ヨウン・レイフス・・・知る人ぞ知る、20世紀アイスランドのブッ飛び作曲家である。前回、石井作品を語った記事の中でその名にさりげなく言及したので、今回はこのレイフスの音楽について語ってみたいと思う。
まず、基本的なところを手短に言えば、レイフスの音楽は故国アイスランドの神話や伝説、あるいは回りを取り巻く厳しい自然環境といったものをモチーフとして取り入れ、大胆にして豪快な表現手法を駆使した作品が中心になっているものと言ってよいだろう。もっとも、この人の多岐にわたる作品群のすべてを聴いてきたわけではないので、今回は私が知っている範囲内でのご紹介ということにさせていただこうと思う。
レイフス入門用には、火山の噴火をモチーフにした<ヘクラ>を収めたBIS盤が最適だと思う。1曲目の<アイスランド序曲>のムードからして、この作曲家はちょっと普通じゃないというのが実感されることだろう。同時にこの作品には、レイフスの音楽がもっている基本的な音響的特徴が明確に出ているので、その意味でも入門用にふさわしいと言えそうだ。この曲の後半には合唱が出てくるのだが、初めて聴いた時は目が点になってしまった。何だか、木に竹をつないだように唐突な感じがしたからである。しかし慣れてくると、それもいいか、みたいな気になってくる。一方、5分弱というギネス級(?)の最短演奏時間で書かれた<レクイエム>は、北欧のほの暗い空気感を漂わせた、神秘的な美しさを持った名曲だ。これは一聴の価値あり、である。そして、メイン・プロである<ヘクラ>の、あの阿鼻叫喚の物凄さ!出だしの何分かは不気味に静まり返っているのだが、すぐに様子がおかしくなってくる。火山の噴火と溶岩の流出が始まるのだ。大編成のオーケストラに、各種の打楽器や電子楽器等、かなり特殊なものを持ち込んで、後半に入ると合唱まで加わってくる。まあ、何でもありという感じである。BISの名録音も威力を発揮して、唖然とするほどの音響世界が展開される。あとは、聴いてのお楽しみ・・。
一方、レイフスの音楽にかなりハマり込んだ熱心なファンの人たちに欠かせないのは、舞台用音楽として書かれた<バルドゥル>だろう。CD2枚組、演奏時間90分余りの大作である。語り手、独唱、合唱、大管弦楽のほかに鉄板などの特殊打楽器を大量に持ち込み、激しいサウンドがドカン!グシャン!バシャン!と随所で爆発する。第1幕の「ハリケーン」や、フィナーレのダンスも相当キテいるが、全曲を締めくくる最後の「火山の噴火」がとりわけ凄い。上述の<ヘクラ>同様、レイフス先生はよほど火山がお好きでおられるようだ。例えば、あの噴火音、ドゴーン!ズドーン!これは大砲の空砲か、電子楽器による合成音かのどちらかだと思うのだが、まあ何とも凄まじい。勿論、静かな部分というのも相当長い時間ある。ところが、これがまた美しいというよりは、ひたすらひたすら怪しげなのだ。こんなのを一人で部屋の中で聴いていると、「うぐぐっ!だっ、誰か、助けてくれっ」とうめきたくなってくる。何かのお薬ではないが、「用法・用量を守って、お聴き下さい」みたいに申し上げたくなるような世界である。ポール・ズーコフスキー&エスクナル響、他による爆演CDを何年前になるか、ネット通販でアメリカのお店に注文した頃は、この作品のCDを見つけるのは大変だった。しかし今は、複数の全曲盤CDが簡単に入手できるようになっているようだ。この2作が、レイフスの作品群の中でも一番イケてるんじゃないかなと思う。勿論、それ以外にも、BISレーベルを中心に何種類かのCDが出ている。
初期の大作<サガ・シンフォニー>は、Sagaというタイトルの通り、アイスランドの古い伝説をテーマにした交響曲である。石をゴチンゴチンぶつけて音を出す場面があったり、曲の途中でいきなりピイイーーと古代の石笛が鳴り出したり、ラストではドカドカドカドカと滅茶苦茶な音の暴走が始まったりと、部分的には強いインパクトを与えはするのだが、全体の印象としてはむしろ地味な作品である。
<ゲイズィール>は間欠泉、つまり時間の間隔をあけて噴き出す熱湯をモチーフにしたものである。BISの優れた録音技術で、迫力のある低音がドドーーンと出てくるのだが、曲自体はそんなに爆裂系ではない。むしろこのCDでは、併録された<アイスランド舞曲>に、レイフス音楽のルーツみたいなものを見て取れるところが興味深い。
<ハフィス>は、海面に漂う流氷をモチーフにしたものだ。これはレイフスの管弦楽作品中、おそらく最も静かなものであろう。終始静謐な音楽が流れ続ける。BIS盤では女性指揮者が振っているようなのだが、その演奏にはもう少し締まりが欲しいと思った。期待していても最後まで何も起こらない曲なので、人によっては肩透かしを食った気分になってしまうかも知れない。私はちょっとガッカリして、すぐ中古売却してしまった。
レイフスの作品は、室内楽系のものも含めて今は相当数CD化されているので、<ヘクラ>あたりから入って、不幸にして(?)興味をお感じになられた方は、ご自身でその後を開拓なさっていただけたらと思う。
(PS)
火山と言えば、イタリアのヴェスヴィオ火山に登山列車が敷設されたことをきっかけにして書かれた歌、あの<フニクリ・フニクラ>が大変有名だ。この歌をモチーフに使った管弦楽曲の名作としてはやはり、R・シュトラウスの交響的幻想曲<イタリアから>が多くのクラシック・ファンに親しまれているものだろう。その終曲はお馴染みの「ヤンモヤンモ・ヤー(=行こう、行こう。標準イタリア語ならAndiamoか)」で賑々しく盛り上がるが、この歌を題材に使ったもっと凄い爆裂音楽と言えるのは、アルフレード・カゼッラの狂詩曲<イタリア>(1909年)ではないかと思う。ものの本によると、四管にハープ2台、そして二十型の弦という編成で書かれている作品だそうだが、終曲がやはり<フニクリ・フニクラ>で大爆発してくれるのだ。ただ残念なことに、現在CDとして出ているものは一種類しかないようだ。シルヴァーノ・フロンタリーニ&モルダヴィア国立響の演奏。これは録音ともども、はっきり言って物足りない。こんなもんじゃないはずです、この曲は。誰かやってくれないかなあ、もっと、ぶっ飛ぶような爆裂演奏を。
【2019年3月16日 おまけ】
セーゲルスタム&ヘルシンキ・フィルによるレイフスの<ヘクラ>
※容赦なく激烈な曲なので、つらくなったら再生を止めるか、ボリューム調節を。
【2019年3月23日 おまけ その2】
ズーコフスキー&エスクナル響によるレイフスの<バルドゥル>~火山の噴火
※<ヘクラ>の姉妹作みたいな感じだが、こちらは大作<バルドゥル>のほんの一部分ということで、より小規模な短い曲になっている。と言っても、レイフスらしさは存分に出ているので、聴き応えは十分。
まず、基本的なところを手短に言えば、レイフスの音楽は故国アイスランドの神話や伝説、あるいは回りを取り巻く厳しい自然環境といったものをモチーフとして取り入れ、大胆にして豪快な表現手法を駆使した作品が中心になっているものと言ってよいだろう。もっとも、この人の多岐にわたる作品群のすべてを聴いてきたわけではないので、今回は私が知っている範囲内でのご紹介ということにさせていただこうと思う。
レイフス入門用には、火山の噴火をモチーフにした<ヘクラ>を収めたBIS盤が最適だと思う。1曲目の<アイスランド序曲>のムードからして、この作曲家はちょっと普通じゃないというのが実感されることだろう。同時にこの作品には、レイフスの音楽がもっている基本的な音響的特徴が明確に出ているので、その意味でも入門用にふさわしいと言えそうだ。この曲の後半には合唱が出てくるのだが、初めて聴いた時は目が点になってしまった。何だか、木に竹をつないだように唐突な感じがしたからである。しかし慣れてくると、それもいいか、みたいな気になってくる。一方、5分弱というギネス級(?)の最短演奏時間で書かれた<レクイエム>は、北欧のほの暗い空気感を漂わせた、神秘的な美しさを持った名曲だ。これは一聴の価値あり、である。そして、メイン・プロである<ヘクラ>の、あの阿鼻叫喚の物凄さ!出だしの何分かは不気味に静まり返っているのだが、すぐに様子がおかしくなってくる。火山の噴火と溶岩の流出が始まるのだ。大編成のオーケストラに、各種の打楽器や電子楽器等、かなり特殊なものを持ち込んで、後半に入ると合唱まで加わってくる。まあ、何でもありという感じである。BISの名録音も威力を発揮して、唖然とするほどの音響世界が展開される。あとは、聴いてのお楽しみ・・。
一方、レイフスの音楽にかなりハマり込んだ熱心なファンの人たちに欠かせないのは、舞台用音楽として書かれた<バルドゥル>だろう。CD2枚組、演奏時間90分余りの大作である。語り手、独唱、合唱、大管弦楽のほかに鉄板などの特殊打楽器を大量に持ち込み、激しいサウンドがドカン!グシャン!バシャン!と随所で爆発する。第1幕の「ハリケーン」や、フィナーレのダンスも相当キテいるが、全曲を締めくくる最後の「火山の噴火」がとりわけ凄い。上述の<ヘクラ>同様、レイフス先生はよほど火山がお好きでおられるようだ。例えば、あの噴火音、ドゴーン!ズドーン!これは大砲の空砲か、電子楽器による合成音かのどちらかだと思うのだが、まあ何とも凄まじい。勿論、静かな部分というのも相当長い時間ある。ところが、これがまた美しいというよりは、ひたすらひたすら怪しげなのだ。こんなのを一人で部屋の中で聴いていると、「うぐぐっ!だっ、誰か、助けてくれっ」とうめきたくなってくる。何かのお薬ではないが、「用法・用量を守って、お聴き下さい」みたいに申し上げたくなるような世界である。ポール・ズーコフスキー&エスクナル響、他による爆演CDを何年前になるか、ネット通販でアメリカのお店に注文した頃は、この作品のCDを見つけるのは大変だった。しかし今は、複数の全曲盤CDが簡単に入手できるようになっているようだ。この2作が、レイフスの作品群の中でも一番イケてるんじゃないかなと思う。勿論、それ以外にも、BISレーベルを中心に何種類かのCDが出ている。
初期の大作<サガ・シンフォニー>は、Sagaというタイトルの通り、アイスランドの古い伝説をテーマにした交響曲である。石をゴチンゴチンぶつけて音を出す場面があったり、曲の途中でいきなりピイイーーと古代の石笛が鳴り出したり、ラストではドカドカドカドカと滅茶苦茶な音の暴走が始まったりと、部分的には強いインパクトを与えはするのだが、全体の印象としてはむしろ地味な作品である。
<ゲイズィール>は間欠泉、つまり時間の間隔をあけて噴き出す熱湯をモチーフにしたものである。BISの優れた録音技術で、迫力のある低音がドドーーンと出てくるのだが、曲自体はそんなに爆裂系ではない。むしろこのCDでは、併録された<アイスランド舞曲>に、レイフス音楽のルーツみたいなものを見て取れるところが興味深い。
<ハフィス>は、海面に漂う流氷をモチーフにしたものだ。これはレイフスの管弦楽作品中、おそらく最も静かなものであろう。終始静謐な音楽が流れ続ける。BIS盤では女性指揮者が振っているようなのだが、その演奏にはもう少し締まりが欲しいと思った。期待していても最後まで何も起こらない曲なので、人によっては肩透かしを食った気分になってしまうかも知れない。私はちょっとガッカリして、すぐ中古売却してしまった。
レイフスの作品は、室内楽系のものも含めて今は相当数CD化されているので、<ヘクラ>あたりから入って、不幸にして(?)興味をお感じになられた方は、ご自身でその後を開拓なさっていただけたらと思う。
(PS)
火山と言えば、イタリアのヴェスヴィオ火山に登山列車が敷設されたことをきっかけにして書かれた歌、あの<フニクリ・フニクラ>が大変有名だ。この歌をモチーフに使った管弦楽曲の名作としてはやはり、R・シュトラウスの交響的幻想曲<イタリアから>が多くのクラシック・ファンに親しまれているものだろう。その終曲はお馴染みの「ヤンモヤンモ・ヤー(=行こう、行こう。標準イタリア語ならAndiamoか)」で賑々しく盛り上がるが、この歌を題材に使ったもっと凄い爆裂音楽と言えるのは、アルフレード・カゼッラの狂詩曲<イタリア>(1909年)ではないかと思う。ものの本によると、四管にハープ2台、そして二十型の弦という編成で書かれている作品だそうだが、終曲がやはり<フニクリ・フニクラ>で大爆発してくれるのだ。ただ残念なことに、現在CDとして出ているものは一種類しかないようだ。シルヴァーノ・フロンタリーニ&モルダヴィア国立響の演奏。これは録音ともども、はっきり言って物足りない。こんなもんじゃないはずです、この曲は。誰かやってくれないかなあ、もっと、ぶっ飛ぶような爆裂演奏を。
【2019年3月16日 おまけ】
セーゲルスタム&ヘルシンキ・フィルによるレイフスの<ヘクラ>
※容赦なく激烈な曲なので、つらくなったら再生を止めるか、ボリューム調節を。
【2019年3月23日 おまけ その2】
ズーコフスキー&エスクナル響によるレイフスの<バルドゥル>~火山の噴火
※<ヘクラ>の姉妹作みたいな感じだが、こちらは大作<バルドゥル>のほんの一部分ということで、より小規模な短い曲になっている。と言っても、レイフスらしさは存分に出ているので、聴き応えは十分。