クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

FMで聴いたルネ・レイボヴィッツの演奏

2015年12月31日 | 演奏(家)を語る
去る12月20日(日)、おなじみのFM番組『名演奏ライブラリー』でルネ・レイボヴィッツの指揮による演奏をいくつか聴いた。実はこの指揮者、当ブログ主は名前ばかり知っていて、何とこれまで1度もその演奏を聴いたことがなかったのだった。―ということで、これは今年(2015年)1年間のうちで最も大きな収穫の1つと相成った。

まず、ドビュッシーの2作品。管弦楽版<小舟で>と、有名な<牧神の午後への前奏曲>。どちらもゆったりと落ち着いた構えの好演で、それぞれの曲の雰囲気が良く出ている。洋泉社ムック『名指揮者120人のコレを聴け!』の119ページで某評論家先生が、「この人、本当に指揮者なの?」みたいな、あまり芳(かんば)しい意味には取れない言葉を書いていたけれども、実際に聴いてみると、「そんな風に言うほど、悪くないだろ」という感想が持てた。この2作品だけを聴いた段階での第一印象は、「この人、マニュエル・ロザンタールみたいなタイプだったのかな」。しかし、実際はそんな単純なものではないことが次第にわかってくる。

3つ目に流れたリストの<メフィスト・ワルツ>も良かった。次々と現れる多彩な曲想に合わせ、適格なテンポ設定と表情付けを行なっていて、非常に説得力がある。続くラヴェルの<ラ・ヴァルス>も、なかなか。低弦部の強調がユニーク。全体に、各楽器の動きが良く見えてくる心地よい演奏である。クリュイタンスなどが聴かせた柔らかい音に比べて、全体にエッジの効いたサウンドになっているところが、この指揮者の個性の1つになるのだろうか。そして、ラストに向けてのパワフルな盛り上がり。これは限りなく“爆演”に近いモード。

5つ目の作品は、イベールの交響組曲<寄港地>。最初の「ローマ~パレルモ」の前奏部を聴いて、「おっ、これはゆったり系の名演になるのかな」と思いきや、主部に入ると突然スピード・アップ。あら、びっくり!前面に押し出される木管が、非常に巧い。これは好印象。締めくくりにまた冒頭部のテーマが戻ってくると、再びゆったりしたテンポ。トロピカルなムードを濃密に表現する。う~ん、なるほど、そういう設計か。続く「チュニス~ネフタ」も上記<ラ・ヴァルス>同様、低弦部がかなり強調されている。そして打楽器が刻むリズム、これまたすこぶる鮮明。ここで当ブログ主、「あれっ」と思った。「以前から薄々感じてはいたんだけれども、この曲のリズムって、伊福部先生が昔映画音楽に使っていたやつに結構似ているよな」と。具体的な映画の題名を言うと、『緯度0大作戦』(1969年・東宝)。これ、映画自体はしょうもない駄作。「主演したアメリカの有名俳優に払った高額なギャラにより、予算がひどく圧迫されたためではないか」という憶測が当時からなされていたようなのだが、作品のトホホさ加減はさておき、伊福部先生の手による主題曲では熱帯ムードが濃厚に漂う魅力的な名旋律を聴くことができる。そこで一貫して流れる“ドン、タタタタン、ドンタン、ドンタンタンタンドンタン、ドン、タタタタン・・・”というリズム。イベールの曲とよく似ている。今回レイボヴィッツの演奏を聴いて、その事を改めて感じた。そして、終曲「バレンシア」。これはおそらく、最も標準的な名演と言えそうな物。ここでもまた各楽器の呼び交わしがよくわかる。このあたりの譜読みは、作曲家でもあったレイボヴッツ氏の面目躍如というところだろうか。いつものように(?)バスドラムをしっかり強調しつつ、エンディングに向けてぐんぐんスピード・アップ、そしてパワー・アップ。実に聴き応えのある演奏に仕上がっている。

―で、この日の放送で最後に流れたのは、ベートーヴェンの<交響曲第9番>。やはりというか、当然ながらというか、これが一番の聴き物となった。まず、第1楽章。あのミュンシュ、ボストン響を想起させるようなスピード感に満ちた演奏が始まる。コーダ直前さえもすっきりした快速インテンポで流すため、そこに神秘感みたいなものが漂うことはないけれども、全体にスリリングな高揚感を持つ快演となっている。第2楽章では、ホルンに付けられた濃密な表情が面白い。ここでもテンポは相変わらずびゅんびゅんと速く、特に木管パートの人たちは大変だったろうなあと、ちょっと同情してしまう。ただ、<第9>全体の中では、第2楽章は最も快速テンポが似合う楽章とも言えそうなので、聴く方としては十分に楽しめる展開ではある。続く第3楽章も速いが、やはりレイボヴィッツらしいというか、ここでも各楽器の動きや連携がわかりやすく浮かび上がっていて、思いがけない発見に出会ったりする。前回語ったケンペの演奏みたいな退屈さは、ここにはない。

そして最後、第4楽章。冒頭部分(の特にチェロ)がとんでもないほど超スピードなのは、「ベートーヴェン自身が書き遺したメトロノームのテンポ設定を忠実に守った結果」と言えるもので、当レイボヴィッツ氏のほかに、あのドンパチキューピー指揮者(笑)ヘルマン・シェルヘンもやっている。当ブログ主はそのシェルヘン盤を随分前に聴いていたので、特に今回驚きはしなかった。むしろ、「同じ超スピードの出だしでも、あのシェルヘン盤よりはずっとまともな感じに聞こえるわ」と思った。声楽パートについて言えば、ソプラノ独唱がインゲ・ボルクというところに実は内心期待していた。が、果たせるかな、ここでのボルクは意外なほど実直に歌っている。「やっぱりね、ソプラノがボルク姐さんだったら、アルトは絶対ジーン・マデイラを呼ばなきゃ駄目でしょ。この2人で男2人の歌手なんか無視して、“エレクトラ対クリテムネストラ”の死闘を繰り広げてくれなきゃ。そしたら、思いっきり笑えるのに」と、しょうもない不満を抱きつつ、でも何だかんだ言って、結構な名演を楽しませてもらった。全曲の終了間際、4人の独唱者によるアンサンブルのところでは指揮者の腕前なのか、4人それぞれの声と歌唱が全くごちゃつくことなく分離良く聞こえて、非常に心地良かった。そして、コーダ。うちのミニコンポの音の癖なのか、いつになくピッコロ等の高音パートが強く聞こえ、合唱団の熱演ともども圧倒的な締めくくりを堪能させてもらった。こうなるともう<第9番>だけでなく、レイボヴィッツのベートーヴェンについては全9曲をいつか揃えて聴いてみたいと強く思った。

―今回は、これにて。読者諸氏に於かれましては、良きお年をお迎えくださいますよう。
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