クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

FMで聴いたオーマンディ&フィラデルフィア管の演奏

2009年12月19日 | 演奏(家)を語る
前回は、NHK-FM番組『20世紀の名演奏』で12月6日に放送されたヤーノシュ・シュタルケルの特集を基にして、一つの記事を書いた。そのつながりで今回は、同番組で翌週の日曜日(12月13日)にやっていた「ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の名演」を聴いた時の感想みたいなものを、ちょっと書いてみようかと思う。

この名コンビの演奏録音について私が持っている大まかなイメージを先に整理しておくと、大体次のような感じになる。「壮年期のオーマンディがCBSソニーに行なった演奏録音には、基本的に熱気や覇気の感じられるものが多い。ただし出来栄えに関しては、曲ごとの当たり外れの差が大きい。後年RCAやEMIに録音されたものには円熟味や貫禄が備わっていて、大きな外れはない。ただし曲によっては、“緩い演奏”というマイナス印象の方が強く残ってしまう例も少なからず見受けられる」。今回の放送で取り上げられたいくつかの演奏は、そのようなイメージを改めて確認させてくれたような気がする。

まず1曲目は、ジャック・イベールの交響組曲<寄港地>(番組司会者の前口上を聞き逃したが、おそらく1970年頃のRCA録音)。ゆったりしたテンポ、豊かに鳴り響くオーケストラ。いかにもこのコンビらしい、ゴージャス風味の演奏だ。と同時にこれは、いささか緩んだ演奏という印象も与えずにはおかない。例えば第1曲『ローマ~パレルモ』のクライマックス部分など、はっきり言って緊張感が足りない。(※この曲については初演者のポール・パレーをはじめ、モントゥーやミュンシュらも、基本的に速めのテンポによるスリリングな演奏を録音に遺している。総合点ではやはり、パレー盤が一番かと思う。1970年代のマルティノン盤はややゆっくり目だが、数ヶ月前に20ビット盤CDで聴きなおしたら、演奏・録音とも何だかピンボケたようなものに感じられてしまった。)

この日の4曲目に流れたレスピーギの交響詩<ローマの噴水>(1974年・RCA録音)についても、大体上と同じような事が言えるように思う。昔、私はこの演奏のCDを持っていた。いわゆる「ローマ三部作」をまとめた1枚である。トスカニーニが遺した極めつけの名盤がモノラル録音なので、ステレオ録音の名演を求めていろいろ渉猟して歩いた中に、オーマンディのRCA盤も含まれていたというわけである。しかしこれ、あの宇野功芳氏が絶賛しているほどに良いものだとは、私には思えなかった。確かに豪勢なオーケストラ・サウンドは楽しめるのだが、三部作全体にわたって何だか締まりが悪いように感じられたのだ。で、ほどなく売却。結局そのCDで私が気に入ったのは、<ローマの祭り>の第1曲『チルチェンサス』だけだった。ああいう金管の迫力は、他ではなかなか聞けないから。

順番が前後するが、2曲目と3曲目に放送されたのはアレンジ物だった。M・サージェントの編曲によるボロディンの<ノクターン>(1957年録音)と、フロスト編曲によるチャイコフスキーの<アンダンテ・カンタービレ>(1966年録音)である。後者は昔、LPで持っていた。前者<ノクターン>は今回初めて耳にしたが、とても良いと思った。フィラデルフィア管が誇る弦楽セクションの豊かにして程よく引き締まった響き、そしてオーマンディのタクトが生み出す妥当性の高い自然なフレージング、それらが最良の形で実を結んだ名演になっている。両曲ともいわゆる“コクのある演奏”ではないのだが、オーケストラの美しいサウンドを気楽に楽しめるソースとして、これからも一定の需要は見込まれるものと思う。

5曲目に紹介されたのは、M・ロストロポーヴィチの独奏によるショスタコーヴィチの<チェロ協奏曲第1番>(1959年・ステレオ録音)。同じメンバーによるアメリカ初演の直後に録音されたものらしい。今回これを聴いた感想を手短に言えば、「とても丁寧で、落ち着いた作りの演奏だな」というところである。ロストロポーヴィチのチェロはいつもながら雄弁で闊達。オーマンディが指揮するオーケストラ伴奏も、上手に合わせている。ただ、この演奏だけを聴いている分には特に不満のない標準的名演に感じられるのだが、タコ先生の<チェロ協奏曲>にはもっと凄いライヴ盤が他に存在するのである。で、そちらを知ってしまうと、当オーマンディ盤はどうにも生ぬるくて影の薄いものとなってしまうのだ。

熱心なファンの方は既にご存知のことと思われるが、この曲にはロストロポーヴィチのチェロ独奏、エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団の演奏によるモスクワ音楽院でのコンサート録音(Russian Disc盤)というのがあって、これがもう凄いのである。初演から7年ほどを経て曲を完全に薬籠中のものとした名チェリストが、作曲者も客席に居たという生演奏の場で入魂の名演を展開する。全編に渡ってオーマンディ盤とは比較にならないほどの抉り込みを見せるチェロ独奏はひたすら圧巻の一語だが、スヴェトラーノフの指揮もまた大変な迫力。特に爆弾が炸裂したかのようなティンパニーの鋭い打ち込みは強烈至極で、聴き手の度肝を抜く。1966年9月29日に行なわれた演奏会のステレオ録音ということで、音質的にも問題なし。参考までに、併録曲は同じ作曲家による<チェロ協奏曲第2番>。1967年9月25日のステレオ・ライヴ。で、この第2番がまた圧倒的な豪演。ショスタコーヴィチの<チェロ協奏曲>を聴くなら、Russian Disc盤が迷う余地なきファースト・チョイスと言ってしまってよいと思う。

さて、当日の放送で最後に取り上げられたのは、ムソルグスキー(ラヴェル編曲)の組曲<展覧会の絵>(1966年録音)であった。この作品については、以前同じコンビによるRCA盤(1973年録音)の方を買って随分がっかりしたものだった。「何だ、この程度の演奏か。面白くも何ともないわ」という感じであった。で、すぐに売却。しかし、今回初めて聴くことのできたソニー盤の演奏は、結構良かった。指揮に活気がある。全体に速めのテンポで、熱気を伴った豊麗なサウンドが鳴り響き、聴き手をぐいぐい惹きつける。冒頭『プロムナード』のやたらな輝かしさからいきなりニンマリさせられるが、その後も全曲通して飽きることなく付き合っていける。特に、『ブイドロ』が面白い。通常はゆっくり、どっしりと演奏される曲が、ここでは異例とも言えるような速さでぐんぐんと盛り上がるのだ。(これを聴きながらふと、私はトスカニーニによるモノラル期の名演、あの壮烈無比な『ブイドロ』を思い出した。それよりはさすがに落ちるものの、壮年期のオーマンディによる快速名演もまた、十分に魅力的。)オーマンディが同じ作品を複数回録音している場合、普通はCBSソニーの旧録音よりも、もっと円熟したRCAやEMIなどへの再録音の方が好ましく思われるものが多い。しかし、こと管弦楽版<展覧会の絵>に関して言えば、ソニーの旧録音の方が逆に良いように感じられた。

―というところで、今回はこれにて・・・。
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FMで聴いたシュタルケルのチェロ演奏

2009年12月09日 | 演奏(家)を語る
前回、ヤーノシュ・シュタルケルが弾いたコダーイの<無伴奏チェロ・ソナタ>をちょっと話題にしたが、何の偶然か、ついこの間の日曜日(12月6日)、そのシュタルケルの特集があった。NHKのFM番組『20世紀の名演奏』である。ということで今回は、それを聴きながらいろいろ思ったことを、気ままに書き綴ってみることにしたい。

最初に紹介されたのは、ボッケリーニの<チェロ協奏曲>だった。若き日のジュリーニが指揮するフィルハーモニア管弦楽団との共演で、1958年のステレオ録音。この曲については、私は昔ピエール・フルニエのLP(※ルドルフ・バウムガルトナーが伴奏指揮を務めたグラモフォン盤)を持っていた。当時の組み合わせはハイドンの<チェロ協奏曲>だったが、フランスの名手が奏でる美音に、学生時代の私はしばし聴き惚れたものである。今回初めて耳にしたシュタルケルの演奏は、正直なところ、あまり私の趣味には合わなかった。チェロの音が、苦いのだ。こういう音でボッケリーニを聴きたくないなあ、という感じである。

2曲目は極めつけ、コダーイの<無伴奏チェロ・ソナタ>。ちょうど前回話題にした1950年の録音で、作曲家ベラ・バルトークの息子であるピーター・バルトーク氏がプロデュースした有名な音源。番組では第3楽章のみの紹介だったが、やはりこの曲こそシュタルケルの看板みたいなものなんだよなと、改めて思った。

続いて、マックス・ブルッフの<コル・ニドライ>。ドラティ&ロンドン響との共演によるもので、1962年のステレオ録音。私はこの音源を昔、LPで持っていた。同じコンビによるドヴォルザークの<チェロ協奏曲>と組み合わされていたものだ。あれはフォンタナ・レコードという国内廉価レーベルで、ジャケットの表紙にだらだらと長い能書きが書かれていて、いかにもチープなにおいが漂う素敵な(笑)シリーズだった。(※1970年代後半~80年代前半のお話)。シュタルケルとドラティによるレコードはやがて中古売却することになったが、その中の<コル・ニドライ>を今回久しぶりに聴き直せることとなったわけである。う~ん、懐かしい。

ブルッフの<コル・ニドライ>は沈痛な思いを湛えた前半部と、愁眉を開くような救いの旋律が聞かれる後半部に分けられるが、シュタルケルの直截で苦味のあるチェロ演奏はやはり、前半部で非常に良い味を出しているように思った。逆に言えば、後半部がちょっと渋すぎて物足りない。この曲も後にピエール・フルニエの独奏によるLP(G)に私は乗り換えたのだが、今回その理由が自分の中ではっきりしたような気がする。フルニエの方が全体に美しく、特に後半部でシュタルケルにはない“明るい救い”が感じられたことが良かったのだと思う。(※勿論、他のチェリストによる演奏録音にも、これに劣らず良いものがきっとあるに違いない。)

参考までに、曲のタイトルについて片言隻句。「神の日」を意味するこの曲の題名は、『コル・ニドレ』と表記する方がヘブライ語の発音に近いようだ。昔何かのラジオ番組で、イスラエルのおじさんが、「ん~、こ~る・にどれ~♪」なんて口ずさんでいるのを耳にしたことがある。ブルッフの作品名として人口に膾炙した<コル・ニドライ>というのは多分、ドイツ語流の読み方になおしたものだと思う。

4曲目は、ブラームスの<チェロ・ソナタ 第2番>。ジュリアス・カッチェンのピアノ伴奏による1968年の録音だが、室内楽・器楽曲にとんと疎い私には、この演奏の出来を語る力は全くなし。ゆえに、パス。w 一つだけ身の程をわきまえずにコメントするなら、「ピアノがちょっと、うるさ過ぎるんじゃないかな」といったところ。

最後は、ドヴォルザークの<チェロ協奏曲>(※勿論、有名なロ短調の方)。シュタルケルはこの名作を得意として、合計3回録音しているらしい。LP時代には、ドラティ&ロンドン響との1962年盤がよく知られたものだった。上記<コル・ニドライ>と組み合わせた1枚で、私も持っていた。今回の放送で流れたのは、ワルター・ジュスキント指揮フィルハーモニア管弦楽団との共演による、1956年の第1回録音である。56年と言っても、これが見事なステレオ録音で、音質的には全く不満なし。(※但しFM放送については、私はいつもミニ・コンポで聞いているので、同じ演奏のCDをフル・コンポで聴いたらどんな風に印象が変わるかまでは分からない。)番組司会者の諸石幸生氏によると、シュタルケル自身は、「ジュスキントと共演した最初の録音が、ベスト」と考えているとのこと。

聴いてみて、確かにそうかもなと思った。ドラティ盤がもう手元に無いので細かい比較は出来ないが、チェロ独奏は演奏家本人が自覚しているとおりのベストだろうし、ジュスキントの指揮ぶりがまた非常に良い。オーケストラがよく鳴る。スケール感もあるし、響きも魅力的だ。考えてみれば、この当時のフィルハーモニア管はまさに黄金期で、その巧さ、その豊かな音楽性など、特筆に価するものがあった。1990年代に入ってからレナード・スラットキンの指揮で入れた3回目の<ドヴォコン>がどんな演奏になっているのか、私は未聴のため分からないが、今回の放送を聴いた限りで言えば、「シュタルケルの<ドヴォコン>なら、ジュスキントとの1956年盤がおそらく一番」という結論になりそうである。

―という訳で(←何が?)、今回の締めくくりは、<ドヴォコン>関連の付け足し話。先月の末に、ちょっと面白いCDを聴くことができた。若い頃のロストロポーヴィチがモスクワ音楽院大ホールで行なった1963年10月5日のライヴ録音盤(Russisn Disc)である。ボリス・ハイキンの指揮によるロシア国立交響楽団との演奏だ。ロストロポーヴィチの<ドヴォコン>録音はこういったライヴも含めると相当数あるようで、どれがベストなのかは俄かに判じ難い。が、とりあえず今言える感想は、「ハイキンとのモスクワ・ライヴは、ロストロせんせーの3種のセッション録音(※カラヤン盤、ジュリーニ盤、小澤盤)よりは、間違いなく楽しめた」ということである。

当時のソヴィエトにしては生意気にも(笑)、立派なステレオ録音。音がかなり良い。そして勿論、演奏も。特徴を今風に言えば、“ノリノリ爆演系”。テンポが基本的に速めで、音楽が非常にスリリング。退屈している暇がないのである。若き名チェリスト渾身のソロもさることながら、ハイキンの指揮がまた思いがけず激しくて、随所で笑わせてもらえる。こういう演奏と比べてしまうと、さしものシュタルケルも影が薄くなってしまう。ドヴォルザークのロ短調<チェロ協奏曲>には数多くの名盤が存在するが、チェリストの凄さに関して言えば、やはりデュ・プレとロストロポーヴィチの二人が東西の横綱という感じになるのだろうか。何とも、月並みな結論ではあるが・・・。
コメント (2)
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