クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

歌劇<ダリボル>

2006年09月07日 | 作品を語る
前回までの話に続いて、今回もう一つ、スメタナの国民歌劇作品を扱ってみたい。作曲家にとって3作目の歌劇となる<ダリボル>(1867年)である。これは、作曲者自身が生前一番気に入っていたものと伝えられている歌劇だ。一般的にはあまり馴染みのある作品とは言い難いものだが、スメタナのオペラを語る上ではやはり無視することが出来ない。

このオペラについて私がかつて聴いた全曲CDは、ヨゼフ・クリップスの指揮によるウィーン国立歌劇場でのライヴ(1969年10月19日収録)盤である。これは一応国内盤ではあったのだが歌詞対訳はなく、トラック番号に準拠した短いあらすじ紹介文だけが付いているものだった。以下、上記のCDを聴きながら取ったメモをもとにして、その内容を順に見ていきたいと思う。

―歌劇<ダリボル>のあらすじ

〔 第1幕 〕 プラハの城の中庭。

騎士ダリボルが、国王のもとで今裁判にかけられるところ。プロスコヴィッチの城主を殺害し、城を破壊したという容疑である。殺された城主の妹ミラダがこの訴えを起こし、王に厳しい裁定を求めている。一方、ダリボルに拾われて育てられてきた娘イトカは、何とかして恩人である彼を救出したいと考えている。やがて、国王ヴラジスラフと裁判官が登場。そして、ダリボルも姿を現す。

ダリボルは容疑を認めた上で、揺るがぬ信念を語りだす。「私の親友であった音楽家のズデンコは、あの城主によって不当に捕らえられ、殺害された。私は裁判に訴えたが、城主には逆らえないといって誰も聞いてくれなかった。だから私は、自分自身で復讐を遂げたのだ」。裁判官は、ダリボルに終身刑を言い渡す。しかし彼は、「牢獄で精神の自由を押さえつけることなど出来ない」と、屈する様子を微塵も見せない。その態度に、民衆は深く感じ入る。そればかりか、兄の仇とダリボルを憎んでいたミラダまでが感動してしまう。

彼女はダリボルを許す気持ちになり、国王に寛大な処置を求める。しかし、裁判官の判決を勝手に覆すことは、さすがの王にも出来なかった。皆が去った後、中庭にミラダが一人残る。彼女はダリボルに対して、愛を感じ始めている。そこへイトカがやって来て、「愛とダリボルのために、闘いましょう」とミラダを説得する。

(※第1幕ではまず、控えめなファンファーレに続いて悲劇的な旋律が流れる前奏曲が良い。当ブログでかつて扱った例で言えば、マデトヤの歌劇<ポホヤの人々>にちょっと似た雰囲気を持っている。主役のダリボルは、ドラマティック・テノール。終身刑を言い渡された後になお、彼が強い信念を歌って人々を揺り動かす場面が、第1幕の聴きどころと言えそうだ。なお、そのダリボルの歌には、かなりワグナーの影響が窺われる。)

〔 第2幕 〕

プラハの下町の居酒屋で、若者たちが飲みながら盛り上がっている。イトカが、「ダリボルを救出しましょうよ」と恋人のヴィーテクを誘う。すると他の若者たちもそれに乗ってきて、力強い合唱へと発展する。

(※この居酒屋の場面は、いかにもチェコらしい舞曲のリズムで始まる。続くイトカとヴィーテクのデュエットは大した曲ではないが、2人の歌に他の若者たちが加わってくると再び盛り上がる。)

場面変って、城の中庭。ダリボル奪還計画の噂を耳にした司令官ブディヴォイが、牢番に注意を促している。牢番ベネスは、少し前から自分の手伝いに来ている若者を息子のように可愛がって信頼しているが、その若者とは男装したミラダであった。「孤独で、つらい牢番生活だ」と嘆くベネスを、ミラダは慰める。それからベネスは、「これを、ダリボルにやってくれ」と、自分の古いヴァイオリンをミラダに手渡す。

(※男装したヒロインが牢番の信頼を勝ち取るという設定はベートーヴェンの<フィデリオ>そのものだが、作曲者はそのあたりを意識していたのだろうか?それはともかく、牢番ベネスからヴァイオリンを預かってダリボルのもとへ向かうミラダが、「ダリボル救出のために、力を与えよ」と祈る歌にも、やはりワグナーの影響が見られる。)

再び、場面転換。牢獄の中で石につながれたダリボルが、亡き友ズデンコとのヴァイオリン演奏を夢に見ている。そこへ、牢番ベネスから預かったヴァイオリンを持ってミラダがやって来る。彼女はダリボルに正体を明かし、彼を訴えたことを許してほしいと頼む。さらに彼女は、「私はあなたを、ここから救出したいのです」と告げる。ダリボルはミラダを許し、新たな希望と自由へ導いてくれる彼女の愛を受け入れる。

(※この場面転換の音楽は、美しい曲である。チェロやハープ、各種木管、そしてヴァイオリンといった楽器が入れ替わり立ち代りソロイスティックに活用されて、とても印象的なものに仕上がっている。最後を締めくくるダリボルとミラダの「愛の二重唱」もやはりワグナーっぽいが、なかなか良い。オペラ全体を見渡しても、第2幕が一番聴きどころの多い箇所と言えそうだ。)

〔 第3幕 〕

司令官ブディヴォイが、ダリボルを巡る不穏な動きについて国王に警告する。やがて、「秩序を維持するためには、ダリボルを処刑するしかないだろう」という話が出て来る。国王ヴラジスラフは、「ダリボルの死刑については、慎重に考えた上で決定してほしい」と裁判官たちに依頼する。そして王は、「私は公正で温和な国王でありたいのに、理想はいつも現実によって破られる」と、嘆く思いを歌う。やがてダリボルの死刑判決が、裁判官たちによって出される。悩める王は、「ダリボルが反逆心を捨ててくれるなら、許そう。しかし尊大であり続けるなら、殺す」と語る。

(※この国王の歌は聴き物だ。自らが心に思い描く理想と、そうはさせてくれない現実とのギャップに苦しむ王の嘆きである。クリップス盤ではウィーン出身のバリトン歌手エバーハルト・ヴェヒターがこの役をやっていたが、熱のこもった見事な名唱であった。)

場面転換。夜。ミラダとイトカ、そして武装した民衆が城に向かってくる。いよいよダリボルが処刑されようとしているところへ、人々が突入。助け出されたダリボルは、そこで瀕死の重傷を負ったミラダを城から運び出す。しかし、彼女は間もなく、ダリボルの腕の中で息を引き取る。侵入者たちを殺し捕らえたブディヴォイが、ダリボルの捕獲を命じる。ダリボルは、「自由の扉を開け!私は別の世界へ行く」と叫び、兵士たちの剣の中へ飛び込んでいく。(終)

(※ミラダが息を引き取る場面には、さすがにしんみりさせる音楽がついている。ただ、その後ダリボルが兵士たちに向かっていく幕切れには、もう少し豊かな響きがほしいなあと思った。)

―スメタナの作品については以上で終了だが、これをきっかけにして、しばらく国民歌劇路線でのお話を進めてみようかと思っている。ただし次回は、特別記事。まさに今日(9月7日)、HMVさんのネット通販サイトで、アストリッド・ヴァルナイの訃報に触れたのだった。去る4日にミュンヘンの病院で亡くなられたらしい。享年88との由。という訳で次回は、大歌手ヴァルナイのお話である。
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