クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

2011年6月・近況、E・フィッシャー

2011年06月30日 | エトセトラ
2011年6月30日。今月のFM番組『名演奏ライブラリー』で私が聴いたのは、5日のヘルマン・プライ、12日のエドウィン・フィッシャー、そして26日のアタウルフォ・アルヘンタ。

スペインの名指揮者アルヘンタについては、当ブログが開始された割と初期に、独立したトピックで語ったことがある。私にはどれも先刻承知の演奏ばかりだったが、グラナドスの<ゴイェスカス>間奏曲のみ、その日の放送で初めて聴くことができた。これは非常に良い演奏だった。中間部でのバス・ドラムの強調、木管のねちょっとした(笑)響き。実に良い!この名演が収められたCDは現在普通に入手可能だが、他の収録曲がスペイン系のマニアックな作品ばかりなので、あまり一般向けとは言えないのがつらいところである(なんて言っている私自身も、そのCDは未入手w )。あと、私の記憶違いでなければ、夭折の天才指揮者は歌劇<ゴイェスカス>の全曲をどこかで録音していたと思う。何年も前に海外通販でそれらしい物を見かけたものの、通常の販売ルートでは入手困難だとわかり、諦めたのだった。そう言えば、ファリャの<ペドロ親方の人形芝居>全曲もあったような・・・。アルヘンタのオペラ録音、いつか聴いてみたいものである。

名バリトン歌手ヘルマン・プライの(特にオペラ分野での)業績を語ろうとしたら、それこそ何回かに分けてシリーズ化するぐらいの規模になる。いつかまた、何かそういう企画を立てて記事が書けるような時が来るのかもしれないが、とりあえず今は無理。

さて、ピアニストのエドィン・フィッシャー。実のところ、このスイス人ピアニストは私にはずっと縁のない人だった。活躍した時代が古いからではなく、遺された演奏レパートリーの中心がバッハであったため、こちらがまるで興味を持てなかったのだ。随分前にも書いたことだが、私はとにかくバッハが苦手なのである。聴くのが苦痛で仕方がない。(だから12日の放送でも、前半に流れたバッハは当然スルーさせてもらった。)そういう訳で、このピアニストの録音で私が以前聴いたのは、W・フルトヴェングラーとの共演によるベートーヴェンの<皇帝>ただ1つ、ということになる。で、その<皇帝>がそれほど面白くもない演奏で、「まあ、フルトヴェングラーが指揮しているという点では資料的価値があるんだろうけど、演奏全体としては特に凄い名演とも思わないなあ」というのが私の正直な感想であった。だから、エドウィン・フィッシャーは私にとって、実はどうでもいいピアニストだったのである。しかし、先日の放送で最後に紹介されたブラームスの<ピアノ協奏曲第2番>には結構楽しませてもらった。指揮はやはりフルトヴェングラーで、ベルリン・フィルの演奏会を録音した戦時中の記録となるようだ。思ったよりも、テンポが速い。推進力がある。ピアノ独奏も(ライヴゆえのミスタッチとか、細かい瑕疵はともかくとして)非常に力感のある雄渾な演奏を展開している。フィッシャー先生、ちょっと見直した。w (※ちなみに、この演奏を昔から高く評価していたのは、故黒田恭一氏と小林利之氏。1987年に発売された『新編 名曲名盤500』によると、小林氏曰く、「E・フィッシャーのライヴ盤は、フルトヴェングラーともどもブラームスの最もラプソディックで幻想的な演奏」との由。)

でもやはり、あれだな。ブラームスの<ピアノ協奏曲第2番>について、「古いモノラルでもいいから、ライヴならではの名演で感動に浸りたい」とおっしゃる向きには、このフィッシャー&フルトヴェングラー盤よりも、バックハウスとベーム、ウィーン・フィルの共演によるザルツブルク音楽祭でのライヴ(1968年8月18日録音)の方を私はお薦めしたいなあと思う。このコンビの同曲演奏としてはデッカの1967年盤が大変に有名だけれども、現在オルフェオ・レーベルから出ているライヴ盤の方も非常に素晴らしい内容を持っている。大ピアニスト晩年のステージということで、さすがに若い頃のようにバリバリ弾きまくるというわけにはいかず、第1楽章ではある種のたどたどしささえ感じさせる面もあるのだが、さすがに生演奏らしく、曲が進むごとに音楽がどんどん熱を帯び、熟していく。極めつけは第3楽章で、ここにはちょっと他では聴けないような、言葉にならないぐらいの味わいと感動がある。「心から心に直接伝わる音楽」とでもいうのだろうか。これほど胸に沁み入る名演は、そうそう体験できるものではない。デッカ盤よりもピアノに焦点の当たった録音になっているので、一層その特長がはっきりと出てくることになる。(場所によっては、オーケストラの迫力が十分に伝わってこないもどかしさが感じられる部分も一方にはあるのだが。)

CDとしての音質も悪くない。オルフェオのザルツブルク・ライヴ復刻シリーズはそのひど過ぎる音によって聴き手をげんなり、あるいはがっかりさせることが多いのだが、ジョージ・セルの1969年ベートーヴェン・コンサートと同様、このCDの音質は上出来な部類に属するものと言ってよいと思う。併録されたモーツァルトの<ピアノ協奏曲第27番 K.595>(1960年8月2日録音)も名演。ファンを自認する人なら、デッカ盤と両方揃えて持っておきたいところである。

―今回は、これにて・・・。
コメント (2)
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