クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

ロストロポーヴィチ、LSOのショスタコーヴィチ/交響曲第5番

2017年05月30日 | 演奏(家)を語る
2017年5月。今月、とても印象的な名演のCDを聴いた。ロストロポーヴィチがロンドン交響楽団を指揮した、ショスタコーヴィチの<交響曲第5番>である。前回トピックにしたチャイコフスキーはロストロ先生が指揮者としてのキャリアを始めた初期の録音だったが、今回のショスタコーヴィチは2004年7月7~8日に行われた演奏会のライヴ音源。指揮のレベルが桁違いに向上している。

第1、第3楽章で聴かれる静謐(せいひつ)な音にはただならぬ緊張感が漂い、聴く物の息をひそめさせる。当ブログ主は聴きながらふと、ムラヴィンスキーの初来日公演ライヴ(Altus盤)を思い出した。演奏の性格は両者だいぶ違ってはいるのだが、そこに記録された“張りつめた空気”みたいな物が何か共通点を感じさせるのだ。また、楽器間で音の引き渡しをする際の細やかなディミヌエンドなど、EMIのチャイコフスキー録音では殆ど見られなかった丁寧な表現も見られ、ロストロポーヴィチの指揮者としての成熟ぶりが随所に窺われた。

最後の第4楽章でパワー全開の大爆発を見せるところは、ワシントン・ナショナル響とのグラモフォン盤と同様。当ロンドン・ライヴでは(特に後半部分で)かなり遅いテンポが取られ、非常に重々しい表情付けが行われている。今では偽物確定となったヴォルコフの『証言』以来、この曲の解釈の一つとして一定の地位を確保している「強制された歓喜」みたいなものを意識したのだろうか。いずれにしても、この終楽章に込められた演奏家の熾烈な意志には本当に圧倒させられる。

CDの音としては、さすがに2000年代に入ってのDSD録音ということで、アナログ時代のようなヒス・ノイズがない。各楽器の音も細やかに、良く捉えられている。しかし一方で、(会場となったバービカンの音響も関係してのものなのか)、音があまり豊かに響き渡る感じがなく、ステレオ装置の再生音も前に伸びてこない。他のレーベルで言えば、エラートかDENONにあたりによく見られがちな傾向の音。なので第1、第3楽章のピアニッシモ、そのひそやかな響きをじっくり堪能しようとしてアンプのボリュームを大きくしておくと、最後の第4楽章で近所迷惑なほどの(笑)大音響が轟くことになる。まあ、良くも悪くも、ダイナミック・レンジの広い録音ということではあろうけれども、デッカなどの派手な音、前にガンガン出てくる鮮明な音を好む当ブログ主としては、ちょっと不満の感じられるCD音ではある。

―「忙中閑あり」での、今月の投稿。短い物ではあるが、今回は、これにて。
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