クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

ブログ13周年、リヒテルのラフマニノフとチャイコフスキー

2017年10月31日 | 演奏(家)を語る
2017年10月31日。今日は当ブログの誕生日。これで、満13歳となった。早いものだ。更新ペースは極めてゆっくりしたものになっているが、これからもできるだけ長く続けていきたいと思う。

さて、今月は最高にご機嫌なCDを購入した。スヴャトスラフ・リヒテルのピアノによるラフマニノフの<ピアノ協奏曲第2番>とチャイコフスキーの<ピアノ協奏曲第1番>、他を収めた1枚である。ラフマニノフはクルト・ザンデルリンク指揮レニングラード・アカデミック・フィルハーモニー交響楽団との共演で、1959年2月18日の録音。そしてチャイコフスキーは、同じオーケストラをエフゲニ・ムラヴィンスキーが指揮した1958年7月24日の録音である。(※これら両大曲の間に、ラフマニノフの<前奏曲集>op32~第9、10、12番も収録されている。こちらは1960年12月26日に、ニューヨークのカーネギー・ホールで行われた演奏。)

リヒテルのラフマニノフと言えば、ヴィトルド・ロヴィツキの伴奏指揮によるグラモフォンの初期ステレオ盤が夙(つと)に有名だが、全曲を聴き終わった後に残る感銘(あるいは、衝撃度)は当ザンデルリンク盤の方が遙かに上。第1楽章出だしの重々しいムード、演奏時間7分過ぎぐらいから始まるピアノ・ソロによる豪快なクライマックス、あるいは第2楽章で聴かれる叙情味といったあたりは、グラモフォン盤でもそれなりに堪能できる。しかし最後の第3楽章になると、ザンデルリンク盤でのリヒテルはちょっと信じられないような演奏を展開してくる。その音は極めて重厚で剛毅なソノリティを持つ物でありながら、一つ一つの音符を鮮やかに鳴らしきっていく指捌きは(あの才媛アルゲリッチさながらに)どこまでも滑らかで軽やか。もう、人間業とは思えない。聴いていて腰が抜けそうになる。

ザンデルリンクの指揮も、アグレッシヴ。第1楽章最初のテーマをまるで軍隊行進か何かのようにドッシン、ドッシンと刻むあたりから早くもユニークな世界を構築し始めるが、第2楽章(の、特に後半)ではピアノともどもしっぽりと秋雨に濡れ、終楽章では鬼神と化したかのようなピアニストの独奏をパワフルに支える。これは大変な豪演である。聴く人によってはいささか荒っぽい演奏に感じられてしまうかもしれないが、グラモフォン盤のロヴィツキが平凡な伴奏に終始していると不満に思っていた当ブログ主には、こういう演奏こそがまさに待望されたものであった。

ムラヴィンスキーと共演したチャイコフスキーも圧巻で、カラヤンと録音したグラモフォン盤の演奏よりもずっと出来が良い。原因がカラヤンの高圧的なフォーマットにあったのか、それとも何か他に理由があったのかは定かでないが、グラモフォン盤でのリヒテルは今ひとつノリが悪く、控えめに言っても、「ちょっとピアノが渋すぎるんじゃないの」という印象を強く与えるものだった。それがこのムラヴィンスキーとの共演盤では、大ピアニストの本領発揮。豪快無比なフォルティッシモから、メランコリックな内面をしっとりと紡ぎ出すピアニッシモまで、聴く者の期待を存分に満たしてくれる。同曲におけるアルゲリッチの名演を堪能しつつも、「もっとロシア的というか、ごつい響きのピアノを聴きたいなあ」と感じておられる方に、当リヒテル盤はかなりピッタリくるのではないだろうか。

今回買ったMINUET RECORDS盤(428421)は2016年プレスという比較的新しいCDで、24ビット・リマスターが施されている。そのおかげかどうか、音が意想外に良い。1950年代末という古い記録ではあるのだが、これぐらいの音で聴けるなら、よほどオーディオ的に厳しい注文をつけたがる人以外は普通に楽しめるのではないかと思う。(※そう言えば、リヒテルとムラヴィンスキーの共演によるチャイコフスキーはかつて国内盤が一つ出ていた。それが今回のCDと同一音源なのかどうかはもう確認できないが、あれは酷いCDだった。やたらこもったような貧弱な音で、一回聴いただけでイヤになり、即中古売却してしまった。あれも帯かジャケットに「24ビット」と書いてあったような気がするが、はっきり言って、ハイ・ビット化の効果は殆ど感じられなかった。)

まあ、とにもかくにも、このCDで聴かれる演奏の凄さ。世評の高いグラモフォン盤に今ひとつ満たされない思いを抱き続けてきた当ブログ主にとって、これはまさに“干天(かんてん)の慈雨”とも言えるような逸品との出会いであった。

―今回は、これにて。
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