クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

FM番組『20世紀の名演奏』終了

2010年03月30日 | エトセトラ
3月は毎年、何かが終わったり、あるいは区切りがついたりする年度替わりの月だが、当ブログでこのところずっと題材にさせてもらっていたNHKのFM番組『20世紀の名演奏』もまた、去る3月28日(日)の放送をもって約17年の歴史に幕を下ろした。故・黒田恭一氏が1993年の番組開始から昨2009年までずっと案内役を務めてこられて、始まりと終わりの挨拶などはファンの間ですっかりおなじみの“お約束パターン”になっていた。「『20世紀の名演奏』では、少し前の時代に行なわれた演奏に耳を傾けながら、現代の私たちに問いかける意味を探っておりますが・・・」「時間がまいりました。今日はこの辺で失礼いたしますが、どうぞ毎日をお気持ちさわやかに、お過ごしくださいますよう。黒田恭一でした」。(※当ブログでもかつて、「迷指揮者・不能芳香のひとりごと」第2回で、その一部をパロディにさせていただいた。)

しかし、実を言うと私の場合、それほど熱心なリスナーだったわけではない。番組を聴いた回数よりも、聴かなかった回数の方が圧倒的に多い。が、「名前は知っていたけど、その演奏をまだ聴いたことがなかった人」とか、「なじみの演奏家だけど、今日放送されるのはまだ聴いたことがないやつ」なんてのがあったりすると、結構楽しみな気分でコンポの前に向かったものである。具体的な例で一つ今思い出されるのが、年末ほとんど恒例になっていた「ベートーヴェンの第9」シリーズだ。毎年12月になると必ずどこかの週で1回、黒田氏の選定によるユニークな第9演奏が紹介されていた。バーンスタインのソニー時代の録音とか、モントゥーが指揮した初期ステレオ音源など、この番組で初めて聴けた演奏も少なくない。実のところ、それらの録音は私にとって、「存在は勿論知っていたけど、敢えてCDなどを買う気にまではならなかった物」である。そういうのがラジオで聴けたのは、金銭的な意味でも非常に有り難いことであった。(笑)

逆にこの番組を聴いてその演奏が気に入り、該当するCDを買う気になった例もある。先ごろ当ブログで記事にしたオーマンディの<展覧会の絵>(ソニー盤)も、その一つである。国内廉価盤で、R=コルサコフの<シェヘラザード>と組み合わされた1枚だ。つい最近のことだが、このCD、買ってよかった。思っていたよりも、はるかに音が良い。FMラジオで聴いたときとは比較にならないような、響きとニュアンスの豊かさが伝わってきた。そして何より、演奏家の情熱と覇気。何か久しぶりに、オーケストラ演奏を初心者時代に帰ったような気分で屈託なく楽しむことができた。

他にもよく知られた名曲について、思いがけない人の凄い名演に出会ったこともある。代表的な例を一つ挙げるなら、ヨハンナ・マルツィとフェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団の共演によるドヴォルザークの<ヴァイオリン協奏曲>。当日エアチェックしたMDに2008年6月22日(日)とメモしてあり、演奏終了後「入魂の名演でした」という黒田氏のコメントが録音されているので、間違いなくこの番組である。濃厚な音と情熱的な表現で聴く者を圧倒し続けるヴァイオリン・ソロ、そしてそれを熱い共感で支える充実しきったオーケストラ。1953年のモノラル録音ながら、内容はもう絶品と言ってもいいぐらいの名演だった。

番組が終わった後すぐに、ネット通販サイトを複数当たってみたのだが、この演奏のCDは何故か当時見つからなかった。かわりにメンデルスゾーンとブラームスのコンチェルトを1枚に収めたものが見つかったので、それを買ったのだった。残念ながら、その2曲の演奏は決して悪いものではなかったのだが、ドヴォルザークの名演に匹敵するほどの感銘を与えてはくれなかった。今回の記事を書くにあたって、先ほど改めてネット通販サイトを検索してみたら、マルツィ&フリッチャイのドヴォルザークは現在国内盤CDが出ているようである。いわゆるレギュラー価格で、いつも廉価盤や輸入盤を中心に買っている私にはちょっとお高い印象だ。とりあえずは、当時のエアチェックMD(黒田氏の声入りプレミアムw )で我慢しておくことにしようと思う。この種の名演との出会い、あるいは発掘があったのもまた、『20世紀の名演奏』が持っていた魅力の一つであった。

―というわけで、同番組はこの3月いっぱいで終了となったが、有り難いことに、来週から同じ日曜日の同じ時間帯に、ほぼ同じような趣旨の新番組が始まるようである。番組名は、『名演奏ライブラリー』。司会は引き続き、諸石幸生氏。で、第1回となる4月4日(日)の放送は、ラフマニノフの自作自演録音を中心にしたものになるらしい。ストコフスキー&フィラデルフィア管との共演による<ピアノ協奏曲第2番>、オーマンディ&フィラデルフィア管との共演による<ピアノ協奏曲第3番>、その他ピアニストとしてのラフマニノフに焦点を当てた企画だ。なお諸石氏によると、「新しい番組では20世紀の名演奏に限らず、21世紀に入ってからの演奏も採りあげていく予定」とのことなので、これからいろいろな物が出てくるものと期待してみたいと思う。
コメント (2)
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