?・・・解説ページによると、この患者さんは酸化マグネシウムの過剰摂取をしていたことが後に判明したらしい。どうやら、高齢者にありがちな「頑固な便秘」に対する処方薬を、本人の判断でやたら飲み過ぎていたということのようだ。(ああ、そういう事なの。)患者自身は体に良かれと思っての行動だったんだろうが、その結果が意識障害を伴う徐脈性ショックとなると、ちょっと怖い。実臨床では、いろいろな事があるようで・・。
―次回は、「急性心膜炎と、たこつぼ心筋症」。ブログ主の素人パワーが炸裂する。w