クラシック音楽オデュッセイア

2009年の大病以来、月1回程度の更新ペース。クラシックに限らず、身の回りの事なども、気の向くままに書いております。

2011年7月・近況、クレンペラーのマーラー

2011年07月30日 | エトセトラ
2011年7月24日(日)、TVのアナログ放送が終了した。アナログ電波さん、長いことお疲れさまでした(笑)。

さて、今月聴いたCDの中で話題にできそうなのは、オットー・クレンペラー博士のEMIマーラー録音かなと思う。何ヵ月か前にFMで流れた交響曲第7番<夜の歌>の演奏をMDに録音し、それから日数がかなり経ってから聴いたという形なのだが、その終楽章のトンデモ演奏ぶりにちょっと笑わせてもらったのだった。2ちゃんねる風の書き方をするなら、「おっおっ、くれそぺら先生、ワロスwww」という感じだろうか。第1楽章からずっと、いかにも巨匠らしい重厚でどっしりとした音楽が展開されていくのだが、あの終楽章の“変てこ”ぶりはちょっとただ事ではない。<夜の歌>の終楽章で聴かれるオーケストラの躁状態的高揚はもっと拡散的、というか、開放的なサウンドの中で生きてくるものというイメージが私などにはあるのだが、くれそぺら博士の演奏はあまりにも重厚過ぎてリズムなど全然弾まず、まるでフレンチカンカンの練習をしているアフリカ象のような愛すべき嬌態を晒しているのだ。しかし、それも繰り返し聴くと、ちゃんと説得力を帯びたものに感じられてくるから面白い。「ひたすら変なんだけど、全体を通した中では、それが正解になるんでしょうね」と、こちらをうなずかせるだけの妙な力があるのだ。

そんな体験から、今月新たに買ったCDは、交響曲第2番<復活>(24ビット・国内盤)と<第9番>(ARTリマスター・輸入盤)の2点。まずは第2番<復活>の方だが、晩年のクレンペラー博士にしては意想外に速いテンポがとられていることにちょっと驚く。(※と言っても、これは別に例外的なものではない。たとえばモーツァルトの<交響曲第25番>などでも、博士は相当スピーディな名演を録音に遺している。)どっしりとした重心の低い響き、そして堅牢な構成感はいつもながらといった感じなのだが、音楽はもたれることなく、快速テンポでぐんぐん進んでいく。2人の女性歌手にはあまり魅力が感じられないが、巨匠の名指揮によって実に含蓄の深い音楽を堪能させてもらうことができる。(※ところで、この演奏のCDをお持ちの方はお気づきの事と思うが、第5楽章の途中で一箇所、音楽が止まりそうなぐらいの超スロー・テンポに落ち込む場面がある。これには少なからず戸惑うが、あの異常な減速はいったい何を意味するのだろう・・。)

もう1つの<第9番>は、演奏全体の設計にユニークなものを感じた。第1、第4の両端楽章は速めのテンポ。逆に、間の第2、第3楽章は非常に遅い。特に第2楽章は、“トンデモ”レベルの遅さである。普通はむしろ逆であろう。この曲のエッセンスは何よりも第1、第4楽章にあり、間の2楽章よりも両端楽章をじっくり聴かせることが作品を生かす基本と考えられるからだ。(※それを極めたのが、バーンスタイン晩年のコンセルトヘボウ・ライヴということになろうかと思う。)クレンペラー博士のやり方は、逆である。間の2つの楽章が両端楽章以上に重くて濃密なのだ。とりわけ第2楽章の充実度は類を見ないもので、この超絶スロー・テンポだからこそ、曲に内蔵されたあらゆる響きと意味がえぐり出されたんだろうなと思わせる。

ここを聴きながら私はふと、同じ巨匠の指揮による<大地の歌>(EMI録音)の第3楽章を思い出した。クレンペラーの<大地の歌>について宇野功芳氏は、「この作品が持つ管弦楽の色彩の魅力を、ちゃんと描き出していない」と基本的には低評価を与えているものの、第3楽章のみ、「極めて遅いテンポをとって、曲の魅力を描き切った名演」と絶賛しておられた。その宇野氏の褒め言葉が、そのままこの<第9番>第2楽章への評価にも使えそうな気がする。(※ちなみに、私がこの演奏をLP及び初期CDで聴いていた頃は、指揮者のクレンペラーよりもテノール独唱のフリッツ・ヴンダーリッヒに入れ込んでいて、彼の歌声にばかり意識が向いていたものだった。新しいリマスター盤でこの演奏を今聴き直したら、どんな感想を持つことになるだろうか。)

いずれにしても、こういった演奏家の個性というのは本当に聴いていて味わい深く、且つ楽しいものである。一見変であったり、妙にユニークであったりしても、そこに独自の説得力がある。このような演奏家を、私は高く買う。だからコンヴィチュニーとかハイティンクとか、最近ではウェルザー・メストとかいった指揮者たちを私が一定のレベル以上に評価できないのは、極めて当たり前の結果なのである。今年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートで演奏された曲目をいくつか、先日ラジオで聴くことができたけれども、まあ、つまらなかったこと!

―今回は、これにて・・。
コメント (2)
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