クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

ジョルジュ・プレートルのオペラ名盤

2017年01月31日 | 演奏(家)を語る
先日(2017年1月4日)、指揮者のジョルジュ・プレートルが亡くなったらしい。享年92との由。昨年は大御所ピエール・ブレーズが1月に他界したが、今年もまた、フランスの名匠がお正月早々に世を去ってしまった。寂しいものである。―ということで、今回はプレートル氏の業績を偲び、遺されたオペラ録音の中からいくつかを選んで並べてみることにしたい。

◎特選盤 【これを聴くなら、プレートルでしょ】レベル

1.ビゼー/歌劇<美しきパース(ペルト)の娘>全曲(EMI)

作品自体がいささかマニアックだが、演奏の良さにおいて同曲随一と言ってよい名盤。ヘンリー(=アンリ)役を演じて絶好調のアルフレード・クラウスをはじめ、キャサリン(=カトリーヌ)役のジューン・アンダースン、ラルフ役のホセ・ファン・ダム等、歌手陣が総じて上々の出来映え。プレートルの指揮も良い。NHK『みんなの歌』で日本語の替え歌【注1】が昔流れたヘンリーの『セレナード』や、<アルルの女>第2組曲で聴かれる有名な『メヌエット』の元ネタ【注2】など、よそで聞いた覚えのある曲に思いがけず出会える。ついでながら、このオペラの短い組曲版を聴きたいなら、ジャン・マルティノン指揮フランス国立管のグラモフォン盤がチャーミングの極み(←宇野節w )。

【注1】 曲名は、<小さな木の実>。父親を失った少年を励ます歌として、ビゼー・オペラの内容とは全く無関係の日本語歌詞がつけられたもの。サビの部分の歌詞は、「坊や~、強く生きるんだ~♪」。当ブログ主もこれを子供の頃TVで見たことがあって、何となく覚えていた。その後、クラシック音楽を深く聴きこむようになってから、A・クラウスのオペラ・アリア集で初めて原曲に触れることとなった。

【注2】 第3幕。キャサリンに変装したジプシー・クイーンのマブを、そうとは知らずに好色な伯爵が口説く場面。その背景の音楽。

2.G・シャルパンティエ/歌劇<ルイーズ>全曲(ソニー)

作品自体に濃厚な“どべぐしょーっ”サウンドの要素が内蔵されているため、プレートルの音楽性が十全に発揮されている。これもちょっとマニアックなオペラだが、プレートルの豊富なキャリアを代表する名演の一つ。主役の二人(コトルバシュ&ドミンゴ)も優秀。ちなみに今日(2017年1月31日)現在、YouTubeでその第3幕のみを聴くことが出来る模様。

3.サンサーンス/歌劇<サムソンとデリラ>全曲(EMI)

<サムソンとデリラ>には良い演奏が他にもあるが、プレートル盤は今なおこのオペラを代表する名盤。セールス・ポイントはデリラを歌うリタ・ゴールの名唱と、指揮者プレートルの濃い音楽作り。有名な『バッカナール』など、まさに胸のすくような豪演。

○優秀盤 【他にも名盤があるけれど、プレートルのも非常に良いですよ】レベル

1.マスネ/歌劇<ウェルテル>全曲(EMI)

オペラ指揮者としてのプレートルに、おそらく最もよく似合っていたと思われる作品の一つ。EMIのセッション録音ではニコライ・ゲッダがウェルテルを、ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスがシャルロットを、それぞれ演じている。両者ともに名唱。(※但し、当ブログ主の感覚としては、シャルロットの声はリリックなメゾ・ソプラノの方が好ましい。)この録音については、かつてジュール・バスタンを語った時に触れているので、今回は省略。

ライバル盤として並び称せられるミシェル・プラッソンのEMI録音でウェルテル役を演じているアルフレード・クラウスが、長きにわたって同役の第一人者という感じだった。となれば勢い、「プレートルの指揮、クラウスの主演によるライヴの記録」に興味を持つのがファンとしては当然の心理。で、今回の記事を書くに当たり、ネット上でそのあたりをちょっと調べてみた。CDで聴ける物と「ようつべ」で鑑賞できる物、どちらも取り混ぜての検索結果は、以下の通り。現在鑑賞可能な音源が、少なくとも4種類はある。―と言うことは、両者の実際の共演回数はおそらく相当な数になっていたものと考えられる。

●1976年のミラノ公演(A・クラウス&エレナ・オブラスツォワ)
●1978年のフィレンツェ公演(A・クラウス&ルチア・ヴァレンティーニ=テッラーニ)
●1980年のミラノ公演(A・クラウス&ナディーヌ・ドゥニーズ)
●1984年のパリ公演(A・クラウス&ルチア・ヴァレンティーニ=テッラーニ)

2.グノー/歌劇<ファウスト>全曲(EMI)

このオペラについては、ステレオ初期のクリュイタンス盤(EMI)が古くから代表的な名演と讃えられてきた。1970年代に入ってプレートルが録音した全曲盤は、そのクリュイタンス盤と“どっこい、どっこい”の勝負が出来る優れた内容を持っている。どこかエレガントな雰囲気を持つクリュイタンスに比べ、プレートルの指揮はもっとダイナミック。歌手陣の中ではマルガレーテを歌うミレッラ・フレーニが最高で、クリュイタンス盤のロス・アンヘレスを凌ぐ圧倒的な魅力と存在感を示している。メフィスト役のニコライ・ギャウロフも、声自体は全盛期を少し過ぎたものだが、なめらかな美声と歌い口がフランス・オペラの世界によく馴染んでいる。クリュイタンス盤のボリス・クリストフは強烈にアクの強いスラブ声で、またフランス語の発音にも癖があるため評価が分かれる。「メフィストなんて所詮、二流、三流のヘッポコ悪魔でしょ」とイメージされている方なら、クリストフの歌唱にも納得のいく点が感じられるかもしれない。プレートル盤の出演者の中で、当ブログ主の個人的な趣味にあまり合わないのが、ファウスト役のプラシド・ドミンゴ。歌唱自体は大変に優れたものなのだが、声がちょっと暑苦しい。この役は、クリュイタンス盤のニコライ・ゲッダの方がずっと好ましく感じられる。いずれにしても、数多く存在する歌劇<ファウスト>の名演・名盤の中でも、プレートル盤は最上位のグループに属する物と言ってよい。

3.ビゼー/歌劇<真珠採り>全曲(EMI)

当ブログ主の好みで言えば、クリュイタンスのモノラル盤(EMI)で聴かれるすっきりした音楽作りを上位に置きたいが、隈取りの濃いプレートルの演奏も悪くはない。録音も上々。ナディール役のアラン・ヴァンゾが声の盛りを過ぎているのが惜しまれるものの、レイラ役のイレアナ・コトルバシュは最高の出来映え。

★上に並べた物の他にも、新旧2種あるプーランクの<声>、マリア・カラスの主演によるビゼーの<カルメン>とプッチーニの<トスカ>、ゼッフィレッリの過剰なまでに丁寧な“説明的演出”が見られる2つのヴェリズモ・オペラ(レオンカヴァッロの<道化師>とマスカーニの<カヴァレリア・ルスティカーナ>)映像盤など、オペラ・ファンなら一度は接しておいて損のない音源が少なからずある。が、当ブログの記事としては、上記6作の列挙をもって区切りをつけることにしたい。

プレートル翁の天国での幸福を祈って、合掌・・・。

【2019年5月14日 追記】

●プレートルのEMI盤<ファウスト>全曲~兵士たちの合唱

グノーの<ファウスト>は主役3人の持ち歌やバレエ音楽、あるいはワルツ等、聴きどころの多い名作オペラだが、この合唱曲も秀逸。ここでは、いかにもプレートルらしいパワフルで華麗な演奏が聴かれる。



●プレートルのEMI盤<美しきパースの娘>全曲~ヘンリーのセレナード

上に書いていた日本語版替え歌<小さな木の実>の原曲。歌が始まるのは、〔2:14〕から。生前のアルフレード・クラウスが高崎保男氏のインタビューに答えて、「私自身が最も気に入っている、ベストの録音」と言っていたのが、このプレートル盤<美しきパースの娘>だった。



●プレートルのEMI盤<美しきパースの娘>全曲~ジプシー・クイーンのマブを、勘違いした伯爵が口説くシーン

思いっきり有名な<アルルの女>第2組曲の「メヌエット」は、これが元ネタ。初めて聴いたら誰もがきっと、あらあら、うふふ。

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ロストロポーヴィチの<シェロモ>~映像音源

2017年01月01日 | 演奏(家)を語る
新年あけましておめでとうございます。昨日の投稿後、ロストロポーヴィチの例のボックス・セットはまだ普通に売っているのかなと思って、いくつかの通販サイトを見てみた。そこで、(今頃知ったのかよと言われそうな)大発見をした。ロストロポーヴィチとバーンスタインが共演した<シェロモ>には何と、ライヴの映像音源があって、それが普通にDVD発売されているのだった。うひゃひゃ。w

で、今日(2017年1月1日)現在、動画サイトYouTubeでそれが視聴できることもわかった。検索窓にbloch scまで入力すると、下に候補が並んで、bloch schelomo rostropovichまで出てくる。で、それをクリックすると、下記のURLにたどり着き、件(くだん)の映像が堪能できるというわけである。当ブログ主は先ほどそれを視聴し、元日の朝から物凄い感動を味わったのだった。

1970年代の音源ということで映像は鮮明、音質もすこぶる優秀。ライヴのステージということもあり、演奏家たちがセッション録音の時以上に燃え上がっている。ロストロポーヴィチがチェロを引く姿(及び表情)、そしてバーンスタインの激烈な指揮ぶり。約20分あまり、殆ど息も出来ないぐらいに圧倒される。前回書いた「引いては返す波のようなクライマックス」という文言についてちょっと補足しておくと、上記の映像で言えば、タイム・カウンター7分過ぎから8分過ぎにかけてが最初のクライマックス、次いで13分から15分あたりのところで再び壮大に盛り上がり、「ああ、これで大きな山を越えたな」と思わせつつ、その後20分ぐらいのところでもう一発、凄い山場が来る。この展開のことを言っていたのである。これで全曲が静かに終わった後、胸がすっとするような快感が残るというわけなのだ。

興味の向きは是非、御一聴のほど。

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