クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

希望の年へ、マタチッチと小澤の<第9>

2012年12月31日 | エトセトラ
いろいろあった2012年も、今日で終了。良かった。何が良かったって、あの民主党政権がようやく終わったことが、である。こんなに安心した気持で新年を迎えられるのは、本当に久しぶりだ。

さて、クラシック音楽の話。ひょっとしたら今でもそうなのかもしれないが、昔は年末といえば、それこそあちこちでベートーヴェンの<第9>コンサートが行なわれていて、毎年12月頃になると、普段クラシックにあまり縁のない人たちも演奏会にいそいそ出かけたりしていたものだ。で、そうなると、私のようなクラヲタは逆に、「年末にベートーヴェンの<第9>だけは絶対、聴かないぞ」と、雷おこしよりも固い決意をもって年末に臨んだものである。そして、「1年間を締めくくる最後の1曲は、ニルセンの4番」なんてパターンが結構多かった。しかしそれも、今は昔。もう何年も前からその種のこだわりは消えて、気が向けば<第9>でもなんでも気軽に聴くようになっている。

去る23日(日)、お馴染みのFM番組『名演奏ライブラリー』で、マタチッチ&N響、他による<第9>の1973年ライヴが放送された。なかなか面白い演奏だった。当時のN響らしい“へらちょんぺ”な響きが随分と目立つものの、時々指揮者の意志がドンと伝わるのか、えらく重厚な音が出たりする。いかにもマタチッチらしいストレートさと豪快さが小気味よい。バス独唱の岡村喬生は歌い出しから全力投球で、声が一部かすれたりする。凄い気合。しかしそれよりも私を断然笑わせてくれたのは(←これは貶しているのではなく、褒め言葉)、テノール独唱の丹羽勝海である。こんなキャラの立ったテノール・ソロも珍しい。演奏前の出演者紹介時には気にも留めずにいたのだが、第4楽章を聴いているうちに「このテノール誰よ?めちゃ笑わせてくれるじゃん」と、演奏後の名前確認が待ち遠しくなってしまったほどである。丹羽氏の名前自体はかねてより存じ上げていたものの、このような歌唱に触れたのは今回が初めて。これだけでも、この日の放送を聴いた価値があった。

その後、小澤征爾が若い頃に録音していた<第9>のCD(フィリップス盤)がひょっこり中古で見つかったので、買ってみた。これはLPレコード発売時(1974年)に、レコード・アカデミー賞(日本人演奏部門)を受賞していたものだ。オーケストラはイギリスのニュー・フィルハーモニア管で、コーラスはアンブロジアン合唱団。普段は小澤のCDなんか全く聴く気にもならない私だが、中古でやたら値段が安かったのと、バス独唱を務めているカール・リッダーブッシュの声が久々に聴いてみたくなったのと、「レコード・アカデミー賞を取ったぐらいだから、何かそれなりに良いところがあるんだろう」という好奇心みたいなものが湧き上がったこと、このあたりが購入に至った理由である。

いかにも若い頃の小澤らしい、燃える演奏だ。で、このCDを聴きながら私がふと考えたのは、その燃える炎の色についてである。真っ赤に燃えるような<第9>ならミュンシュ、ボストン響のRCA盤(※必ずしも、お薦めの名盤とは言い切れない)が思い起こされるが、小澤盤の炎はオレンジ色をしている。これはニュー・フィルハーモニア管というオーケストラ自体が持つ響きの特徴と関係があるのかもしれないが、いずれにしてもこの演奏、ドイツ的な(あるいはゲルマン的な)ベートーヴェン像とは明らかに一線を画する、かなり個性的な快演と言うことができるだろう。第1楽章のクライマックス部分の音設計に違和感があったり、全体に“澱(よど)みがないかわりに、深みもない”音楽が流れていったりで、どなたにもお薦めの名盤という言い方はできないものの、独特の色彩と明快な譜読み、さらには合唱団の大熱演なども併せて、一聴に値するものに仕上がっていることは間違いない。

(※ところでこのCD、独唱者たちの声はややオフ・マイクで録音されている。そのため、期待していたリッダーブッシュの歌い出しが些か迫力不足に感じられて残念だった。そのうちベーム&ウィーン・フィルのグラモフォン旧録音盤を買うことになるかもしれない。当時のベームが作ったベートーヴェン交響曲全集は、なぜか私の場合、まだ全部を聴いてはおらず、少なくとも一度は耳にしたはずの<第9>についても、殆どその演奏内容についての記憶が残っていないのである。)

―ということで、来年(2013年)は日本復活のスタート。希望の年の幕開けである。読者諸氏に於かれましても、どうぞ良いお年をお迎えくださいますよう・・。
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