クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

レーヴェの<エドワルド>~4人のバリトン歌手聴き比べ

2019年05月20日 | 演奏(家)を語る
先月<ピアノ協奏曲>の動画貼りをした作曲家グリーグのファースト・ネームにちなんで、今回はカール・レーヴェの名作<エドワルド>の聴き比べ。これはスコットランドの古い伝承に基づいて書かれた、作曲家レーヴェの記念すべき第1作となるもので、おおよそ下記のような内容を持つ傑作歌曲である。母親と息子の緊迫したやり取りが劇的に綴られ、最後に衝撃の事実が暴露されて終わる。

以下、母親のセリフは「」、息子エドワルドのセリフは『』で表記。なお、それぞれのセリフの中に繰り返し出てくる呼びかけ“Edward,Edward(エドワルド、エドワルド)”と“Mutter,Mutter(母さん、母さん)”、及びいつも最後に付いてくる間投詞“O(おおっ)!”は、読みやすさを優先するために省略。

【 歌詞大意 】

「お前の剣はどうして、血がしたたっているの?それに、何をそんなに悲しんでいるの」『僕の鷹を殺してしまったんだよ。それが悲しいんだ』「鷹の血は、そんなに赤くないよ。正直に言ってごらん」『僕の赤毛の馬を殺してしまったんだ。誇り高く、忠実だったのに』「あの馬はもう年を取っていたから、必要なかったんだ。お前は、別の悲しみに沈んでいる」

『僕は、父さんを殺したんだ!それが、心をとがめるんだ』

「これから、どうするつもりだい?愛しい息子よ、言っておくれ」『この地上に、安らげる場所はない。海の向こうに行く』「それでは、この家はどうなるの?こんな立派な家なのに」『放っておいて、崩れるままにしておけばいい。僕がこの家を見ることは、二度とない』「奥さんと子供は、どうするの?お前が海の向こうに行ってしまったら」『世の中は広い。物乞いでもすればいい。僕が家族と会うことは、二度とない』「それで、母さんは、母さんはどうすればいいの?愛しい息子よ、教えておくれ」。

『地獄の呪いを下してあげるよ、母さん!だって母さんが、こうするようにって勧めたんだからね』。

―ここから、YouTube動画による聴き比べ。

●D・F=ディースカウ、G・ムーアの1968年EMIステレオ録音

ドイツ・リートの王様ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウはこの後、イェルク・デムスのピアノ伴奏でレーヴェの《バラード集》をグラモフォンに録音しており、そこで改めて<エドワルド>も入れ直している。とことん練り込まれた表現の精緻さでは、そちらの再録音に軍配が上がるだろう。しかし、当EMI盤も完成度は極めて高く、何よりここには、後年の録音では聞くことのできない声の太さと力強さがある。当ブログ主の判断としては、こちらを第一に採りたい。



●H・ホッター、G・ムーアの1957年EMI録音

重く暗い声で、劇的に歌われた名唱。当ブログ主が<エドワルド>に初めて触れたきっかけは他でもない、このハンス・ホッターが歌ったドイツ・リート集のCDだった。「父さんを殺したんだ」と告白するところなど、《指輪》のヴォータンさながらの凄い迫力。ピアノ伴奏は上のF=ディースカウ盤と同じ、名手ジェラルド・ムーア。



●B・ラクソン、D・ウィリソンの1978年ライヴ録音

イギリスのバリトン歌手ベンジャミン・ラクソンには、当ブログでかつてモンテヴェルディの歌劇<ウリッセの帰郷>を語った際に、一度登場してもらったことがある。レイモンド・レッパードの映像盤で、タイトル役のウリッセを演じていた人だ。声質はリリックで、イギリス民謡やクリスマス・キャロル、あるいはミュージカルの有名ナンバーなどを得意とする、(その気があれば)ポップス系のカントリー歌手になっていてもおかしくないような個性の持ち主である。そんな彼が、<エドワルド>では恐ろしい声と歌唱を聴かせる。ピアノ伴奏は、デイヴィッド・ウィリソンという人。激烈なエンディングは、一聴の価値あり。



●L・ティベット、S・ウィルの1932年モノラル録音

YouTubeサーフィン中に、ひょっこり発見した音源。日本語版Wikipediaによると、ローレンス・ティベットという歌手は、“第二次大戦前の時代に、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場を中心に活躍していた、カリフォルニア出身のアメリカ人バリトン”ということらしい。

この動画は歌唱自体にも聴き応えがあると同時に、オリジナルのスコットランド語が使われているというのが大きなポイント。スコットランド語はドイツ語とも英語とも異なる言語だが、歌詞が違和感なくレーヴェの音楽に馴染んでいる。また、歌に合わせて字幕が画面に出てくるので、話の流れをフォローしやすくなっているのも有り難い。そして、よく注意して聴いていると、所々で歌手が(原意を損ねない範囲で)微妙に言い回しを変えて歌っているのがわかる。1932年という太古の録音ではあるが、音質的な抵抗感はほとんどなく、往年の名歌手が遺した歴史的名唱をほぼ不満なく味わうことができる。ピアノ伴奏は、スチュワート・ウィルという人。



―今回は、これにて。
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