クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

心電図検定1級のレベル(8)~副収縮、心室相性洞不整脈を伴う完全房室ブロック

2022年05月14日 | 心電図検定
第7回心電図検定1級に出た問題を振り返る特別記事シリーズも、今回で終了。極め付けの2つが、掉尾(ちょうび)を飾る。

●副収縮(※厳密に言えば、心室副収縮)

―いかにも、1級らしいネタ。副収縮。これの発生機序を理解するのは、かなり大変。「保護ブロックと進出ブロックの二重発生」という難しい概念を把握するには、相当高度な理解力が求められるから。正直、今のブログ主には無理。しかし、この副収縮、出題される波形自体は、そんなに難しいものではない。「PVC(心室期外収縮)が、一見ランダムなようだが、実は間隔が整数倍となる規則的なテンポを保ちながら出現している」というパターンなので、ディバイダーで尺を採れば一応の鑑別が出来るから。具体的な例は『パーフェクトマニュアル』の248~249ページ、あるいは『実力心電図』の246ページ等で見ることができる。今回の試験に出た心電図は、やはりという感じで、『実力心電図』に載っている物にとてもよく似ていた。あと、ネット上で無料閲覧できる物としては、下記↓のサイトに出てくる波形が理解しやすいと思う。

◎日本不整脈心電学会のHPで「会員および医療関係者の皆様へ」をクリックして開いたページから、少し下へscroll →「教育関連(書籍・情報)」をクリック →一番右下にある「臨床心電図解析の実際-どこをどう見るか-複雑な心電図の解析編」をクリック →青い字で章番号が並んだ長四角をクリック →電子ブックの表紙が出たら、左端にある「目次」をクリック →「第Ⅱ章 異所性収縮」をクリック →そこから「>」のクリックで、1ページずつQuestion & Answerを見ていく。

(※ちなみに、今回の心室副収縮よりもレアで、さらに高度な判読能力を要求される「心房の副収縮」についても、上記のサイトでその恐るべき姿を目にすることができる。興味の向きは、御参照の程。)

―さて、神がかり的な力を以て、『マイスターチャンネル』の新井陸先生が【復元】動画で再現した47問に加え、後日他の受検者たちから寄せられた情報により、残る3つのうち2つまでが埋まった。その2つとは、「マッギン&ホワイトのパターン、いわゆるSⅠQⅢTⅢ(エスいち、キューさん、ティーさん)が見られる心電図を基に、肺血栓塞栓症を選ぶ問題」と、「不安定狭心症を選ぶ問題」である。(※当ブログ主は狭心症を選んで塗った記憶が無いので、多分×になってしまった物だろう。どんな問題だったのか、全く思い出せないが。)これで、計49問が揃ったことになる。・・・で、“神の子”新井陸先生の記憶からこぼれ、他の人たちからもフォローされなかった最後の1問、ミッシング・リンクは、これ↓である。

●心室相性洞不整脈を伴う完全房室ブロック

『パーフェクトマニュアル』なら291~292ページ、『実力心電図』なら177ページ。ネット上の無料サイトで御覧になりたい方は、こちら↓にアクセスされたい。

◎日本不整脈心電学会のHPで「会員および医療関係者の皆様へ」をクリックして開いたページから、少し下へscroll →「教育関連(書籍・情報)」をクリック →右列の上から2番目にある「臨床心電図解析の実際-どこをどう見るか-不整脈編」をクリック →青い字で章番号が並んだ長四角の「第1章・第2章」をクリック →電子ブックの表紙が出たら、左端にある「目次」をクリック →「1.洞不整脈 15」をクリック →そこから「>」のクリックを何度か繰り返してECG S007へ。

―上記S007の問題図を一瞥(いちべつ)しただけで、1級受検者のレベルなら即座に、これが房室解離を起こしている心電図であることに気づかれると思う。問題は、そのあと。RR間隔は規則的なリズムを保っているけれども、PP間隔の方は不規則バラバラ。・・ということは、定義に当てはまらないから、これは完全房室ブロックではない?じゃ、何?・・・ここで注目すべきは勿論、PP間隔である。心電図をよく見ると・・・

QRS complex(=心室興奮)を間に挟んだPP間隔(以下【A】)と、そうではないPP間隔(以下【B】)の2種類に、実は分かれる。そして【A】と【B】は、それぞれが独自に一定のリズムを保った規則的なパルスを刻んでいる。つまり、ぱっと見がバラバラなPP間隔(=洞結節の興奮周期)が、実はちゃんと規則的な【A】と、これまた独自に規則的な【B】が混ざって出ている姿なのだ。それが傍目には、バラバラの不規則に見えてしまう結果になっている・・そういう心電図なのである。その結果、ある意味皮肉な話になるけれども、2級までの勉強で完全房室ブロックの定義をしっかり身につけた人の方が、この問題に正解できないことになる。「RR間隔はレギュラーなのに、PPはバラバラだ。・・ってことは、これ少なくとも、完全房室ブロックじゃないな」と、いきなり正解を除外してしまうことになりかねないから。しかし結論を言うと、これは正真正銘、完全房室ブロックの心電図なのである。だからこその、1級問題。2級までではおそらく絶対に出ないネタだと、はっきり言えちゃうのだ。なお、上記S007の解説ページにある通り、両PP間隔の長さを比べると【A】<【B】となっているのが、1つのポイント。このような姿を示す不整脈を、“心室相性洞不整脈” と呼ぶわけである。臨床でも、完全房室ブロックを示す症例全体の約30~40%で、これが見られるとのこと。決してレアな物ではないようだ。ちなみに英語版だが、これがまた長くて難しい。“ventriculophasic sinus arrhythmia / ヴェントゥリキュロフェイズィック・サイナス・アリズミア”。(←早口言葉かよ。w )

―上述の副収縮同様、心室相性洞不整脈も、「こういうのが、あるんだな」と頭の中に形が一旦インプットされたら、後はそんなに苦労することなく鑑別できるようになる。しかし、その発生機序はやはり、相当難しい。現在最も有力な説について、心臓病学教育研究会のサイトにある「心電図データベース」の症例32で解説を見ることができるが、ブログ主は正直キューピーちゃん(お手上げ状態)。

―これにて、第7回心電図検定1級の試験問題を振り返るシリーズは終了。お疲れ様でした。なお、ブログ主は最近、手指の異常(※神経内科医によると、動作特異性ジストニアの可能性あり)で、生活の一部につらい支障が出てきている。幸い、今回でシリーズ記事が一区切りついたので、しばらく休もうと思う。
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心電図検定1級のレベル(7)~急性心膜炎、たこつぼ心筋症

2022年05月07日 | 心電図検定
今回のテーマは、「急性心膜炎と、たこつぼ心筋症」。いずれの題材も1つずつ、全く迷わずに回答できる簡単な問題が出た。しかし、それら以外にもう1題、予想外の深さを持つ物があった。この↓問題である。

「カテーテルアブレーション後の患者が、胸痛を訴えた。心電図所見から、その原因と考えられる物を選べ」。

問題の心電図を見ると、一目瞭然で急性心膜炎。ほぼ全誘導に亘って、STが上昇。aVRでは、ST低下とPQ上昇。さらに「V6誘導でのST/T比>0・25」という決定的な条件も、十全に満たしている。これで何を迷うのか、というぐらい。

しかし、当ブログ主は、その完璧さに対して逆に違和感を覚えた。往年の“検定ハンター”としての勘(あるいは、嗅覚みたいな物)が、しきりに胸の中でざわめき立つ。「これ、心膜炎じゃねえぞ、多分」。だが、根拠がない。・・・とりあえずのきっかけは、V1誘導の様子。おそらく瀰漫(びまん)的と思われる炎症を急激に起こしていながら、ちょっと静かすぎないか、この波。それと、aVRの波形。これは、「たこつぼ」でもあり得る。だが、(あちこちに異常Q波でも見つかったなら、ともかく)V1誘導が大人しいというだけでは、急性心膜炎を否定する根拠には全くならない。もっとしっかりした何かが、ほしい。(・・・で、ここからが、笑える与太話。以下に述べる展開は、受け狙いの冗談や作り話などではない。本当にこうだった。)

考えあぐねたブログ主が試験中、試みたことは何か。それは、出題者の深層心理にダイブすることだった。(←おいおい。w )「心膜炎と、たこつぼ心筋症。術後に起きる案件として、オペの執刀医には、どちらがより受け入れられるか」。答えは多分、後者。手術後の急性心膜炎に考えられる原因は普通、感染症である。事態の深刻さによっては、アメリカあたりだと下手をするとM&M conferenceが招集され、オペの担当者は針のむしろに座らされる。そして「感染の経路は?」「それが起きた理由は?」「その責任は?」と、鬼のように詰められて・・・。一方、たこつぼ心筋症はどうか。次のような感じで、申し開きがしやすいのではないか。

「はい、なにぶん心筋焼灼(※クライオなら、冷凍)という高侵襲なオペですので、患者様によっては、その、肉体的なストレスが誘因となって、心臓の壁運動異常(※心基部の過収縮と、心尖部のハイポキネシス)を偶発的に起こしてしまう方も、いらっしゃることかと。はい、ある意味、不可抗力・・・」。

この“偶発的”とか“不可抗力”とかいう言葉が使えたら、担当者はかなり気が楽になるはず。つまり、自分たちの落ち度が場合によっては厳しく追及されかねない心膜炎よりも、(言い方は相当悪いが)患者さんには「たこつぼ」を起こしてもらった方がずっとありがたいのではないかと。試験の出題者だって、心外(しんげ)のドクターではないにしても、おそらく医療関係者だろう。自分、あるいは身内が鬼詰(きつ)めのオ○コにされそうな症例は、無意識に避けるんじゃないか。・・・で、一旦マークシートを塗り始めた手を止めて消しゴムをかけ、「たこつぼ心筋症」を選んで塗り直したのだった。よしっ!今日の試験、これで勝つる!我が決断に、一片の悔いなし(ドォーン)!(←ちょっと何言ってるかわからない。)

―これだけの話なら、今回の記事は起こさない。素人の妄想炸裂で、ひたすら滑稽だから。実はこの案件、続きがある。試験後かなり日が経ってから、ふと思いついて、「アブレーション たこつぼ」と並べてググってみたのだ。そうしたら、出てきた。当ブログ主を喜ばせてくれる検索結果が。以下、その一部をコピペ。

★カテーテルアブレーション関連秋季大会2019(日本不整脈心電学会)
第 4 会場 16:30〜17:30 合併症④
演 者 O102. 心房細動アブレーション後に心肺停止を呈した医原性たこつぼ心筋症 岡崇史

★安岡 良文(ヤスオカ リョウブン)J-GLOBAL ID:201401057894722096 更新: 2020年06月03日
アブレーション終了直後にたこつぼ型心筋症を発症した通常型房室結節回帰性頻拍の一例
(第111回 日本循環器学会近畿地方会 2011)

★岡英一郎 2018年12月(※下の本文は長いため、ブログ主が所々カット。)
持続性心房細動に対する肺静脈隔離術後にたこつぼ心筋症を発症した1例
{ ・・・76歳女性。有症候性の持続性心房細動に対してカテーテルアブレーション施行目的で入院。・・・心筋焼灼に伴う疼痛を訴えたため、プレセデックス増量とミダゾラムを投与したところ、喀痰排出が困難となり酸素飽和度の低下をきたした。・・・拡大両側肺静脈隔離術を施行した。・・・術翌日に心電図上前胸部誘導でT波の陰転化を認め、その後呼吸困難が出現し、心エコー検査では心尖部の壁運動低下がみられた。・・・術後にアブレーション焼灼時の疼痛を我慢していたことが判明し、カテーテルアブレーションを誘因とするたこつぼ心筋症と診断した。心房細動に対するカテーテルアブレーションを契機にたこつぼ心筋症を発症した1例を経験した。 }

―では、本稿の結論。下記の2つの根拠をもって、素人が敢えて傾(かぶ)いたことを言ってしまおう。

根拠1.(ブログ主自身は試験中に気づけなかったが、)新井陸先生をはじめ複数の受検者が、「心膜炎らしからぬ“concave型でないST上昇”が、問題図の中に見られた」と、証言しておられること。

根拠2.(試験後何日も経ってから得た検索結果なので、後出しジャンケンになってしまうが、)上のコピペにあるとおり、アブレーション後にたこつぼ心筋症を発症した事例が複数、報告されていること。

【結論】 { 今回(第7回)の、検定試験1級問題。「カテーテルアブレーション後の患者を襲った胸痛は、何が原因か」。正解はおそらく、急性心膜炎ではない。医原性のたこつぼ心筋症だ。 }

―次回は、「2級までではおそらく、絶対に出てこない」と断言できる、これぞ1級!というネタが2つ登場。
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