クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

冨田勲の訃報

2016年05月30日 | 演奏(家)を語る
先週の金曜日(2016年5月27日)、この5月5日に亡くなった冨田勲氏を追悼する番組がFMで流れた。平日昼間の放送だったので、例によってミニコンポで録音しておき、土日を利用して聴き通す形となった。作曲家の吉松隆氏が案内役を務め、冨田氏が生前行なっていた音楽活動の流れをほぼすべて網羅(あるいは俯瞰)するという、非常に充実した内容を持つ好番組だった。しかし何より、冨田氏自身が語る経験談(製作の裏話や、いろいろな有名人とのエピソード等)がたくさん聞けたのが、今回最大の収穫だった。

たとえば、NHK番組『新日本紀行』のテーマ曲に託された作曲者自身のイメージ。「静かに走る夜汽車のレールの音が、やがて、どこかの村祭りで耳にするようなリズムに聞こえてくる」。あるいは、アニメ『ジャングル大帝』の主題歌を巡る裏話。「歌い始めからいきなり、音が低音から高音へ1オクターブあまり跳躍するため、『こんな難しい歌いだしは、モーツァルトだってオペラで書いてない。これじゃ、ヒットしない』と、手塚さんがダメ出しをしてきた。でも、締め切りぎりぎりまで放っておいて、結局そのままでやらせてもらった」。それと、聴き覚えがあり過ぎて笑ってしまうほどお馴染みのNHK『きょうの料理』のテーマ曲。これはある日突然番組担当者がやって来て、大急ぎで書きあげさせられた“突貫工事”みたいな作品であったというお話。・・・いろいろ面白く聞かせていただいた。

『キャプテンウルトラ』の主題歌も、冨田氏の作だった(そうだったのか・・・知らなかった)。この作品、タイトルに「ウルトラ」とはついているけれども、円谷プロによる『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』等とは別の制作会社によるもので、いわゆる本家の(?)「ウルトラ・シリーズ」とは別物である。『キャプテンウルトラ』は昭和40年代前半、当ブログ主がまだ小学生だった頃の番組で、これは最終回まで見届けた記憶がない。確か途中から何となく飽きてきて、つまらなく感じてきたためだったと思う。懐かしく思い出すのは、当時の世相。それまでどこの家庭でも、TVといえば白黒画面なのが当たり前だった。それがちょうどこの『キャプテンウルトラ』放送の頃、カラーテレビなるものが登場し、お金持ちの家から順に(笑)普及し始めていたのだった。当時学校の休み時間などで、こんなやり取りが聞かれた。「キャプテンウルトラに出てくる悪者のバンデル星人って、子分はみんな緑色なんだけど、親分は茶色いんだよね。カラーテレビで見ると、よくわかるよ」。「へ~、うちは白黒だから、白っぽいバンデルと、ちょっと色の濃いバンデルがいるってぐらいしか、わかんないなあ」。当ブログ主は当然、後者のグループに属していた。w 

冨田氏がまさにパイオニアというか、trailblazerになったシンセサイザーを巡る体験談も面白かった。シンセサイザーは当時一般的には殆ど知られていなかったため、空港でそれが楽器であることを職員に理解してもらえず、数日間倉庫預かりとなってしまった上、やっと認められて機械を持ち出そうとしたら、その日まで保管していた分の倉庫料まで請求されたとか。何でもそうだが、新しいことを始める人はいろいろ大変な思いをするんだよなあと。また、シンセを使った作曲や編曲を始めてからも、それを音楽アルバムとして発売してくれるレコード会社がなく、一念発起してアメリカへ渡り、海外で先に評価をしてもらったというお話。作曲の才能だけでなく、こういう行動力というかヴァイタリティみたいなものは本当に凄いなと、氏には心からの敬意を感じる。

番組内では冨田氏と一緒に仕事をした人たちのインタビューもいくつか紹介され、故人の人となりが偲ばれるものとなった。バイクを乗り回すのが大好きだったこと(若い頃の小林亜星氏が後ろに乗せてもらったらしいのだが、相当怖い思いをしたとか)。作品の仕上がりに納得いかない箇所があると決して妥協せず、予算外の事でも自腹を切って人を頼み場所も確保して、その箇所だけやり直すほどの“完全主義者”であったこと。またそれでいて、話の端々に、「ま、どっちでもいいんだけどね」と急に力の抜けるような言葉を出したりもしたとか。

長い番組を聴き終えて当ブログ主が最も強く感じたのは、冨田氏の“永遠の青春性”みたいなものであった。次々と新しい企画、新しい音の世界を開拓し続け、何歳になっても決して現状にあぐらをかかない人だったことがよく伝わってきた。キャリア最後期の作となった<イーハトーヴ交響曲>ではなんと、ボーカロイドまで起用しているのである。斬新。感性が全く老けこんでいない。

番組の終わり間際に案内役の吉松氏が言った言葉、これが最後にちょっと胸に沁みた。

「冨田さん、本当にまだ亡くなったという感じがしなくて、本当につい最近に、『ちょっと、初音ミクと一緒に銀河の彼方まで行ってくるよ』と言って、ふと席を立たれただけのような気がしてなりません」。

【2019年4月27日 追記】

●手塚アニメ「ジャングル大帝」~『レオのうた』

上述の“手塚さんがダメ出しをしてきた、歌い出しの難しい主題歌”については、過去記事「冨田勲の世界」(2005年10月2日)に動画貼りをしたので、ここでは同番組のエンディング曲を。これは当時のレコードに収められていた物と、TVで放送された物では、歌詞が違っているようだ。当ブログ主にも馴染みがあるのは、こちら↓。TV放送版の方。懐。(※音量注意。再生側のボリュームを、やや控えめに。)



●TV番組「きょうの料理」のテーマ曲

こういう曲を、頼まれたときにすぐ思いついて書ける才能。敬服の一語。

コメント
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