今回のトピックは、デンマークの作曲家カール・ニールセン【※注1】の歌劇<仮面舞踏会>(1906年・初演)。思いっきり有名なヴェルディの同名悲劇とは対照的に、こちらは至ってお気楽なコメディ・オペラである。
【※注1】 今回は<グアラニー>からのしりとりという形で、ニールセンと表記したが、この作曲家の名前はニルセンとつめて発音した方が原語に近いみたいなことを、どこかで読んだことがある。NHKも、ニルセンの方を採用しているようだ。ちなみに日本語版・ウィキペディアによると、ネルセンという表記もあるらしい。一応、参考までに。なお、これから並べるあらすじは、ウルフ・シルマーの指揮によるデッカの輸入盤CDに付いている解説書の英文を当ブログ主が抄訳したものなので、人物名等のカタカナ表記については必ずしも正確さを保証できるものではない。その点はどうか、悪しからず。
―ニールセンの歌劇<仮面舞踏会>のあらすじ
〔 第1幕 〕
舞台は、コペンハーゲン。1723年の春。若者レアンダー(T)と家来のヘンリク(Bar)が、午後5時にのんびりと目を覚ます。前の晩に参加した仮面舞踏会の興奮も冷めやらず、「今夜もまた、行くお」と、レアンダーは再び出かける構えで気もそぞろ。と言うのも、彼はそこで出会った娘と恋に落ちてしまったのである。しかし、ヘンリクは「あなたはお父様の手配どおり、レナード卿のご息女と結婚することになっております。その縁談を破棄するとなると、法的にいろいろと面倒なことになりますから」と、恋する男に注意を促す。そこへレアンダーの母マグデローネ(Ms)が現れ、彼女もまた仮面舞踏会に興味津々であることを打ち明ける。「私だって、踊りはまだまだ現役ですよ」。
(※内容が楽しいコメディということもあって、このオペラの序曲はさすがに華やか。しかしやはり、書いたのはカール・ニールセン。どこか仄暗く、重厚な響きを持った音楽で、北欧の交響曲作家の面目躍如といった感じの一曲になっている。一方、マグデローネがうきうきしながら歌う場面で聞かれるメヌエットの音楽は、思いがけず軽やか。)
続いて、レアンダーの父イエロニムス(B)が登場。「お前たちが仮面舞踏会へ行くのは、許さん」と、彼は一同に禁止令を出す。そして、息子がいまだにレナード卿のところに挨拶しに行っておらず、それどころか舞踏会で出会った見知らぬ娘に入れ込んでいるという話を聞くや、彼は怒り心頭。「何が仮面舞踏会だ。持つべき公共心も持っておらんのか」。するとそこへ、当のレナード卿(T)がやって来る。彼は何やら申し訳なさそうに、イエロニムスに話しかける。「実は、うちの娘が、貴殿のご子息との縁談に乗り気ではありませんで・・。ええ、なんでも、仮面舞踏会で出会った若者と恋に落ちてしまったなどと申しまして」。(←いきなりオチが見えてしまった方、しばらくご辛抱を。w )
(※ここで登場する厳格親父のイエロニムス。この人こそ、ドラマの原動力だ。ちょうど、モーツァルトの<後宮>に出てくるオスミンを思わせるような存在感がある。なお、今回参照しているデッカ盤は、そのイエロニムスを歌うオーゲ・ハウグランドの他、レアンダーを歌うゲルト=ヘニング・イェンセン、ヘンリクを歌うボー・スコウフスら、出演者が皆、お国もののオペラを楽しく演じている様子がCDを通じた音声だけでもよく伝わってくる。ウルフ・シルマーが指揮するデンマーク国立放送響&合唱団による演奏も、これまた優秀な出来栄えと言ってよいと思う。)
イエロニムスは召使のアーヴ(T)を呼び、「今夜は誰も出かけたりしないように、よく見張っておれ」と命じる。ヘンリクは仮面舞踏会の意義を熱心に語るが、そんな話にさっぱり感心しない様子のイエロニムスは、「レナード卿によくお詫びし、明日の3時、そちらの娘さんとお前は結納を交わすのだ」とレアンダーに言いつける。レアンダーの方は勿論、拒否。家来のヘンリクともども、自分たちが楽しむ権利を主張する。父子の主張は、かくして平行線。レナード卿もイエロニムスに賛同している様子を見せるが、内心では彼も、「仮面舞踏会には、行ってみたいのう」と思っている。
(※召使のアーヴというテノール役は、いわゆる“いじくられキャラ”として、あちこちで笑いのネタを提供してくれる。主人のイエロニムスと並ぶ重要?キャラクターの一人だ。w なお、この第1幕を締めくくるのは、畳み込むようなリズムによる快速アンサンブル。で、このあたりがまたニールセンらしいというか、音楽の充実ぶりがオペラティックというよりむしろ、シンフォニック。)
〔 第2幕 〕
その日の夜。夜警(B)が8時を告げて、通り過ぎる。アーヴが主人の指示通り、屋敷の見張りに立っている。迷信深い彼は、悪霊から身を守ろうと賛美歌を口ずさむ。そこへ幽霊の扮装をしたヘンリクが現れ、彼を仰天させる。「今までに犯した罪を告白せよ」と幽霊に迫られたアーヴはすっかり怯え、しょうもない懺悔(ざんげ)を始める。「台所で、私はこれまでにいろいろな物を失敬してまいりました。はい、食べ物から何から、いろいろ。そこで働いているメイドの処女も、いただいちゃったし」。大笑いのヘンリクはそこで素顔を見せ、「俺とレアンダーを屋敷から出させてくれたら、お前の秘密は絶対内緒にしといてやるよ」と、アーヴに持ちかける。学生たち、兵士たち、そして若い娘たちが揃って通りかかる。彼らの行く先は勿論、舞踏会が催されるプレイハウス。その中にはレナード卿も混じっていたが、彼はアーヴに気づくや、「これから、家に帰るところですわ」と嘘をつく。
その後、首尾よく屋敷を抜け出したレアンダーとヘンリクは、仮装して輿(こし)に乗った二人の若い女性と道で遭遇。そのうちの一人は他でもない、レアンダーと昨夜恋に落ちた娘である。で、もう一人は、彼女の侍女であるペルニッレ。そこからは四人揃っての道行となり、向かうは勿論プレイハウス。しかし、その頃、レアンダーの屋敷では大騒ぎとなっていた。若い二人が抜け出したことを知ったイエロニムスが、怒り狂って収まらないのである。
―この続き、オペラの後半部分の展開については、次回・・。
【※注1】 今回は<グアラニー>からのしりとりという形で、ニールセンと表記したが、この作曲家の名前はニルセンとつめて発音した方が原語に近いみたいなことを、どこかで読んだことがある。NHKも、ニルセンの方を採用しているようだ。ちなみに日本語版・ウィキペディアによると、ネルセンという表記もあるらしい。一応、参考までに。なお、これから並べるあらすじは、ウルフ・シルマーの指揮によるデッカの輸入盤CDに付いている解説書の英文を当ブログ主が抄訳したものなので、人物名等のカタカナ表記については必ずしも正確さを保証できるものではない。その点はどうか、悪しからず。
―ニールセンの歌劇<仮面舞踏会>のあらすじ
〔 第1幕 〕
舞台は、コペンハーゲン。1723年の春。若者レアンダー(T)と家来のヘンリク(Bar)が、午後5時にのんびりと目を覚ます。前の晩に参加した仮面舞踏会の興奮も冷めやらず、「今夜もまた、行くお」と、レアンダーは再び出かける構えで気もそぞろ。と言うのも、彼はそこで出会った娘と恋に落ちてしまったのである。しかし、ヘンリクは「あなたはお父様の手配どおり、レナード卿のご息女と結婚することになっております。その縁談を破棄するとなると、法的にいろいろと面倒なことになりますから」と、恋する男に注意を促す。そこへレアンダーの母マグデローネ(Ms)が現れ、彼女もまた仮面舞踏会に興味津々であることを打ち明ける。「私だって、踊りはまだまだ現役ですよ」。
(※内容が楽しいコメディということもあって、このオペラの序曲はさすがに華やか。しかしやはり、書いたのはカール・ニールセン。どこか仄暗く、重厚な響きを持った音楽で、北欧の交響曲作家の面目躍如といった感じの一曲になっている。一方、マグデローネがうきうきしながら歌う場面で聞かれるメヌエットの音楽は、思いがけず軽やか。)
続いて、レアンダーの父イエロニムス(B)が登場。「お前たちが仮面舞踏会へ行くのは、許さん」と、彼は一同に禁止令を出す。そして、息子がいまだにレナード卿のところに挨拶しに行っておらず、それどころか舞踏会で出会った見知らぬ娘に入れ込んでいるという話を聞くや、彼は怒り心頭。「何が仮面舞踏会だ。持つべき公共心も持っておらんのか」。するとそこへ、当のレナード卿(T)がやって来る。彼は何やら申し訳なさそうに、イエロニムスに話しかける。「実は、うちの娘が、貴殿のご子息との縁談に乗り気ではありませんで・・。ええ、なんでも、仮面舞踏会で出会った若者と恋に落ちてしまったなどと申しまして」。(←いきなりオチが見えてしまった方、しばらくご辛抱を。w )
(※ここで登場する厳格親父のイエロニムス。この人こそ、ドラマの原動力だ。ちょうど、モーツァルトの<後宮>に出てくるオスミンを思わせるような存在感がある。なお、今回参照しているデッカ盤は、そのイエロニムスを歌うオーゲ・ハウグランドの他、レアンダーを歌うゲルト=ヘニング・イェンセン、ヘンリクを歌うボー・スコウフスら、出演者が皆、お国もののオペラを楽しく演じている様子がCDを通じた音声だけでもよく伝わってくる。ウルフ・シルマーが指揮するデンマーク国立放送響&合唱団による演奏も、これまた優秀な出来栄えと言ってよいと思う。)
イエロニムスは召使のアーヴ(T)を呼び、「今夜は誰も出かけたりしないように、よく見張っておれ」と命じる。ヘンリクは仮面舞踏会の意義を熱心に語るが、そんな話にさっぱり感心しない様子のイエロニムスは、「レナード卿によくお詫びし、明日の3時、そちらの娘さんとお前は結納を交わすのだ」とレアンダーに言いつける。レアンダーの方は勿論、拒否。家来のヘンリクともども、自分たちが楽しむ権利を主張する。父子の主張は、かくして平行線。レナード卿もイエロニムスに賛同している様子を見せるが、内心では彼も、「仮面舞踏会には、行ってみたいのう」と思っている。
(※召使のアーヴというテノール役は、いわゆる“いじくられキャラ”として、あちこちで笑いのネタを提供してくれる。主人のイエロニムスと並ぶ重要?キャラクターの一人だ。w なお、この第1幕を締めくくるのは、畳み込むようなリズムによる快速アンサンブル。で、このあたりがまたニールセンらしいというか、音楽の充実ぶりがオペラティックというよりむしろ、シンフォニック。)
〔 第2幕 〕
その日の夜。夜警(B)が8時を告げて、通り過ぎる。アーヴが主人の指示通り、屋敷の見張りに立っている。迷信深い彼は、悪霊から身を守ろうと賛美歌を口ずさむ。そこへ幽霊の扮装をしたヘンリクが現れ、彼を仰天させる。「今までに犯した罪を告白せよ」と幽霊に迫られたアーヴはすっかり怯え、しょうもない懺悔(ざんげ)を始める。「台所で、私はこれまでにいろいろな物を失敬してまいりました。はい、食べ物から何から、いろいろ。そこで働いているメイドの処女も、いただいちゃったし」。大笑いのヘンリクはそこで素顔を見せ、「俺とレアンダーを屋敷から出させてくれたら、お前の秘密は絶対内緒にしといてやるよ」と、アーヴに持ちかける。学生たち、兵士たち、そして若い娘たちが揃って通りかかる。彼らの行く先は勿論、舞踏会が催されるプレイハウス。その中にはレナード卿も混じっていたが、彼はアーヴに気づくや、「これから、家に帰るところですわ」と嘘をつく。
その後、首尾よく屋敷を抜け出したレアンダーとヘンリクは、仮装して輿(こし)に乗った二人の若い女性と道で遭遇。そのうちの一人は他でもない、レアンダーと昨夜恋に落ちた娘である。で、もう一人は、彼女の侍女であるペルニッレ。そこからは四人揃っての道行となり、向かうは勿論プレイハウス。しかし、その頃、レアンダーの屋敷では大騒ぎとなっていた。若い二人が抜け出したことを知ったイエロニムスが、怒り狂って収まらないのである。
―この続き、オペラの後半部分の展開については、次回・・。