クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

FMで聴いたハンス・ホッターの名唱~<ワルキューレ>

2016年07月31日 | 演奏(家)を語る
先週の日曜日(2016年7月24日)、おなじみのFM番組『名演奏ライブラリー』で、往年の名バス・バリトン歌手ハンス・ホッターの歌唱を聴いた。番組ではオペラ、楽劇からドイツ・リートまで、大歌手が遺した貴重な録音をいろいろと紹介していたが、何と言っても、1955年に奇跡のステレオ録音が行なわれたバイロイトでのライヴ<ワルキューレ>~第3幕第3場!これがブリュンヒルデ役のアストリッド・ヴァルナイともども、圧巻の一語だった。何という雄大な声、何という気迫とスケール。そして、その崇高な佇まい。小粒でちまちました今どきの歌手たちとは、すべてに於いて次元が違う。カイルベルトの指揮はいつもながらのストレートなもので、曲の進め方もすっきりした速めのものだったが、舞台上の歌手たちの歌に合わせ、柔軟にテンポの伸縮を行なってみせる練達の技も見せていた。この音源はCD発売当時ファンの間で大変な話題となったもので、今回の放送により、当ブログ主も初めてその一部分を拝聴できることとなったのだった。

ホッターが歌う<ワルキューレ>の終曲『ヴォータンの告別』といえば、ジョン・カルショーのプロデュースによるショルティのデッカ盤が昔から有名だが、残念ながら、そこではもう大歌手全盛期の声を聴くことはできない。さりとて、クレメンス・クラウスやハンス・クナッパーツブッシュ等の指揮によるバイロイトのライヴ音源となると、どれも音の貧しさが目立つモノラル録音ばかりで、ミニコンポのサイズならまだしも、フルコンポになるとオーディオ的な面で少なからずつらい思いをさせられることになる。で、結局、レオポルド・ルートヴィヒの指揮、若きビルギット・ニルソンとの共演によるEMIの初期ステレオ盤(1957年)が演奏・録音ともに極上の一品(ひとしな)、ホッター最高のヴォータンということになっていた。それが、このバイロイト公演ステレオ・ライヴ盤の登場ということになって、ファンにとっては大きな宝物が一つ追加されたわけである。当ブログ主もいずれ、この1955年ステレオ盤については、≪指環≫全4作のCDをひと通り揃えてみたいものだと改めて思った。

(※しかしまあ、つくづく思うのだが、現在確認されている範囲でのお話として、クナッパーツブッシュが指揮した1950年代のバイロイト・ライヴがことごとくモノラルで、カイルベルトの≪指環≫と<オランダ人>だけが奇跡的に良質なステレオ録音で遺されたというのは、何とも残念な話である。カイルベルトは決して悪い指揮者ではないが、クナ先生の指揮が生み出す巨大なスケール感や深いうねりなどと比べたら、作る音楽のレベルという点で明らかに遜色がある。1956年、57年、58年のどれか1つでも、クナ先生の≪指環≫全曲がステレオ録音されていたら、どんなに良かったろうと思えて仕方がない。)

この<ワルキューレ>に次いで、当日懐かしく聴きながら改めて印象に残ったのは、シューベルトの歌曲集<冬の旅>からの冒頭5曲。即ち、第1曲「おやすみ」から第5曲「菩提樹」までの部分。番組で使われた音源は、ホッター来日公演時の東京ライヴ(1969年・ソニー盤)だった。

―というところで、続きは次回。今回の続編という流れで、「FMで聴いたハンス・ホッターの名唱~<冬の旅>」という形で話を進めてみることにしたい。

【2019年5月6日 追記その2】

●ホッターとクナッパーツブッシュによる「ヴォータンの告別」(1956年バイロイト・ライヴ)

当ブログ主はこの音源を《指環》全曲のCDセットで持っているが、これをフルコンポのステレオで再生すると、音の貧しさがネックになって楽しめない。しかし、こうやってYouTube動画になった物をデスクトップPC+外付け小型スピーカーで聴くと、迫力満点。思いっきり感動する。そして改めて、「クナ先生の《指環》がどれか1回分でも、ステレオ録音されていたらなあ」と思う。

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